カブトムシ大作戦 5
「はい。オーシャンとヴォルケーノにも通達をしましたから、あちらからの連絡待ちです」
「早く早く」と急かす子供たちに、私の「贈り物にお手紙を添えたらどう?」との宥めるための提案に頷いて、それでもまだまだ早い7時にアルゴス君とマルケス君が率いるカブトムシ捕獲隊はディーバさんの部屋を急襲していた。幸いな事に起きて軽く書類整理をしていた彼は直ぐ様アルゴス君とマルケス君の頼みを快く聞いてくれた。転送の魔方陣のある部屋に移動し、いきなり送り付けるのはマナー違反だと子供たちに教えながら連絡をとってくれた。
「ありがとう。ディーバ。皆、喜んでくれると良いな」
「そうだよね〜。でも、シュリみたいに虫はイヤンって子も居るんだよね〜」
「あ!!」
それこそ、今気付いたらしい子供たちは目を丸くして顔を見合わせた後に、がっくりと頭を下げた。チラリとランティスさんたちの持つ、自分達が厳選した各十組のカブトムシとクワガタを見る。合計二十組の甲虫は均等にオーシャンとヴォルケーノにいく予定だ。
「キャーって言われたらどうしよ」
「泣かせるつもりはないもんねぇ」
しょんぼりとする子供たちの頭を優しく撫でていると始祖様があっけらかんと告げる。
「大丈夫だろ。要らないなら要らないって返事来るだろ」
「「そっか。なら良いね」」
「え?良いの?」と思ってしまったのは私だけではなさそうだが、ニコニコと機嫌を直して笑う子供たちに否やはない。
「マンティス、カブトムシとクワガタの長生きの秘密兵器、ある?」
「あげてすぐ死んじゃったら可哀想だよ〜」
確かに、転送で負荷がかかったり飼い方が分からないならば、贈られた次の日に甲虫が死んでしまう可能性もある。それを懸念する子供たちに、マンティスさんは小さく笑った。
「大丈夫です。餌や飼育小屋などお世話のしかたはこちらに記入してあります。アレスに複製してもらったこれを一緒に入れれば良いのです」
「「わ〜」」
アルゴス君もマルケス君も目を丸くしながらもみるみる笑顔になる。
「マンティス、本当にありがとう」
「アレス、ありがとう〜。僕たちのもある?」
「凄いすごい」と言い合いながら飼い方指南書をちょっぴりうらやましそうに見つめる子供たちにマンティスさんとアレスさんが微笑んだ。
「はい。ございます」
「「ありがとう〜」」
感極まったアルゴス君とマルケス君が、アレスさんとマンティスさんに抱き付く。
「アルゴス様、マルケス様、両国とも快く受け入れて下さるそうですよ」
「今!!今すぐあげて!!」
「飼い方の秘密兵器と僕たちからのお手紙も入れてね?」
抱き付いてさりげなくマーキングしている子供たちの念を押す言葉に、ディーバさんは微笑みながら魔方陣に向かう。そこに贈り物をセットすると、微かな光を残して各国へと転送される。
「はい。では……。これで贈られましたよ」
「喜んでくれると良いな」
「ね〜」
ニコニコ笑顔が願わくば、オーシャンとヴォルケーノの子供たちにも伝わると良いなと漠然と思った。