カブトムシ大作戦 2
徐々に明るくなる中、森といって差し支えないそこをカブトムシ捕獲隊の私たちが進む。「いっぱい居たら困るから、いっぱい入る、おっきい虫籠を持ってきてね」と言われていたらしいランティスさんとラムセスさんは、「それは大きすぎるだろう」と突っ込みたくなるような、言わば飼育小屋といった様相のものを背負っていた。勿論、子供たちは自分達で持ち歩きたいと相応の小さな虫籠を斜めがけにしている。
「カブトムシ、いっぱいいるかな?」
「いっぱい居ると良いね〜」
私の右手を繋いだアルゴス君と、左手を繋いだマルケス君が秘密兵器をしかけた場所へと案内してくれる為に引っ張るように歩きながらニコニコ笑っている。
「こんなに大きな虫籠二つ分も居るなら、お世話しきれないんじゃない?」
ランティスさんとラムセスさんの背負う虫籠を見て苦笑しながら私が言えば、
「大丈夫!!俺たちだけのじゃないから」
「そうだよね〜。独り占めしないよ?皆のもあるから、大丈夫だよ〜」
自信満々に間髪入れずに子供たちが返してきた。
いや、うん。でも、私たちが貰ってもまだまだって言うか……。
子供たちの期待に満ちた視線を前に否定的な発言は言わないが、「張り切りすぎでしょう?」とラムセスさんとランティスさんに言いたくなるくらいには二人の背負う小屋は大きいのだ。おそらく、アルゴス君とマルケス君が一つに一人づつ立ったまま入れる。子供たちとムキムキな男性二人は嬉しそうに笑いあっているが、帰りにアルゴス君とマルケス君が小屋に入って背負われる事態にならなければ良いなと悪い方向に考えてしまう。
「俺が3つに塗って〜」
「僕は二つの樹に塗ったんだ〜」
私の懸念に気付かずに、アルゴス君とマルケス君は教えてくれる。
「いっぱい秘密兵器作ったんだね?」
「はい!!だって、一匹とか二匹とかしか居なかったらしょんぼりだろ?」
「だから、臭かったけど頑張って作って、いっぱい塗ったの〜」
自分のモヤモヤを振り払う為ににっこりと笑って問うと、アルゴス君はちょっぴりしょんぼりしながら、マルケス君は秘密兵器がどれだけ臭かったのかを語ってくれた。確かに、自分の幼い頃に父親が作ってくれたカブトムシ集めの秘密兵器も焼酎やら日本酒やらの酒と蜂蜜やパイナップルジュースなどの糖類を混ぜ合わせた、とんでもなく臭いものだったなと思い出す。
あ〜。待ちきれなくて「昼は行くな」って言われたのに行って、スズメバチと遭遇したんだっけか。
幸いな事に、彼らの攻撃範囲に辛うじて入っていなかった事と、淡い色の服を着ていた為に、刺されたり追いかけられたりはしなかったが、独特の羽音とスズメバチと認識した時の恐怖は今でも忘れない。
「クワガタも居ると良いですね」
「「お〜」」
私が恐怖体験を思い出していると、アレスさんににこやかな声で言われた子供たちが嬉しそうに勇ましく返した。
「「マンティス、秘密兵器にクワガタも来る?」」
「はい。どちらも来る場合もありますし、またどちらかだけ、蛾や黄金虫だけの時もあります」
「「あ〜」」
秘密兵器提案者のマンティスさんにさっくりと返された子供たちは、まさかの収穫ゼロになる可能性は微塵も考えていなかったらしく、残念そうなうめき声をあげた。
「両方、来ないのか〜」
「大丈夫だよ。アルゴス。僕たち、頑張ったもん。カブトムシこなかったら黄金虫でも良いじゃない。明日、また、早起きすれば良いんだもん」
見ているこちらが切なくなるほどにがっかりしているアルゴス君を誰よりも早くフォローしたのはマルケス君だった。
「そっか。お楽しみは後にとっとくんだな」
「うん」
ふんわりと微笑んでいるマルケス君をじっと見つめた後、ニッと笑ったアルゴス君はうなずき返され、納得したようで、再び私を元気よく誘導してくれた。