使者団との晩餐 5
アレスさんがトンと軽く賊に触れるだけで芋虫となる様子に、ただただ私たちが見惚れている間に彼は唐突に動きを止めた。10以上はあるだろう芋虫を見えない何かで一纏めにしたアレスさんがこちらに向き直る。
「驚かしてすみませんでした」
すまなそうに頭を下げるアレスさんに子供たちと共に音がしそうなほどに激しく首を左右に振った。
「凄い!!アレス、カッコいい〜!!」
「凄い凄〜い!!」
子供たちが絶賛していると、異変を感じたのか兵士さんたちが駆け寄ってきた。異変にはすぐに駆け付けてくれるイメージがあったので、兵士の到着は遅く感じてしまった。
いや!!わかってるんです!!私の理不尽な八つ当たりだって!!でも、私にはなにもできない分、アルゴス君とマルケス君に何かあったらどうすんのって……、ごめんなさい。
自分に出来ないからこその八つ当たりに、自己嫌悪に陥る。あまりの不甲斐なさにソルゴスさんにお願いして、子供たちを抱いて少しでも逃げれられるように鍛えてもらおうと決意する。
「これらは私たち以外の人避けの結界を敷いた上で魔術で隠れていました。何もかも判りません。後はお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
淡々と事情説明するアレスさんの言葉に、気になる単語がいくつか出てきた。「自分たち以外の人避けの結界」と「魔術で隠れていた」と言う二点だ。賊は初めから私たちを狙っていたという証しになるのだろうが、子供たち、アレスさん、私の誰を狙ったのか?又は全員の拿捕が目的だったのか?何故狙われたのか?疑問は多いが、考えれば考えるほどどつぼにはまりそうだ。悶々としている間に、拘束された賊を手際よく兵士さんたちが引き立てていく。
「スタンダードな拘束魔法を使用しました。解術魔法も捻りはありません」
「はい。ありがとうございました」
アレスさんに敬礼した兵士さんに向かって、子供たちも神妙な顔をして続いた。微笑ましいと思ったのか、兵士さんは柔らかい表情でアルゴス君とマルケス君に敬礼してから立ち去った。
「アレス!!害虫だけじゃないんだ!!」
「凄い凄い!!僕たちも頑張ってお勉強すればアレスみたいになる!?」
ふんふんと鼻息荒くつめよったアルゴス君とマルケス君に視線を合わせるためにしゃがみこむアレスさんの首に、子供たちは嬉しそうに抱きついた。
「そうですね。色んなお勉強をして、なんでも食べて、早寝早起きすれば出来るようになるかもしれません」
「「お〜」」
何かが違うんじゃないか?と思うものもあったが、「アレス凄い!!」と興奮している子供たちは素直に頷いている。
「魔術はマルケスに負けるから、俺は武術で頑張る!!」
「僕は武術はちょっぴり苦手だから、魔術で頑張る〜!!」
「はい。頑張って下さい」
微笑むアレスさんに決意表明した子供たちはハッと表情を引き締めた。
「あ!!魔術も頑張るぞ?なんでもやらなきゃだめなんだもんな」
「そうだね。僕も武術訓練、頑張る〜」
再び宣言した子供たちに続いて私はアレスさんに頭を下げた。
「ありがとうございました。私だけだと子供たちを守る事など出来ませんでした。それに、綺麗な動きで見惚れてしまいました」
「礼には及びません。出来ることを出来る者がするのは当然です。私は魔術と体術を扱えますがミーナの生み出すものたちを作ることは出来ません」
廊下だからだろう。オブラートに包みつつも、「適材適所だから気にするな」と言ってくれたアレスさんに、感謝の意味をこめて再び頭を下げた。