使者団との晩餐 4
ちょっぴりアルゴス君が泣きそうになった以外はさしたる問題もなく晩餐は無事に終了した。強いて言うなら、タルトの美味しさにハマったオーシャン組の方々が終了してから、料理人のジルさんとルッツォさんを取り囲み、「ぜひ我国でも腕を奮って下さい」と懇願する一幕はあったくらいか。
「今日は私がボディーガードすることになりました」
「ボデーガードってなんだ?」
「僕たちについてくれてる人とは違うの〜?」
子供部屋に行こうとする私たちに、にこやかに声をかけてくれたアレスさんに、子供たちが不思議そうに首を傾げた。
「アルゴス様とマルケス様のお世話をするために居るのではなく、いつでも笑っていてくださるために私が守るのです」
「「ん〜?」」
アレスさんの言い回しが難しかったのか首を傾げる子供たちに、「自分たちで考えてごらん」とばかりにアレスさんも私も微笑んでいると、意図を察したのか、二人でむむと考え込んでいる。
「わかった!!アレスは害虫くぞが得意だから、蜂とか蚊とかが来たらやっつけてくれるんだな?」
「わ〜。ありがとう〜。僕ね〜、蜂はちょっぴり嫌いなんだ〜」
前に「害虫駆除が得意だ」と彼が言ったことと「守るために居る」との言葉に、「嫌な虫を退治してくれるんだな」と解釈したらしい子供たちは嬉しそうにアレスさんに抱きついた。「違います」と言えないアレスさんは、ちょっぴり苦笑いになりながらも子供たちの好きにさせていた。
だが、前方の何もない空間をギッと鋭く睨むと、視線をそのままに口を開いた。
「アルゴス様、マルケス様、私が良いと言うまでママにカブトムシのように引っ付いていて下さいね」
「カブトムシみたく?面白そう!!」
「ね〜。ママ、僕たち、カブトムシになるよ〜」
何かの遊びと思ったのか、子供たちが嬉しそうに私にしがみついてきた。
「ミーナ、この場にしゃがんで私が良いと言うまで、動かないで下さい」
「はい」
状況は分からないながらも指示に従い、その場にしゃがみ、アルゴス君とマルケス君を胸に抱き直した。アレスさんは私たちにチラリと視線を移し、にこりと微笑んで見せる。
「ありがとうございます。 さて、さっさと出てきてもらおうか」
「出ないか。なら、こちらから行くぞ」
アレスさんが宣告すると同時に音もなく動き、何かに向かって手を閃かせた。
「ぎゃ!?」
男性の戸惑う声が聞こえた瞬間、何もなかった空間からマジックのように人が転がり出てきた。しかもその人は見えない何かに拘束されて芋虫のように蠢いている。ディーバさんがシュリさんを諌めた時と同じように、魔術で拘束しているのかもしれない。
「ひょ〜」
「わ!?」
アルゴス君とマルケス君と私が目を真ん丸にしている間にも芋虫の数は増えていく。アレスさんの踊るような動きに加え、キラリキラリと閃く手に、非常事態だと分かっているはずなのに、戦闘などではなく、演舞を観ているような気分になってきた。
「「綺麗〜」」
それは子供たちも同様だったらしく、言い付け通り、カブトムシごっこをしながらうっとりとアレスさんの動きに見いっている。