使者団との晩餐 3
子供用にかなり量は少なめになっているとはいえ、フライもサラダもスープもパンもペロリと食べたアルゴス君とマルケス君の前には、デザートとなる、コンポートを使ったプチタルトが並んでいる。
「皿に皿?」
「綺麗〜。ピカピカしてる〜」
タルトカップを見て首を傾げるアルゴス君と、乗っているコンポートに着目してうっとりとしているマルケス君。
「「ディーバ。これなぁに?」」
「小麦粉と卵とバターと砂糖で作ったカップに甘く煮た果物のコンポートと、卵とバターと小麦粉と牛乳と砂糖で作ったクリームを入れた、タルトと言うお菓子です」
「タルト。この茶色は皿じゃないのか〜」
「お皿みたいだよね〜」
ふむふむと頷くアルゴス君と、可愛いや綺麗が大好きなマルケス君は、自分たちに注目する大人たちの視線に気付いたのか、にっこりと微笑んでみせた。マナーとしては、主賓やホスト側のどちらかの目上、もしくは地位の上の者が口にしてから食べるのが当然なのだが、フォレスト組はともかくとして、オーシャン組は、見たことの無い料理の数々に、どうやら子供たちの様子を見てから食べるようにしているらしい。王様もサンタクロースさんも、二国の始祖様もなにも言わずに子供たちを見守っているので、私も口を挟むことはしなかった。
「皆様もどうぞ御召し上がりください。甘さが強すぎると感じる場合は、おっしゃっていただければコンポートと交換致します」
微笑んで薦めるディーバさんの言葉に頷くも大人たちの手は動かずに子供たちに視線を寄せたままだ。
「「どっちも欲……」」
「欲張って腹が痛くなったら、明日はカブトムシ獲れねぇぞ」
「「あ。 今の無し」」
言いかけた子供たちの言葉を遮ったルッツォさんがニヤリと笑えば、あわあわとアルゴス君とマルケス君が慌て出して、姿勢を正して早口に訂正した。
「どんな味かな?」
「食べてみようよ。綺麗だし、美味しいよ。きっと」
「だよな」
マルケス君の言葉に頷いたアルゴス君はにかっと笑って、タルトを一口大にして、ぱくりと食べる。続いたマルケス君は咀嚼した後、実に幸せそうな笑顔を浮かべた。そんなマルケス君を尻目にものすごい勢いで食べ終えたアルゴス君は、ゆっくりと食べ進めるマルケス君の皿をちらりちらりと窺っている。
あまりの熱視線にハッと気づいたマルケス君がアルゴス君に言う。
「あげないもんっ」
「ちょびっとでも?」
「アルゴス、自分の食べちゃったでしょぅ?」
「うんっ。でも、マルケスの、あるぞ?」
「僕、バクバクしてないもんっ。だからダメっ。上げないっ。僕も食べたいもんっ」
きっぱりと言い切ったマルケス君にしょんぼりしているアルゴス君の頭を軽くなでると、彼はひしっと私にしがみ付いてくる。
「美味しかったんだ。そしたら、無くなってたんだ」
「あまりの美味しさに気が付いたら、無くなっていた」と言いたいらしいアルゴス君に、ルッツォさんとジルさんが口を開く。
「そこまで褒められるのは、料理人としては嬉しい。ありがとな」
「きちんといえたら、又作ってやるぞ」
初めはジルさんに何を言われたのかわからなかったらしいアルゴス君はしかし、すぐに気付いたようで、がばっと顔を上げると勢い良くマルケス君に頭を下げた。
「マルケス、ごめんっ。俺、独り占めするとこだった。もう言わないから、一緒に大人になってくれるか?」
「うんっ。一緒にずるしないで、ちょっとづつ頑張ろうね?」
「うんっ。ありがとう~。マルケス~」
にっこりと笑って謝罪を受け入れたマルケス君に、大人の階段を一人で登らなければならないのではないかと心配したらしいアルゴス君が半泣きで抱き着いた。いつでも何でも一緒だったからよけいに心配だったらしいアルゴス君の頭を優しくなでたマルケス君は、にこりと微笑む。ほっとしたように微笑んだ二人に、「良い子たち、みぃつけた」と言うと、彼らは嬉しそうにいつまでもにこにこと笑っていた。