使者団との晩餐 1
ホスト国の王族は疾病中を除き、全員参加する慣わしとの事で、ルッツォさん、ジルさんもコックコートを脱いで、晩餐の席に着いていた。
見知った顔の多さに、ちょっぴり興奮ぎみで眉をしかめられない程度に話しかけていたアルゴス君とマルケス君はしかし、運ばれてきた料理を目にするやいなや、真ん丸に目を見開いた。
「ママ!!これ、ルーにいにかじられてる!!」
「なんで食べちゃったの〜?」
すっとんきょうに叫んだアルゴス君に続いたマルケス君は泣きそうに言った。彼等の目の前にはミネストローネとパン、温野菜のサラダ、そして、鮭やカキに鱈などの魚介類とかぼちゃや玉ねぎなどの野菜を使ったミックスフライが並べられている。「ルー兄にかじられてる」と叫ばれたのは、その中のイカリングである。
「こら!!なんで、俺が食った事になってんだよ」
「「違うの?」」
間髪入れずに叱ったルッツォさんに、子供たちが若干、信じていなさそうに聞き返す。
「当たり前だ」
「「じゃあ、じーじ?」」
「違うのか」と頷いたアルゴス君とマルケス君は、急遽、リオさんと共に参加することになった始祖様にターゲットを移した。後から聞いた話では、「めったにお近づきになれないリオ様と生涯一度で良いから共に食事を」と常々思っていたオーシャン組の皆さんが子供たちと仲良い様子の飛竜三兄弟を見て、チャンスなのではと感じて、リオさんに晩餐に参加してくれるように懇願し、彼は「じーじも行くなら行っても良い」と返事した為、「皆でごはん食べたい」とアルゴス君とマルケス君におねだりされた始祖様が折れる形での参加となっていた。何故、リオさんが始祖様を巻き込んだのかは聞いていないからわからない。
「違うし。つか、俺が厨房に忍び込んで、皆の食べたってか?」
「「皆のも?」」
こてんと小首を傾げた子供たちに始祖様は軽く頷いて続ける。
「ちび達だけのじゃなくて、ここにいる全員のが穴あきのが皿に乗ってるぞ?」
「「リオ兄のも?」」 揃って仰ぎ見た子供たちに、リオさんが声もなく頷けば、二人は私の膝の上で穴あきにした犯人を探す会議を始めてしまった。
「皆のなら、今、ここにいないやつかな?」
「お腹いっぱいになって寝てるかも。誰だろね〜?」
子供たちが真剣になればなるほど、大人たちの肩はブルブルと震え、とうとう堪えきれなくなった誰かが吹き出し、一気に場に笑いが満ちる。
それでも会議をやめない子供たちに、ディーバさんが静かに言う。
「アルゴス様、マルケス様、この食べ物はイカを輪切りにして、削ったパンの粉をまぶしてから油で上げた、イカリングと言う食べ物で、初めから穴があいてあるのです。誰もつまみ食いはしてませんよ?」
「「初めから!?」」
よほど驚いたのか、お尻ジャンプした子供たちがルッツォさんを凝視した。
「ルー兄、イカって、輪切りにすると穴あきなのか?」
「これって、真ん丸だよ?」
「ああ。後で厨房に来いよ。見せてやるから」
「「はい」」
実物を見せた方が勉強になると思ったのか、ルッツォさんが笑って言えば、嬉しそうに子供たちが頷いた。
「「あ!! 皆、疑ってごめんなさい。うるさくしてごめんなさい」」
頭を下げた子供たちに、大人たちは優しい笑みを浮かべて頷いた。