廊下にて2-2
ラインさんの姿が見えなくなると、私達も再び歩き出した。まあ、完全な気配の読み方など出来ないので、当然だが、内緒話はしないが。
「ライン様も、急遽メンバーに組み込まれたのでしょうか?」
「いや、彼は私と同じく外交官として長く働いているな」
ほうほう。では、私に利用価値があると感じたからこその接触の可能性が高いのか。
新顔の中から何故、私を選んだのか。アルゴス君とマルケス君の教育係だからと言う理由だけだろうか?又、これはラインさんの単独の行動なのか、オーシャンの使者団の総意なのか?ともあれ、あちらがどういうつもりかは分からない以上、大変申し訳ないが護衛としてフォレストの皆さんの手を煩わせることになる。
「ミーナはライン殿に何か思うところがあるのか?」
「なにか、とはなんでしょうか?」
エリゴスさんは何故か、顔を赤くしてもじもじと体を揺らし、私と床に視線を行ったり来たりさせている。
なんだろ?
意を決したのか、エリゴスさんは私を睨み付けるようにしてくる。
「その!!ミーナはライン殿に惚れたのか!? っと!?違う!!」
巡りめぐって言いたいことがこんがらがったのか、叫んだエリゴスさんはその場にしゃがみこんでしまった。彼には悪いが、久々に見る、しかも生のノリツッコミは、面白いショー以外の何物でもない。
ん〜。でも、そっち方面では「思うところ」もなにも、ほぼ初対面だし、一目惚れとかもないしな〜。
「確かに、思うところはありますが、恋愛感情ではないですね」
「そうなのか」
「はい」
ゆるゆると顔を上げるエリゴスさんにきっぱりと頷くと、ほっとした表情になり立ち上がった。
幼馴染みなどの気のおけない友人には「なになに〜?私に惚れてんの〜?」などと聞きたい気もするが、エリゴスさんとはそこまでの仲ではない為、止めておく。
「ああ。良かった」
本気で安堵しているエリゴスさんは私の視線をどうとらえたのか、つい先程までの慌てぶりが嘘のように穏やかな雰囲気になって口を開いた。
「色恋に走ったミーナにアルゴス様とマルケス様が置いていかれるのではないかと……、そう思った」
いくらなんでも、そりゃないわ。
色恋にとち狂って、アルゴス君とマルケス君の教育係を放棄するように見えるのか?と、そちらの方に腹が立った。彼は知るはずもないが、職務放棄は生まれてこのかたした事がないのが、密かな自慢なのだ。
「一般的に恋は盲目とよく言われますが、ありえません」
少々、恨みがましい視線になっていたかもしれないが、一息に言えば、エリゴスさんは楽しそうに笑った。
「ああ。悪かった。ミーナは無いな」
「はい。我ながら言っていて悲しくなりますが、ありえません。安心して下さい」
あ〜。良かった。冗談でも「惚れちゃった?」とか聞かなくて。とんだ恥をかくとこだった。
「ああ。気を悪くしたか?」
「当然です。気分が悪いので、アルゴス君とマルケス君の顔を見て癒されるんです」
軽口をたたいてくるエリゴスさんに同じように返せば、こちらが思ってもみなかったほどの大声で笑いだした。
誰か跳んできたら恥ずかしいでしょう〜!!や〜め〜て〜!!つか、エリゴスさんも爆笑出来るんだ〜。意外だ。
エリゴスさんに聞かれたら、目くじらをたてて怒りそうな事を考えながら、ただただ、彼の笑いの発作が収まる事を祈っていた。