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もふもふの王国  作者: 佐乃 透子
139/184

廊下にて2-1

「全員のお名前を伺うことは出来ませんでしたね」

「だが、あんな騒ぎになったのだ。仕方ないだろう」

「確かに」

 名ばかりとなった会議が終わり、皆は晩餐までは自由時間となると言われた私は、アルゴス君とマルケス君を迎えに、長い廊下をエリゴスさんと歩いていた。

「先程はご挨拶叶わず、失礼致しました。ミーナ様」

 突然かけられた声に驚きつつも表情に出さないように気を付けて振り返ると、オーシャンの使者だろう方が一人、こちらへ駆け足気味に寄ってきた。

 あ。この人は警戒しなきゃいけない人だ。

 笑顔の仮面を着けて、さりげなくこちらの様子を伺う男性を、決して本心を見せてはいけない、隙を少しでも見せてはならないと、頭のどこかで警鐘がなっている。後ろ姿の私に対し、「フォレストの」と言わずに「ミーナ様」と断定出来たのは、私だと見当をつける明確な判断材料があったという事になる。何故、私をそうして観察していたのか。

 営業モードになんなきゃな〜。

「こちらこそ、場を乱した発言の数々、お許し頂けますか?」

 気を引き締めて、極上の笑顔で差し出された手を軽く握り、挨拶する。

「もちろんですとも。こちらこそ、お見苦しい姿を出しました」

「ではお互い様ということで」

 「裏なんてありませんよ〜」とばかりにはにかんで見せれば、男性も又、柔らかく見える笑顔で頷く。

 うん。間違いなくこの人は要注意人物だ。

「いや、心もお美しい。ミーナ様は我が国へ来国の御予定は?」

「無いですよ」

 エリゴスさ〜ん。

 裏を読まずにずばりと返すエリゴスさんに脱力感を覚える。一時が万事このような対応ならば、交渉相手はさぞやりやすかろう。使者殿は「この女は貢ぎ物か?」と暗に問うたのだ。

「私のようなただの人間に過分な評価、ありがとうございます」

 頭の回る者にはすぐに裏が読めるような言い回しをする。乱暴に要約すると、「女一人貢いで状勢が変わるほど易い国なのか?」という所か。私の言葉にそれまで笑顔からぴくりとも動かなかった表情が、ほんの一瞬変わり、雰囲気がそれとともに色を変えた。

「いやいや、忘れておりましたよ。美しい花には刺があると」

 「こちらの魂胆がわかっているなら話は早い」とばかりに、あちらも臨戦体制に入った事が分かる。どうやら私に対して食えない者だと判定してくれたようだ。

「重ね重ねありがとうございます。さすが使者様はお上手ですね」

「貴女こそ」

 楽っしい〜!! 腹の探り合い、楽っしい〜!!

 まだまだ序の口だが、久しぶりの感覚に身も心も高揚している。「口が上手いね、油断出来ないわ〜」と匂わせれば、「お前もな」と返される。

「お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」

「重ね重ね失礼を。私はラインと申します。以降、お見知りおきを」

「ライン様ですね。ありがとうございます」

 お互い、フフと自然に笑いがこぼれおちる。

「手間をとらせて申し訳ない。晩餐までお寛ぎ下さい」

 おそらく裏の意味は理解していないだろうエリゴスさんの言葉に、ラインさんとにっこり微笑みあう。

 いやいや、エリゴスさん、足を止めさせたのはラインさんですから。

 突っ込みたくなるが我慢して、便乗する。こちらが考えているような人物像であれば、ラインさんはさらりと乗ってくれるはずだ。

「私の為に足をお止め頂きましてありがとうございます」

「いえ。楽しい晩餐になりそうですね」

 思ったとおりに突っ込みを入れずに、「お互いに」

と続くだろう言葉を飲み込んだラインさんは(きびす)を返し、遠ざかっていった。

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