廊下にて 2
嬉しそうに、「一緒だね〜」としきりに繰り返すアルゴス君とマルケス君の頭を思わずといった感じで撫でたランティスさんを、身分を気遣ったのかマンティスさんが小突く。ハッとしたように彼が子供達に謝ったが、ちびもふブラザーズは何故謝られたのかわからなかったようでキョトンとしていた。
「なでなで気持ち〜のにダメなのか?」
「僕達はもっとナデナデ欲しいから、ごめんなさい要らないよ〜」
「「はい。ありがとうございます」」
ランティスさんとマンティスさんが頭を下げてから微笑むと、ちびもふブラザーズは「えへへ」と笑った。そのやりとりを優しい笑顔で見つめていたラムセスさんが口を開いた。
「ラムセスです。よろしくお願いします」
「「あれ〜!?こっちに来たの?」」
ラムセスさんがきっちりと敬礼すると、アルゴス君とマルケス君は不思議そうに彼を見上げた。
「はい。今期から近衛ではなく、政治に携わる事になります」
「「ママ」」
見上げてくる子供達の顔には、「難しい言葉ばかりでわかりません」と書いてある。微笑んでからちびもふブラザーズでも分かりやすいようにかみ砕く。
「あのね?ラムセスさんは、フォレストの皆を守る方法を変えたの」
「「変えたの?」」
小首を傾げて問い返してくるちびもふブラザーズは我を忘れてもふもふしたくなるくらいに可愛い。しかし、溢れる欲望をぐっと我慢して、今は説明に専念する。
「そう。今まではラムセスさんは身体を使って守っていたけれど、これからは頭脳、知識でフォレストを守っていくってこと。ソルゴスさんのお仕事は知ってるかな?」
「「ソルゴス?」」
視線をソルゴスさんに向けた子供達は「なんでソルゴスのお仕事?」と言いたげだったが、それでも元気に答えてくれる。
「ソルゴスは剣とかで、悪者が来たらやっつけるんだ!!」
「フォレストの皆や僕たちが泣いちゃわないように、頑張ってくれてるんだ〜」
「ありがとうございます」
子供達の純粋な言葉だからこそ、胸を打つのだろう。ソルゴスさんは頬をうっすらと朱に染めて優しく微笑み、敬礼した。
「「こっちこそ、ありがとう〜。これからもよろしくお願いします」」
ソルゴスさんに返して尻尾を機嫌良く振るちびもふブラザーズに続けて問う。
「じゃあ、ディーバさんは?」
「すっごい厚い本読んだり、いっぱい字を書いて、クルクルする!!」
アルゴス君の言う、「クルクル」とは交易の事だろう。手で渡す振りが出来ないからか、マルケス君とお鼻タッチをしあって笑っている。
「そう!!フォレストだけでなく、ヴォルケーノやオーシャンのお勉強もしてるんだよ。凄いよね〜」
見つめられながら賛辞を受けたディーバさんは、泣き出しこそしなかったものの、言葉も無くただただ、ちぎれんばかりに首を縦に振っていた。ソルゴスさんもディーバさんも、自分達の働きを子供たちが見ていて、きちんと理解していてくれたと知って、嬉しくてたまらないようだ。お鼻タッチをしていた子供達は、ハッと何かに気付いたようで動きを止める。
「わかった!!ラムセスは、ソルゴスのお仕事から、ディーバのお仕事するから、ここに居るんだな!?」
「よくわかったね〜。その通りだよ」
「わ〜。アルゴス、凄いねぇ。じゃあ、ラムセス、ムキムキしてるだけでなく頭も良いんだね〜」
ラムセスさんを「とっても凄い人」認定したらしいちびもふブラザーズは、楽しそうに続けた。
「ソルゴスのぶじつ訓練の時、ラムセス、頑張ってたもんな〜。そんで今度は俺のきらいなお勉強で頑張るのか?」
「凄いね〜。いっぱいいっぱいお勉強したんだね〜」 キラキラと瞳を輝かせたちびもふブラザーズに尊敬の眼差しで見つめられたラムセスさんは面映ゆそうに、だが、誇らしげに再び敬礼していた。
ほっこり和んだからこそ私達は思ってもみなかったのだ。これからすぐに起こる試練が待っている事を。