新たな官僚 2
「ラムセスと申します。最近までソルゴス様のもとで鍛練しておりました。知力より体力な若輩者ゆえ、皆様にはご迷惑をかけるかもしれません。ご指導、よろしくお願いします」
ふむ?ソルゴスさんの下って事は、騎士から政治家に抜擢なのかな?文武両道って憧れるな〜。
ラムセスさんは切れ長の黒い瞳と同じ色の髪を短く刈り上げた、背も高くマッチョな男性だった。だが、威圧感は全く覚えない、良い意味で不思議な雰囲気を纏っていた。静かに着席したアレスさんを見て、シュリさんが勢い良く立ち上がる。
「私はシュリです。カンガルーです。好きな食べ物はミーナ様の料理です!!よろしくお願いします」
カンガルー!!ってか、王族なんだ!!女性の王族も居るんだ!!
黒い歴史には女性が付き物なイメージを抱いていた私は、要らぬ軋轢を避ける為にも、森からは男性しか生まれないと思い込んでいた。実際、会ってきた王族は男性ばかりだったのも、私の妄想に拍車をかけた。
「あ、ディーバ様とは兄妹です」
ディーバさんってカンガルーなんだ!!イメージ無かった〜。
勝手に鹿か何かかと思っていたディーバさんが、雄は縄張り意識が高く、テリトリーに入った同性は問答無用でやっつけると聞いた覚えがあるカンガルーだとはチラリとも想像しなかった。
それにしても、先の男性陣が、ビジネスにおける自己紹介を披露した後だけに、シュリさんのそれはひどく浮いてみえた。
「……シュリ……」
渋い顔をしてこめかみをさするディーバさんの姿は幸か不幸か眼中に無いシュリさんは、私にひたすらアピールの視線を送ってきている。彼女の視線から逃れる為にも、静かに立ち上がり、口を開く。
「私、水無月 楓と申します。どうぞミーナとお呼び下さい。世間知らずの若輩者の為、皆様には多々ご迷惑をおかけするかと思いますが、ご指導頂ければ幸いです。よろしくお願いします」
フォレストにアルゴス君とマルケス君が行った儀式で来たとは言って良い物か判断がつかなかった為に伏せて、万が一突っ込まれても嘘では無いと言い逃れられるようにぼかして告げる。頭を下げてから着席すると、シュリさんからはともかく、アレスさんからも妙に熱い視線を浴びた。彼からは腹に何か企んでいるような嫌な感じは受けないが、気にはなる。
美人さんから興味をもたれる事ってなに〜!?あ!!料理?料理ならわかる。
自問自答でぐるぐるしている私に気付いたわけでもないだろうが、ものすごく良いタイミングで王様が口を開いた。
「ディーバ、ソルゴス、エリゴスは私をずっと支え続けてくれている。新たなる諸君には、彼らだけでなく、フォレストを支えていくという心で居てほしい。諸君はシュリ以外は王族ではなく、又、若い。だが、皆、知力、体力、判断力、全て優秀だ。年齢など関係ないと断言させる熱心さも良い。期待している」
王様の言葉に、皆、顔を上気させ、力強く彼に向かって頭を下げる。仕える主に認めてもらって感激しているように見える。
「有り難きお言葉、光栄至極。我等一同、粉骨砕身、フォレストに捧げます」
感極まったように言うランティスさんの言葉を合図に、示し合わせたように新人の私たちは立ち上がり、王様に向かって頭を下げた。
だから私たちは知らなかった。王様が照れくさそうに、だが、弾けるような笑顔を見せていた事を……。