使者団到着 8
「獣族の方も試験を受けるのですか?」
重苦しい空気を打破したくて、唐突ともいえる勢いで口火を切ると、私を慮ってくれたのか、エリゴスさんも乗ってくれた。
「当然だ。そうでなければ不平と怠慢を生むからな。だが、歴代の王はもちろん、我々獣族も一度得た地位から一度として落ちた者は居ないな。落ちるなんて恥さらし、出来るわけがない。私はヴォルケーノに発つのが決まっていた為、試験は先月に済ませている。もちろん合格だ」
誇らしげに言うエリゴスさんは、子供達が「えっへん」している姿と何故か重なった。
「凄いですね」
ポロリと零れた言葉に、エリゴスさんは目を丸くした後、口を開いた。
「凄いのはお前だ。話術も料理も巧みで頭の回転もはやい。さらに人の心の機微にも敏感だ」
うわ〜!!照れる!!つか、や〜め〜て〜!!
照れるでもなく、かといっておだてるでもなく、真顔で褒められた私は、態度には出さないが心の中で盛大に悶えてしまう。
「着いたぞ」
扉の前に立つ兵士さん達と二三、言葉を交わしたエリゴスさんに促されて、何もありませんよ。動揺なんてしてませんよ。と必要以上にすまし顔になっていたかもしれない私に、気付いているのか気付かない振りをしているのか分からないが、素知らぬふりをしている彼に頭を下げた。
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「きゃ〜!!貴女がミーナ様ですね!?」
入室した直後、甲高い女性の興奮した声と共に、誰かに抱きしめられた。戸惑いつつも確認すれば、抱きしめていたのは私より頭二つ分は背は高いが、栗色のふわふわな髪とキラキラ光る同じ色の瞳の可愛いらしいお嬢さんだった。
「シュリ!!離れろ」
「あの!!貴女が作られたお料理はすごく美味しくて!!特にサンドイッチ!!お目にかかれて光栄です」
エリゴスさんの短い戒めも何処吹く風とばかりに、体をかがめて、私の頭に頬を擦り付け、豊満なお胸にギューギューと押し付けられて、こちらは本気で窒息寸前だ。
苦しっ!!でも、ほわほわオッパイ。いや!!死ぬから!!
私が異性なら、男のロマン!!とばかりに鼻血も吹き出しながら果てても良いかも知れないが、同性だし、いくら柔らかく心地良くても人様の胸の谷間で圧死は出来れば避けたい。必死になって彼女の背中を叩いてアピールするのと、ディーバさんの叫びが上がったのは同時だったように思う。
「シュリ!!せめて名乗りなさい!!そしてミーナ様を離しなさい!!」
「はい!!」
私にとっては天の声なディーバさんの言葉に、彼女は慌てたように私を開放した。すると、エリゴスさんが、私を庇う為か、さっと抱きあけた。所謂お姫様抱っこで。
をぎゃぁ〜っ!!
叫びださなかった自分を全力で褒めたい。以前にソルゴスさんにもされた事はあったが、「これで熊兄弟にお姫様抱っこされたのコンプリートだ」とか、「羞恥プレイだ!!」とか全く纏まらない思考のせいで回路はオーバーヒート、支離滅裂だ。
気絶!!気絶しなきゃ!!どうすれば気絶出来るの〜!?