使者団到着 1
「アルゴス様、マルケス様、今日から、オーシャンの使者団がいらっしゃいますので、ミーナ様をお借りしますね」
「「……は〜い」」
飛龍で来るという彼らを出迎える為に離着陸専用広場で、私の腕の中のちびもふブラザーズが不服そうにディーバさんにお返事している。「終わったら早く帰ってきてね」と訴える二人に頷いていると、不意に日が陰った。
「「来た」」
声を上げる子供達につられて見上げた私はぽかんと口を開いた。
「防護膜張ります!!決してこの結界から出ないで下さい」
ディーバさんの鋭い声と共に、私達を包むようにして、ほのかに光る膜がドーム状に展開した。その間にも迫る飛竜は赤と青の二頭だ。
「凄い。大きい」
「「でしょ〜?」」
ゆっくりと降り立った飛竜達を見て思わず呟くと、ちびもふブラザーズは「むふ〜」と得意げに応えてくれた。狼姿の始祖様も大きいと思っていたが、目の前の飛竜はスケールが違いすぎる。その背中で、私とアルゴス君とマルケス君の三人で集合ごっこをしてエキサイトしても落ちる事はないだろうと思えるくらいには大きく広く安心感もある。広げた翼の先から先を計ると百メートルは軽くありそうだ。こんなに大きな生き物が生み出す風圧はとんでもないだろう。もし、魔法を使って守って貰えなかったら、どこかに吹っ飛ばされるか地面に押し付けられて、どちらにしても無傷ではいられなかっただろう。嫌な憶測にすくんでいると、飛竜が背負った籠の中から階段が伸ばされ、ゾロゾロと使者団が下りて来た。
「はい。もう結構ですよ。驚かれたでしょう?」
「はい。でも大丈夫です」
再び、声をかけられた時には膜は消えていて、私の返事に小さく頷き、使者団へと歩を進めていたディーバさんの背中に、慌てたようにちびもふブラザーズが問う。
「「飛竜に挨拶してきても良い?」」
「竜使いに聞いてから、その者の指示に従うのですよ?」
「「「はい!!」」」
アルゴス君とマルケス君に混じって張り切って答えた私に、苦笑いを浮かべながらもディーバさんは了承してくれた。
初めてなんだもん!!生ものな竜に触れ合えるならしちゃいますよ!!えぇ!!恥は承知よ〜!!
怯えていた自分はどこへやら。現金なもので魅力的な提案に足早に近付くと、身体の線がしっかり見て取れる服を纏った青年が飛竜達の顔の前に居た。先に気付いたらしい飛竜達の視線に促されるように振り向いた青年は髪も瞳の色も濃紺で、歳も私と同じか若干上くらいに感じた。
「はじめまして。私、水無月楓と申します。子供たちは……」
「「ママ!!ご挨拶は自分で!!」」
鼻息荒く抗議を受けて、すぐに頷く。
「ごめんね。どうぞ」
「こんにちは。ちびもふのアルゴスです」
アルゴス君が自分を「ちびもふ」と紹介した事に嫌な予感を覚える。
「こんにちは。ちびもふのマルケスです」
「「二人合わせてちびもふブラザーズです!!」」
やっちゃった〜。やっちゃったよ。ちびもふブラザーズ。
腕の中で青年にえっへんしているちびもふブラザーズをしょっぱい気持ちで見下ろした。