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もふもふの王国  作者: 佐乃 透子
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森の賢者 3

 二人が儀式を行なった時の話を詳しく聞いて、王様達は勿論、今までちゃらんぽらんな態度で居た始祖様までもが厳しい表情になり、全員絶句した。何故なら、二人の口から語られたそれは本当に運がよかったとしか言いようが無いものだったからだ。

 今まで嗅いだ事の無い香りと木よりも遥かに高い建造物の群れに、世界を渡る事に成功したと喜んだのもつかの間、何度試しても二人は人に変身出来なくなっていたと言う。相談しようとしても口から出るのは狼の泣き声だけで、人の言葉は出て来なかった。お互いの口から出る狼語も理解しあえなかった。

 世界を渡る事には成功しても、空気は美味しく無いし、色んな香りが混ざって臭いし、物凄く煩いし、お腹は空くしで二人はどんどん不安になっていった。このままでは、ママになってくれそうな女性を見つけてもお願いする事が出来ないと途方にくれて泣いていた所で私に出会った。

 不思議な事に、あんなに目立つ被毛の二人がずっと鳴いていたにも関わらず、私以外の人間は誰も気付かなかったという。それを「運命だった」と思い込む事も「偶然だよ」と笑い飛ばす事も出来ない。

 魔法が使える自然豊かな国で暮らす二人が、魔法など絵空事と信じる者達の暮らす人工物だらけの世界へ渡ってきたのだ。しかも、知らない世界で、絶対の味方と意志疎通が図れない中ではお互いに励ましあう事も出来ない。幼い二人はさぞや恐ろしかった事だろう。

 そんな絶対絶命な状況におかれた二人と私は出会ったのだ。簡単に肯定も否定も出来ない。

 知らぬ事とは言え、幼い二人の保護者無しの大冒険に、接待をもう少し早く切り上げておけば良かったと後悔した私は「ごめんね。怖かったね」と言うと揃って二人は首を左右に振ってみせる。

「ママ、俺達の事、見つけてくれたじゃん!!泣いてた時に怖くないよって言ってくれただろ?」

「怖くてキューッてなってたの。ビクビクしてた僕達に、ママはクンクンするまで待っててくれたでしょ?」

「俺は泣いてないぞ?泣いてたのはマルケスだぞ」とアルゴス君が顔を真っ赤に染めて怒ったように自己弁護し、「だから、とっても嬉しかったの」とマルケス君がはにかむ。

 私は健気な二人をぎゅうぎゅうと抱きしめた。「苦しいよ〜」といいながらもきゃっきゃっとはしゃぐ二人が、本当に無事でよかったと思う。この場に居る全員が同じ思いだったのか、誰かの吐く安堵の溜め息が聞こえた。

「アルゴス。マルケス。ミーナがいなければお前達は今、笑っていられなかったんだぞ!?」

 王様に叱られて、二人ともうなだれる。

「そうですよ。ミーナ様がお二人を見つけても、召喚の儀式に応じてくれなければ、帰ってこられなかったのですよ?」

 続けて叱るディーバさんの言葉はオブラートに包まれていた為、子供達には分からないだろうが、死んでいた可能性もあるのだ。しっかりと反省してほしい。

「いーじゃねーか。成功してんだからよ。お前等ガミガミ煩過ぎ」

 お前が言うな。

 肩肘をつきながら、空いた手をパタパタと振る始祖様に、思ったのは私だけでは無いハズだ。

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