エピローグ
「ただいま」
案の定、家に灯りはともっていなかった。
迷砂はため息をついて、ドアをあける。幸兵はいったいどこへ行ってしまったのだろう。また遊び歩いているのだろうか。ふらふらと。寒々しいジャージ姿で。
「はあ」
もうひとつ、大きなため息をついて、迷砂は靴を脱いで、2階へ上がった。念のため幸兵の部屋を覗くが、やはりだれもいない。あきらめて、自分の部屋へと戻った。あと一仕事しなければならない。
パソコンのスイッチを入れ、メールを立ち上げる。
最後に残った一仕事。それは、高木優子に関する公的な記録の削除である。これには戸籍や住民票、健康保険、高校の在籍名簿、また、高木優子の死には警察も関わっているので、捜査記録も含まれる。これらを削除しなければ、高木優子という人物が、のちのち大きな問題となってしまうのだ。
一見複雑そうに思えるが、「物的」な記録を消すよりも、その作業は簡単だった。
メールを一通送ればよい。
あとは所在不明の天才情報テロリストたちが「情報」をすべて消してくれる。
『夏彦兄さん 冬彦兄さんへ
高木優子さんの記録を消して下さい
迷砂』
ちょっとだけ今日助兄さんの手紙を真似てみた。
返信は、3秒で返ってきた。
『それだけで分かるか!ボケ! 夏彦』
そりゃそうだよなぁ。
迷砂は少しばかり笑って、高木優子の住所を打ち始めた。




