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似非関西弁



目に入ったのは、黒いグラサンを掛けたむさ苦しい髭面の男の顔であった。

俺がもし女子であったのならば、劈く様な悲鳴を上げていたかもしれない。

それくらい、唐突で見境の無い出現をする男は………

「なんだ、椎さんじゃないすか。相変わらず、気配皆無ですね」

「いや別に僕は気配なんぞ大層なもん意識的に消した覚えないけどな」

この人はいつもこう言うが、大抵、僕に対して唐突に似非関西弁で話しかけてくる。

よってこの人は心臓にとても悪い。

色んな意味で。

「で、何用ですか?」

「ふぅむっふふふふぅぅ、A君、今日は仰山ええ仕事もってきたんよ」

非常に形容しがたい気色の悪い擬音の後に、俺の耳に天使の囁きが舞い降りた。

俺は思わず机から身を乗り出していた。

「仕事ですか!」

「まぁ、そう焦りなさんなって、A君」

「いや、焦りますよ、今月も結構やばいんすから」

「まま、A君、とりあえず座って、座って。あんさん鼻息荒いでぇ。わてかて男やし、可愛らすぃおにゃの子に迫られるのならええけど、男は勘弁やで。A君、もうちょい落ち着きなはれや」

俺は焦る気持ちを押さえながら、椅子に腰を下ろした。

胸に手を当て、深呼吸をする。

呼吸が落ち着いた所で。

「で、椎さん、仕事って、どんな仕事ですか?」

俺の横にある椅子に腰掛けた椎さんは、胸ポケットからタバコの箱を取り出した。

そして箱を軽く振り、取りだした一本を口に咥えると、眉間に深い皺を寄せ、山賊の様に無駄に長い顎髭を一撫でした。

その神妙な趣の表情は、いつになく真剣なものだった。

場の雰囲気が一気に重苦しいものとなる。

「……A君、今回の仕事はな、何時もとは一味も二味も違ったもんになるかもしれへんで? 君がね、この話を聞いたら、もう後には引きかえせへん様になってしまうんよ? それでも、この話を聞くかいな?」

「……ええ」

俺はその場の雰囲気に気尾される様に、一つ唾を飲み込んだ。

久々の仕事の話の様だが、椎さんの言動と表情から見て、その内容はいささか危険なものとなるかもしれない。

しかし、この仕事を受け泣ければ、俺達は今月も困窮の危機に喘がなければならなくなってしまう。

今月こそは白米が喰いたい。

俺は覚悟を決めた。

俺の表情を見て取ったのか、椎さんがその重い口を開いた。


「………実はな、僕、今、禁煙中なんよ」


「ってそんなん知るかーーーい!」

椎さんの頭をスリッパで思い切り叩く。

廊下にパコーンと言う子気味の良いんだか間抜けなんだか良くわからない音が響いた。

「そう、それやねん! ワイはそういうツッコミをまっとったんよ!」

「……椎さん、満足ですか?」

「ああ、満足や。僕はいま幸福の渦に揉まれてるでぇ!」

両手を前に突き出し何かを揉みしだく様に手をわしゃわしゃとする椎さん。

その表情はとても満足そうであった。

アホで良かった、この人が。

「アホですね」

後ろから、そんな冷たい声が聞こえてくる。

まぁ、アレだ、これは毎回恒例の仕事話の前の緊張ほぐしというやつだ。

アホ臭いけど……まぁ、あまり意味は無い。

「で、椎さん。どんな仕事ですか?」

「ああ、そやな。今回うちに来た依頼の話やったな………」

「実はな……」

いつもの事だが、椎さんは無駄に勿体ぶって、

「さっき、校門の前でな、めっさカワユイ子に会ってしもたんや」

「…………はい?」


この人の性格は死ななきゃ直らない、俺はそう思った。



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