勧誘活動中
「話を逸らしましたね」
「まぁ、この暑さじゃ誰も来ないのも頷けるよなぁ」
「暑いのならもっと涼しい所に行けばいいじゃないですか」
「……言われてもねぇ。ここしか宣伝スペース認められなかったし」
そもそも俺達としては勧誘の場所を確保出来ただけでもまだましなほうだけど。
去年のこの僅か畳三畳分のスペースすら確保できなかった過去を振り返れば、奮闘した方だと思う。
因みに去年の我が部の宣伝スペースは屋上に確保されていた。一体誰が来ると言うのだろうか。甚だ疑問であった。それでも生徒会のごり押しと真っ向から勝負もしないで素直に負けを認めたのは、我が部の権限の無さからでは無く、単に椎さんが買収されただけなのだけれど……。
「大体、何であなたが、こんな不毛な行為をしなければならないのですか?」
「だって、それは、あれだろ、椎さんが居ないから、俺がやらなきゃ、でしょ?」
「別に貴方がやる必要は無いと思いますけど」
「そしたら……あれだよ、誰も部員入んないから、まぁ、この部は、潰れるよね」
なんせ部員は俺を含めて四人しか居ないのだから。
校則には文科系の部活動を行うには最低でも部員が五人以上必要である、と記されている。
よって今期に新入部員を迎え入れなければ我が部はもれなく廃部となる。
「いいじゃないですか、こんな下らない部が一つ潰れようが」
さらっと冷酷無情に言い放つ沙耶さん。
「だめでしょ。いや確かにさ、活動なんてこれっぽっちもしていないけどさ、でも、この部が潰れたら俺らどこに住むのよ? 部が潰れるってことはね、勿論、部室ももれなく没収という事になるんだよ。そしたらどうよ、俺らのお仕事もまともに出来なくなっちゃうでしょ?」
「それは、困りますね」
「そ、俺達すぅんごく困っちゃう訳さ。だからこの部がね、どんなに下らなくても潰す訳にはいかないんだよ」
「そうですね、私も野宿は嫌ですし、仕方ありません。勧誘活動を続けて下さい」
こういう所はなかなか素直。
利害が関係する所とか。
「はぁ、でも、ほんっと、人、来ないねぇ」
ここ、小一時間程、人っ子一人現れない。
人が来ないどころか、さながら世界に忘れ去られた様に、人の声すら一切聞こえ無い。
「当然です。今は授業中ですから」
「そうなんだよなぁ、今って授業中なんだよなぁ」
そうなのだ。
もう昼休みはとっくに終わって、今は5時間目の終わり頃なのである。
よって……。
「人が来る訳が、ありません」
「はぁ、皆、真面目に授業受けてるのかぁ」
言うて、この学校一応進学校だからか。
生徒は一年から三年まで皆、一応は真面目を装いつつ授業に出ているらしい。
その結果。
「人こねぇよねぇ、授業中じゃ……」
うだーっと机にひれ伏して、目を瞑る。
「誰か来たら起こして」
「誰に言うてんや、A君?」
耳に入ってきたのは沙耶ちゃんの感情の薄い声ではなく、無駄にドスの効いた野太い男の声。
誰だ、と思いガバっと身を起こすと。
そこにいたのは……