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雨には負けず、熱さに負ける


小鳥も発狂しかねないこの蒸し上がってしまう様な……いや、それでは生温い、敢えて言おう、ここはサウナの中と何ら遜色無い、と。

とまぁ少し大げさだが、そんな熱さの中、俺はひたすら只ただやるせなく手に持ったボールペンを持て余していた。

別段、俺は時間を忘れてペン回しに没入出来る、という奇怪な特技の持ち主である訳では無いし、プラスチックのペンを回す事に以上な性的興奮を覚えるという珍妙奇天烈極まりない性癖も、無い。

いや、むしろペン回しなんぞ俺には出来ない……出来ないったら、出来ない……練習は、したけど、それでも人間とは、いや、俺と言う人間は、どうしても出来ない事は、どれだけ努力をしようが、出来っこ無いのだ。

では、何故、俺はこのクソ熱いのも大概にしろと絶叫出来てしまう様な環境の中、わざわざ部室棟の隅っこで、ナマケモノも唸ってしまう程のこの俺の忍耐力をもってして、机にへばりついて居るのだろうか?

こいつは若気の至りとしては色々な意味で、少々酷というものだ。

にも拘らず、何故か?

誰か、其の答えを知っている人がもし居るとしたら、どうか、教えて欲しい。

何故なら、自分でも分からないから。

「なぁ、俺達って、何やってんのかなぁ」

俺は椅子で二本立をし、天井を見上げながら、そう呟いた。

「何って、それは、部活の勧誘」

少し遅れて、俺の後ろから心底怠そうな声が。

「でも、ほら、あれじゃない? なんかさ、俺たち位の年頃ってさ、なんかこうさ、もっとこう、甘酸っぱいってゆうかさ、蜂蜜味ってゆうかさ、もっとこうさ、なんてのかな……そう、ギャルゲー的な日常であるべきじゃない?」

「そうですね」

どうでも良いという感じが嫌と言う程伝わって来る。そんな返事が後ろからリターン。

「なんかさ、あれだよ、やっぱり俺ってさ、今一応、高校生ってのやってる訳じゃない? でさ、高校生にとってのさ関心事ってのはね、社会で取りざたされてる小難しい問題じゃなくてさ、隣のクラスの女子がどうこうとか、あの子は誰の彼氏だの彼女だのっていう話題な訳ですよ。でね、今この時ってさ、まぁ世間一般的には結構人生の中で一番楽しいっていわれてる一時な訳じゃない? 普通の人はね、皆さ、社会人になったら自分が高校生だった頃思い出して、こうシミジミと、『あぁ、あの頃の俺って甘酸っぱかったなぁ、いや、少し酸味が効きすぎてたかな? なんてな、ははは。……今考えると、結構、無茶してたんだなぁ』とか言って思い出すもんなのよ。でね、『あぁ俺はもうあの頃の自分には戻れないのか』とかさ、タバコ吹かしながら感慨に浸る訳さ」

「で、何が言いたいんですか? 私は今、貴方の戯れ言に付き合っている暇は無いのですが」

相変わらず、手厳しい。

厳しいったら……厳しい。

「まぁ、そう焦らずにさ、つまりね、俺の思うところの青春の定義ってのはさ」

「すいません、貴方の話はとても煩わしいので出来れば四文字以内で簡潔にまとめてください」

うん、無理だよそれ。

声を大にして言いたいけれど。

「うん、つまりね、俺が言いたいのは………」

ふぅ、と息を呑み、一拍間を置いて。

「つまりね、俺達のしている事はあまりにも『酷過ぎる』って事を言いたかった訳さ」

「四文字じゃありません。もう煩わしいのでいっそ四文字熟語でお願いします」

厳しい、上に、細かい、さらに無茶ぶりと来るか……末恐ろしい子。

「……ざ、残酷無情?」

「そうですか」

と、僅か四文字で伝えた俺の思いの丈は僅か5文字で横っ腹からぶった切られた。

「あのさ、沙耶ちゃん」

「ちゃん付けは止めて下さい。気持ち悪いです」

年下の女の子に気持ち悪いって、しかも恐らく何時もの眉根一つ動かさない真顔で言われるのは、結構いいフックを右脇腹に抉り取られる様にもらう感じに、まぁ傷つく。

「……沙耶、くん?」

「私は女です」

むむむ、と悩む。

しかし、元々容量にいささか欠陥を抱えるこの俺の頭で無い知恵しぼって悩んだところで、大した事は思い浮かばない。

「沙耶さん?」

避暑地の令嬢風。

「気持ち悪いです」

「沙耶様」

ツンデレお嬢様風。

「気色悪いです」

「沙耶にゃん」

ロリッ子秋葉メイド喫茶風。

「きしょい、です」

「さーやたん」

小悪魔アゲ嬢風。

「近寄らないで下さい」

「あああああああああ、だったら何て呼べばいいんじゃい!」

俺は握りこぶしを作り、机を叩いた。

「……やっぱり、沙耶ちゃんで、いいです」

「さ、沙耶ちゃん?」

改めて言うと、なかなかにむず痒い響きだった、自分で言いいだしたのだけれど。

「なんですか?」

「うん、えぇとな……あれ? 俺、何言おうとしてたんだっけ?」

「私に聞かないで下さい」

「なぜだ? お、思い出せない……まさか、沙耶ちゃんが?」

「私は何もしていません。貴方がただ、ど忘れしただけ、です」

ど忘れ……この俺が?

あり得ん。

「そんなはずは」

「昨日」

「あい?」

「昨日の夜、何を食べたか、覚えていますか?」

昨日の夜は………

「わからないのなら、貴方には若年性アルツハイマーの疑いがあります」

「……ふぅ、それにしても、ほんとぉに誰も来んな」

結論、あり得た、以上。


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