Part5
「なぁ、最後に会った時、覚えているか?」
「覚えているに決まっているじゃない。だって高校の卒業式だよ。忘れたくても忘れられないわよ」
「そうだな、卒業式の後。俺が呼びだしたんだっけ」
「・・・あれ? 吹雪くん、耳真っ赤だよ?」
「お前こそ、顔、赤くなってる」
「これはお酒のせいですぅ」
ケラケラと笑いながらも、とたんにぎこちなくなる麗華。さっきから何度も足を組み替えている。
無理もない。
高校の卒業式。
その日は俺が、世良吹雪が、水無月麗華に告白した日。
ただの幼馴染だった関係を変えようと動き、あえなく散った日。
「・・・俺、あの時の返事。聞かせてもらってない気がするんだが」
「だって・・・、吹雪くん。あれはズルいよ。結果的に言い逃げだったじゃない。私の返事を待つ前に『急な事だからゆっくり考えてくれていい。気持ちが決まったら返事を聞かせてくれ』って言って、あっという間に走っていっちゃたから・・・」
「家帰ってから気づいたんだよ。明日から高校ないことも、お前が引っ越すことも、その引っ越し先の住所も連絡先も聞きそびれていたことも」
改めて思い返して、今でも吐きそうになる思い出だ。
あの時の俺は・・・なんというか、発想はよかった。ただ、その一歩先の応用で負けたって感じか?
「連絡先なんて幾らでも聞く機会あっただしょう? 幼馴染だったんだし」
「あぁ・・・、なんかタイミングが無かったんだよ」
俺のこのセリフはあながち間違いじゃない。
幼稚園の頃なんかはそんな連絡先なんて気にする年齢じゃなかった。
女の子と話すだけで謂れのない弾劾を受ける時期である小学校では聞ける訳がなく。
中学・高校では取り巻きや、恋人候補だかなんかだと言い張る軽薄な男共によって彼女に近づくことすらかなわなかった。実際、卒業式の後なんて最高のタイミングで彼女と二人きりになれたのも、奇跡のようなものだと思っている。