Part3
回想。
といっても、単純なもの。
簡単にいえば俺と彼女の馴れ初め。
彼女、水無月麗華は絶世の美女だった。
否、過去形ではない。今現在も美女である、というのが正しいか。
女性としての魅力にあふれたその風貌は、当時の学校中の男子、いや、女子をも虜にした。
神と見間違うほどの美貌、誰にでもわけ隔てなく接する優しさ。周囲の取り巻きの女子と比べるのもおこがましいほどに、その美しさは突出していた。そんな彼女に、学校中の男性が想いを寄せた。俺もその中の一人だった、いわばそれだけの話なのだ。
俺と水無月を引き合わせるやいなや、入口の掃き掃除をするとか何とか言って、邦近は箒もちり取りも持たず、ただ【臨時休業】の看板だけ背中に隠すように持って店から出て行った。余計な事をする奴だ。
そうして、結果的には店の中に俺と彼女が二人きりとなった。
「うんうん。やっぱり世良くんだ。おっきくなっても根っこが全然変わっていない」
「それはどうも。水無月さんは同窓会に来てなかったみたいだけど・・・」
「水無月さん、なんてやめてよ。麗華でいいわ」
「・・・じゃあ麗華。同窓会に来てなかったみたいだけど、何か用事でもあったのか?」
「うん、本当は来る気なんかなかったんだけど・・・。ほら、こういう機会って企画した人やその人に親しい人は楽しいかもしれないけど、やっぱり接点が少ない人からしたら壁しか感じないじゃない。私はこういうの、あんまり楽しめないタイプだから」
それだけ言うと、邦近が彼女の注文を受けて残していったブランデーを一口飲む。
アルコールに弱いのだろう。ほんの一口で彼女の頬が朱に染まる。
「それで、ひょっとして世良くんも同じこと、考えていたりする?」
「――――お前こそ、その苗字に〈くん〉付け、やめろよ」
唐突な俺の言葉に、ほんの一瞬彼女は戸惑いの表情を浮かべたが、やがてさっきまでと
変わらない笑みを浮かべる。
「じゃあ――――、吹雪くん」
あぁ、その名前で呼ばれるのは久し振りだ。高校の頃の記憶が栓を抜いたシャンパンのように吹き出してくる。その記憶の泡は、どれも甘く――――苦い。
先ほどの回想に一つだけ付け加えなければならないことがある。
俺は確かに、彼女に思いを寄せる男の一人だった。けれども、それは他の男共のように同じ高校から、中学から、ましてや小学校や幼稚園の頃からなんかじゃない。
物心ついた時、既にその頃から。まだ言葉もしゃべれないような頃から、俺は彼女のことが好きだった。幼いころの思い出なんて、何一つ残ってはいないが、彼女のことが――――水無月麗華のことが好きだった、ということだけは覚えていた。