Part2
磨き終わったグラスを光にかざして満足そうにうなずくと、そのグラスに自分用の酒を注ぎ始めた。
「なにそれ、見たことないやつだな」
「ラム酒。こないだ観に行った映画に出てきて無性に飲みたくなったから買ってきた。――――言っとくけど、商品じゃねえからな。俺専用だからな」
「俺がいつ欲しいって言ったんだよ」
カウンターの奥から出てくると俺の横にどっかりと座りこむ邦近。元々図体はデカい方だから、隣に座られると圧迫感がすさまじい。大体店主がさぼってていいのかよ。
結構な量が入っていたはずのグラスを一息に空けると俺に向って質問を投げかける。
「分かった。お前、さては初恋のマドンナちゃんに会えなかったんだろう」
「・・・あんなの恋でも何でもねぇよ。ああいうのを一人芝居っつーんだよ」
「いやぁ、会うの、楽しみにしてたもんなぁ。残念だなぁ、可哀想だなぁ」
「聞けよ話を」
殴った、割と全力で。
あっさり受け止められて殴り返された、割と全力で。
そういえば、昔っからコイツにはぜんぜん勝てなかったけ。
「ひっでぇ! グーで殴りやがった!」
床に倒れ伏して涙目で見上げる俺を憐れんだ目で見降ろすと、そっと店の出口の方を顎でしゃくる。
邦近のそれにつられて、俺がそちらへ目を向けると。
「・・・ひょっとして世良くん?」
「え? み、水無月さん?」
「久しぶり。――――高校卒業以来、だっけ?」
そこにいたのは、こともあろうに、俺の会いたかったマドンナそのものだったのだ。