春隣②
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
正月の華やいだ空気が薄れ始めた、ある日の放課後。
担任に呼び出されていた瓜生が、重い足取りで職員室から教室へ戻ってきた。
その様子を見て、桐通が心配そうに声をかける。
「瓜、なんやってん?」
「……赤点が複数あって、このままやと2年に進級するのが難しいって」
それを聞いた芝田が、思い出したように膝を叩いた。
「そういえばお前、前からそんなこと言っとったなぁ」
「そうやねん。お前らと一緒に2年になられへんかもしれん……」
「でも、なんか救済措置があるんやろ?」
「おう、あんねん」
「それを早言えよー!」
「ごめんごめん。補習授業を受けたら、特例で進級させてくれるって」
「ほなら、今年もこの4人は一緒におれるなぁ!」
安堵の笑顔を浮かべる仲間たちの横で、黙って話を聞いていた浩一がぽつりと呟いた。
「……いや」
「川野、なに言うてんねん? 桐通は就職クラスに行くけど、学校も通学も一緒にできるやろ?」
芝田が少しムキになったように言った。
浩一は下を向いたまま、必死に言葉を絞り出す。
「いや……俺は……俺は……」
そこまで言ったところで視界が急激に滲み、目の前にいる3人の顔が大きく歪んだ。ぽろぽろとこぼれ落ちる涙で、声が震える。
教室に、しんと静かな時間が流れた。
溢れる涙を拭いもせず、浩一は言葉を続けた。
「俺……2年から、定時制高校に転校するねん」
静寂の中、桐通が気遣うように口を開いた。
「お前……前に言ってた、家庭の事情か?」
浩一は、終業式の日から年末にかけて自分の身に起きた出来事を、包み隠さずすべて打ち明けた。
再び、重く静かな時間が教室を包み込む。
その静寂を破るように、桐通が縋るような声を出した。
「……救済措置は、ないんか?」
「俺には……ないねん」
「お前、あんなに成績ええやんか! しかも無遅刻、無欠席やぞ!?」
「それでも……あかんねん。でも、転入学試験を受けたら2年から別の学校に行けるから……。今の俺には、どうすることもできへんねん」
三度、重たく切ない静寂が流れた。
やがて芝田が、怒ったような、それでいて泣きそうな声を張り上げた。
「……そっか。お前、ずっと辛かったんやな……! なんで、もっと早く教えてくれへんかってん!」
「ごめん……」
「ごめんはええ! お前な、俺らから離れられるなんて思うなよ!? 学校が違ったって、俺たち4人はずっとそのままやぞ!」
「……ありがとう! ほんまに、ありがとう……!」
残り、あと約2ヶ月。
学校という形は変わってしまうけれど、この絆は絶対に途切れない。
涙で濡れた視界の中で、それぞれが見つめ合う互いの顔は、大きくぐしゃぐしゃに歪んでいた。
ご覧いただきありがとうございました!
ずっと一人で抱え込んできた大きな秘密を、ついに大切な仲間たちへ打ち明けた浩一。
15歳という若さで直面した理不尽な現実と、それに伴う決別。しかし、そこにあったのは「拒絶」ではなく、どこまでもあたたかい「友情」でした。
涙で視界が歪むほど泣き合い、固く絆を確かめ合った放課後の教室。
浩一が選択した道は決して孤独なものではないと、仲間たちが教えてくれました。
春の訪れとともに迫る別れと、新しい未来へ向かう浩一たちの物語を、次回もどうぞお楽しみに!




