表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖殺しの刀〜寺育ちの平凡中学生、最凶の妖と契約して怪異を討つ〜  作者: 宮凜猫
一章『桜の中の出会い』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

一章六 『少女は鏡を疎む』

「──玄関には、いないみたい⋯⋯」


「そのようだな。この妖気の分散の仕方から見て、触媒を使う型であろうが」


「触媒?」


「嗚呼。わかりやすく言うなら⋯⋯ワープを可能にするアイテム、か?」


「ミツルギってカタカナ使えたの?」


「多用はせんがな」


 そんな事を言いながら、階段を上り、妖気の大元を探す。

 と、


「おい」


「え」


「気配が近い。刀を握れ」


「──! わかった」


 千秋は、肩にかけた学生鞄へと手を突っ込んだ。

 教科書やノートが無造作に押し込まれた、どこにでもあるような鞄。

 ただ、その奥に、場違いな雰囲気を放つ一刀がある。

 紙の角を押しのけ、筆箱を掻き分け、指先がそれに触れる。

 鞄の中に、乱雑に投げ込まれていた刀。

 千秋はそれを掴み、ぐい、と引き抜く。

 ノートの束がずれ、鞄の口が大きく開く。

 日常の象徴のような学生鞄の中から、明らかに異質な存在──特異な雰囲気を放ち、一刀の刀が姿を表した。


「ぞんざいに扱いおって⋯⋯よく入ったな」


 学生鞄を見たことがあまりないのか、ミツルギがそう言って鞄を弄る。


「うん。刀の長さ、俺が念じれば変わるみたいだから」


 鞘から刀身を抜き、感情を込める。


 今、最も心に浮かぶ感情は──


「──あれ⋯⋯?」


「──! 避けろ!」


 瞬間、ミツルギの叫びが耳をついた。

 千秋も、すぐに顔を上げて、事態に気づく。


 正面にあった鏡から、無数に影が伸びていた。

 細く、長く、指の形をしたものが、絡まり合い、蠢きながら、床を這い、壁を伝い、こちらへと迫る。

 それをなんとか避けようと、身を捩ったが、


「──ぐ、うっ」


 すぐに、首を絞めあげられる。首を掴む力は容赦なく、気道を押しつぶすように締め上げてくる。

 同時に手首を掴まれ、足首を縛られ、関節が軋むほど強く引き止められる。力を込めてもびくともしない。

 頼みの綱である刀も、魂と共鳴しなければ、ただの刀だ。

 喉は締まり、肺は空気を求めて痙攣し、視界の端が暗く滲んでいく。

 刀を握る指先さえ、思うように動かない。


「──か、は」


「何をしている! たわけが⋯⋯!」


 その時、横から、ミツルギの蹴りが飛んできた。

 ミツルギが触れた瞬間、影は怯み、


「──きいてない」


「え⋯⋯?」


「白狐さまがいるなんて、きいてないよ⋯⋯」


 それは、幼い少女の声だった。

 その少女は、鏡の中にのみ、映っていた。


「き、みは⋯⋯」


「どうして? わたし、ちゃんとやったのに⋯⋯」


 鏡の中の少女は、泣いて、泣いて、そして──


「おい! 刀で鏡を刺せ!」


「──!」


 涙を具現化するが如く、鈍く光る銀の手がこちらへと伸びてくる。

 それを、


「────!」


 すんでのところで、刀の色が変色した。

 それは、澄み切った橙赤だった。


「邪魔!」


 髪と瞳も変色し、眉が吊り上がる。

 ためらいなく鏡を叩き割り、刀を構えた。


「ひどい、いたいよ」


「──殺そうとしておいてよく言うな」


 割れた鏡の奥の少女を睨みつけ、千秋は警戒を解かない。

 見た目は、普通の人間だ。

 ただ、纏う空気は、その限りではなかった。


「ミツルギ、こいつは⋯⋯」


「──気配から見て、強力な怪異から力を分け与えられている霊体──といったところか」


「──そうか」


 怪異と幽霊、それから妖の違いは何なのか聞きたかったが、今はそれどころではない。

 今は、目の前の怪異を祓うことにのみ注力すべきだ。


「────」


 無言で息を吐き、刀を構える。

 それを見た少女が、わかりやすく顔を顰めた。


「恵まれてる⋯⋯あなたは、だから、敵」


 そう、少女が恨めしそうに言い、瞳が陰ったかと思えば、


「刀を放すな!」


 ミツルギの、張り上げるような怒声が千秋の耳を激しく突いた。

 それに瞳を見開きながら、千秋は刀を握る手に力を込め、


「──な、」


 床に散らばっていた鏡の破片が歪に繋がり、千秋たちを異空間へと落とすその様を、その目へと焼き付けることとなった。



△▽△▽△▽



「──ここは、」


 その空間は、例えるならば、汚れた海の底のようであった。

 鏡の破片がそこかしこに散り、関連性のない景色と、止まぬ怨嗟だけが、空間を支配していた。

 ──まるで、空間の持ち主の、心の有り様を、はっきりと表しているようであった。


「領域だ」


「──領域?」


「怪異が人を喰らうとき、結界が大皿、領域が小皿のような役割を果たすとされている」


 ミツルギの簡易的な説明を聞いて、千秋はなんとなくだがそれを理解する。


「つまり、結界は閉じ込めるためのもので、領域は、必ず殺すため⋯⋯みたいなことか?」


 微妙に理解がズレていたのか、ミツルギが違うと言いたげに顔を顰めたが、


「その理解で構わん。大事なのは、結界も領域も怪異にアドバンテージが高い場所ということだ」


 言い終わると、ミツルギは仮面の奥の瞳を静かに動かし、千秋の胸ぐらをつかんで後ろへ投げた。


「うわっ!? 急に何す──」


 刀の影響で苛立つ心のまま、ミツルギにそう鋭い視線を向けた。

 すると、


「──白狐さま、その子の味方をするの?」


 千秋が先程まで立っていた場所へ、大きな風穴が空いていた。

 状況から見るに、少女が攻撃を差し向けていたのだろう。


「──白狐⋯⋯?」


 千秋が不可解そうに眉根を寄せれば、ミツルギは小さく舌を打ち、


「貴様は、誰に命令されている?」


「────」


「あまりにも不可解だ。連続して、同じ場所に怪異が出没するなど」


 その言葉に、千秋は確かに、と顎を引いた。

 昨日のことは千秋たちに非があるが、それにしても変だ。

 誰かが、関与でもしていない限り。


「──人間。これ以上の問答は無駄だ、祓え」


「だから千秋だっ⋯⋯」


 そう、言おうとした瞬間、


「──っ!?」


「人間!」


 千秋の脇腹を、影で作られた弾のようなものが突く。

 骨の奥まで振動が走り、肺の中の空気が一瞬で押し出された。

 息が詰まり、声にならない息だけが喉から漏れる。

 遅れて、じわりと広がる鈍痛と、脇腹の奥で内側から殴られたような重い痛みが脈打った。

 足元がぐらりと揺れ、視界が一瞬だけ白く弾ける。


「いや」


「──厄介な女だ」


「消えたくない、どうしてわたしが!」


「感情的に喚くな。だから子供は嫌いなんだ」


 少し距離のある場所で倒れる千秋を見ながら、ミツルギは苛立ったように舌を鳴らし、


「おい! 刀を持っていながらその体たらくは何だ! 早く動け!」


「ぅ、くっ⋯⋯」


 千秋の喉から、苦しそうな呻きとともに、


「──うるさい! わかってる!」


 そう、怒号が短く飛んだ。


「クソ、痛い⋯⋯! ああ、イライラする!」


 涙の浮かぶ瞳で少女を睨みながら、千秋は、助走をつけて走り出す。

 腹の奥が軋むように痛いが、止まれば多分もう一撃が来る。

 今、あまりの痛みにアドレナリンが出ている内に、決着をつけなければならない。


 刀を握りしめ、足を踏み込み、宙へ浮く。


「──っ!」


 予想通り、少女の操る影が、再度千秋を狙い撃ってきた。

 宙へ浮き、回避が難しい状態の胴体を貫こうと、無数に影が蠢く。

 黒い指が、千秋の腹を掴もうとする。


 刹那、赤橙色の刃が、弧を描いた。

 落下の勢いをそのまま斬撃へと変える。

 空中で振り抜かれた一閃が、迫る影の手を真横から断ち切った。

 黒い腕は裂け、煙のように崩れ落ちていく。


 そして、影を失って呆然とする少女の、その首元へ、刃を運び、


「──嘘吐き」


 そんな、恨み言を、真正面から、受け止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ