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妖殺しの刀〜寺育ちの平凡中学生、最凶の妖と契約して怪異を討つ〜  作者: 宮凜猫
一章『桜の中の出会い』

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一章四 『桜は、あなたに笑わない』

「──っ!!」


 攻撃が視認できた瞬間、反射的に体を動かした。

 そのおかげで、攻撃の命中は避けられたが、なにしろ、千秋本人の身体能力はさほど高くない。

 今だって、避けられたのは、刀による能力の引き出しと強化が行われたからであり、それがなければ、腹に風穴が空いていただろう。


「何をしている! 早く刀で奴を祓え!」


「そんな事言われたって、やり方が⋯⋯!」


「あの祓い屋から教わっていないのか⋯⋯!? 忌々しい、来い!」


 千秋の腕を強く掴み、ミツルギはそのまま体を強く引っ張る。

 そのまま、千秋の腕を動かし、刀を構えさせる。


「なにを、」


「刀の構え方も知らぬとは、呆れたものだ。その刀に触る以上、最低限のことはしてもらうぞ。──貴様に与するなど、この上ない屈辱だがな」


 そのまま、ミツルギは千秋のことを空へと投げ飛ばす。


「うわっ!?」


「刀の色は感情の色だ! 感情を最大限まで高め、刀の色を強めよ!」


 言い切り、ミツルギは柱の上まで飛び、千秋を見下ろす。

 それを片目で見やり、千秋は、刀を握る手に力を込める。


「────」


 ──闘え、守りたいのなら。


 そう、心が叫んでいる。

 闘気を、奔らせて。


「刀が、もっと濃く⋯⋯!?」


 驚愕を顔に浮かび上がらせながらも、千秋は覚悟を決め、顔を引き締める。


「────!」


「そう騒ぐな娘よ」


 千秋を殺そうと、丑の橋姫の手が伸びる。

 それを、ミツルギは霊気で止め、


「下賤なガキは嫌いなんだ、悪いがな」


 そう、千秋の死角になる位置に周り、わざわざ口にした彼は、あまりに底意地が悪い。

 そして、ミツルギの視線が、千秋をたどり、


「──教えてくれ、何を生きてきたのか」


 そう、明瞭な声で、丑の橋姫に語りかける千秋を見て、


「──それが貴様の答えか」


 と、誰にも届かない声でこぼしたのだった。



△▽△▽△▽



──見返したい。見返してやりたい。私はこんなところで燻る人間では無いのだと。


 幸せになる。そうなるために、私を蔑んできた全ての人間に復讐をしてやる。


 たとえ、私を形作る全てが泡沫の果てに消えようとも。



▽△▽△▽△



 女は、名を桜子と言った。貧しい家に産み落とされ、暴力と暴言の中で女は育った。


 女は、美しい黒髪と、美しい顔を持っていた。しかし、女に生まれたというだけで向けられる嫌な視線に、女はいつしか、何にも変え難い嫌悪感を抱くようになっていた。


 女は、いつしか思う。「私は、道具では無い。私に価値なんてつけさせない」と。


 しかし、現実は残酷だ。女には、才が無かった。勉学に励もうとも、それが意味を成すことは無かった。芸を磨こうとも、それは大衆の中に埋もれていった。女に残ったものは、非情なまでの美しさだけであった。


 女の両親は、醜い見た目をしていた。そのせいか、女は家庭内で酷く嫌われていた。「美しいだけありがたいと思え」「お前は普く大衆の一部だ。特別になろうなどと思い上がるな」と。


 女の中に、怒りと恨み、憎しみが募っていく。女の顔には価値が付けられ、血筋しか取り柄のない男の元に斡旋された。耳元で囁かれる、下卑た欲情の声。


 嗚呼、なんて醜いのだろうか。なんて汚らしいのだろうか。そんな声で、そんな顔で、


「──私に、触らないで!」


 女は、身につけていた簪で男を殺した。血が跳ね、興奮していたからだは酷く熱くなる。呼吸も調えぬまま、女はひたすらに夜の街を走る。


「──嗚呼、どうしてなの?」


「どうして私は、幸せになれないの?」


 どうして、あんな家に生まれなければならなかった? どうして、あんな男と添い遂げなければならない?


 全て、望んだものでは無かった。勝手に与えられ、勝手に決め付けられたものだ。


「そんなもの、私は選んでない」


 そう、選んでいないのだ。選ばなければならない。満足できる選択を。


「──私が幸せになれないのは、私の生まれを知っているやつのせいだ」


 藁人形を持ち、釘を力いっぱい刺す。金物がぶつかり合う音と、女の笑い声だけが、妖しい夜を美しく飾っていた。


 女の両親は死に、女の幼馴染は死に、女を知るものは誰もいなくなった。


「嗚呼、漸く! 漸く私は幸せになれる!」


 その、瞬間であった。


「──え?」


 女の体は、無数の釘で貫かれていた。赤黒く染まったそれを見て、女は唖然とする。


「──な、ぁ」


 人を呪わば穴二つ。その言葉を、女は知らなかった。だから、女が最期まで思っていたのは──、


「どうして?」




 私ばかりが、不幸になるのだろうか。



△▽△▽△▽



「──今のは、」


「此奴の記憶だ。刀が血を通してみた景色が、貴様の魂と共鳴し映し出したのだろう」


「──この人の、人生か?」


「嗚呼。実に空虚なものだろう。結局、此奴は、ありもしない幻想に縋っていたのだ」


 地面に落ちた首を、ミツルギが踏み潰す。

 その瞳には、拭いきれぬ怒りが滲んでいた。


「満足する幸せなどない。皆、誰かに不幸にされながら、個々の不快を抱えて生きている。他者の幸せを羨望するだけの此奴には、似合いの末路だ」


 物言わぬ死体が、命の終わりを強調するように崩れていく。

 その姿は、ひどく虚しく、


「絶対許さない」


 哀れであった。


「人を傷つけるって、そういうことだ。地獄に落ちても、お前は恨まれ続ける。きっと誰にも、許されない」


 その身に、触れるだけで傷つくほどの呪いを注がれ、一生消えない怨嗟を浴びながら生きることになる。

 でも、


「──ちゃんと罪を償え。そうして、次の人生では、人を呪うんじゃなくて、愛して生きていこう」


「──下らん」






「──お人好しといると、疲れるな」



▽△▽△▽△



「──は、あ」


 刀から色が消え、見た目ももとに戻る。

 凶暴化していた性格ももとに戻っている。


「──うぅ、疲れたぁ⋯⋯」


「おい貴様、刀をぞんざいに扱うな。殺すぞ」


「あ、ごめん⋯⋯」


 そう、千秋が返事をした瞬間、ミツルギの仮面の下の表情が、わかりやすく顰められた。


「え、なに? どうしたの?」


 心配になり、思わず近づく。

 そうすると、ミツルギは嫌そうな顔で、


「──そういうことか」


 と、こぼした。

 千秋には知る由もないことだが、ミツルギは、千秋の暴力性は、半分はもとからだと思っていたのだ。

 あくまで、刀の影響は少しだと。

 だが、


「ここまで、変わるものか⋯⋯」


 先程までの、怒りを煮えたぎらせるような顔ではなく、心の底から相手を心配するような顔が、ミツルギをじっと見つめていた。

 それが、ミツルギには面倒だったのだ。


「さっきの、下賤なガキって、雷斗のことじゃなかったんだね。刀が教えてくれた」


「──刀が?」


「うん。さっき、あの人の記憶を見たときに、一緒に言ってたから」


 千秋の言葉を受け、ミツルギは、大きくため息を付く。


「──貴様、刀の声が聞けるのか」


「? うん、そうみたい⋯⋯なんか、不思議だね」


 仲間を侮辱されていないとわかり、千秋は、ミツルギにそう笑いかける。

 ミツルギは、千秋の能天気さと楽観具合に頭を痛め、


「最悪だ、よりにもよってこの気質が⋯⋯」


「さっきは乱暴な言い方しちゃってごめん、刀を持つと、なんか乱暴になっちゃうみたいで⋯⋯」


「──最悪だ」


 頭を抑え、ミツルギは、不快感を顕にする。


「貴様、ここは貴様の家だな」


「うん、そうだよ」


「──首を出せ」


 どうして?と聞きたいのを我慢し、千秋が髪をまとめると、ミツルギの指先から光が伸び、千秋の首に細い痛みが走る。

 すると、


「これは契約だ、人間。貴様の死後、刀は我が貰う」


「──ミツルギは、俺に何をしてくれるの?」


「あぁ?」


「契約ってことは、ミツルギも俺になにかしてくれるんでしょ?」


 千秋の言葉に、ミツルギはしばしだまり、


「──殺さないでいてやる」


「それって、俺は物を失うけどミツルギは損しないんじゃない⋯⋯?」


「たわけが、貴様が死ぬまでの時間を失っておるだろうが」


「えぇ⋯⋯暴論⋯⋯」


 空間に、夕焼けが鮮やかに染みた。

 ミツルギの言い分は、すごく乱暴で、千秋のことをどうでもいいと思っているのだろうけれど、


 ──なぜだか、とても特別な日々が、始まるような気が、したのでした。

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