一章十六 『桜の中、笑顔がひとつ』
「というわけだ。閻魔」
「うーん⋯⋯霊石割ったの千秋の親だったんかぁ」
「びっくりした」と言いながら、閻魔は、千秋を見ながらけらけらと笑っていた。
千秋からすると、閻魔が認知するレベルで大切なものを壊した親への信頼度が急激に下がっている。
「閻魔は、俺の親のことって知ってたりとか⋯⋯」
「ごめんな? 守秘義務があるから話せないんだ」
「不便⋯⋯」
どうやら面識はあるようであるが、やはりここでも守秘義務が邪魔をする。
親が何者であろうと、千秋は千秋にできることをするだけだから、関係はないのだが。
「俺の親はすごい人みたいだけど、才能がまるで引き継がれてないんですけど!」
「まぁ、刀に適合できただけでも、一般人の中じゃ上澄みだぞ? こっち側じゃあ微妙だけど」
「うぅ⋯⋯」
一般人の中で凄かろうと、それを威張る気にはなれない。
戦う必要のない人の中で強いことなんて、自慢にもならない。
むしろ、戦う側の中で弱いことを、恥じるべきでさえある。
「倉橋さんも見える側だし⋯⋯もしかして、見える人って多いんじゃないの? 意外と」
「類は友を呼ぶというだろう? 千秋がたまたまそういう場所にいるだけさ」
「そうなのかなぁ⋯⋯」
霊力が高いとミツルギに一度言われたけれど、それが戦いで役に立ってくれたことはない。
むしろ、毎回痛めつけられて苦戦している気さえする。
刀のおかげで怪我や服などは修復されるし、結界内で起きた物の破壊は現実ではなかったことになるが、やっぱり痛いものは痛い。
「でも、身近に理解者がいるなら良かったんじゃないか? これから戦闘時に協力を仰げるだろう?」
「でも、倉橋さんをそういう危険には巻き込みたくないっていうか⋯⋯」
「たわけ、あの男は貴様よりずっと強いわ。⋯⋯だが、常時協力は仰げんだろうな」
ミツルギの言葉に、千秋は少し考え込む。
倉橋はミツルギを視認できる上、割といろんなことを知っているようであった。
だから、千秋より強いというのは、納得がいく。
だが、
「常時協力は仰げない⋯⋯?」
「嗚呼。見たところ、貴様の家はあの男の稼ぐ金で回しているのだろう? 貴様は学生故に休んでも大した損はないであろうが、奴はそうはいかんだろう」
「そっか、仕事が⋯⋯あれ? 倉橋さんの仕事って⋯⋯」
そういえば、倉橋がなんの仕事をしているのか、千秋は知らなかった。
そこも聞いてくればよかったと若干の後悔にかられていると、
「貴様は呆れるほどに馬鹿だな」
「え?」
「仕事など祓い屋以外にないだろう。霊力を持つものは、ほとんどが祓い屋をしている」
「え、そうなの!?」
またもや知らなかった常識を開示される。
だが、たしかに、倉橋の仕事は時間がいつもばらばらで、場所もいつも違っていた。
そういう仕事なのだろうと思っていたが、祓い屋なのだとしたら、納得がいく。
「──でも、仕事が何でも、協力してって言えないのは変わらないな⋯⋯」
祓い屋ならなおさらだ。
他の怪異を祓っている倉橋を呼びつけて手伝えなどと、とてもじゃないが口にできない。
「──まあ、怪異を祓うだけなら、刀があれば十分じゃないか? 世界存続に関わるレベルの怪異なら、オレが部下を向かわせるしな」
「そういえば、関わっちゃ駄目といいの境目ってどこなの?」
そこが気になっていた。
千秋もできる限りのことはするが、正直、遊園地の時のような怪異に来られたらすごく苦戦すると思う。
ひとりでは、なんとかできるかわからない。
そんなとき、味方がいたなら心強いのだが。
「基本的に、怪異の強さは本人の感情の強さと知名度に依存する。恨みが強くて有名な怪異なら強敵になる」
「感情⋯⋯」
その言葉に、千秋は腰に刺していた刀にそっと触れる。
千秋も、感情の強さと精神状態にかなり戦いを左右されるから、その理屈は納得がいく。
「それから、怪異の中でも、強さにレベルがある。その判別は世界への影響度で決めているんだが──」
閻魔がそこで言葉を切り、机の上においていた宝石を手にとって千秋に手渡した。
それは、透明に透き通っていて、不思議な輝きを放っていた。
「──これは?」
「それをかざせば、相手がどれだけ強いのかを色で教えてくれる。白が市の壊滅、灰が県の壊滅、黒が国の壊滅を意味する。──まあ、その中でも強さに差はあるがな。黒が出たときには、ミツルギの援護を許可するから、安心してくれ」
「県を壊すレベルは、俺が倒さなきゃなんだ⋯⋯」
そこまで口にして、気になることがあった。
「丑の橋姫って、どれくらいの強さだったの?」
「ん? んー、それは確か⋯⋯」
「黒だ」
「黒!?」
衝撃の事実に、開いた口が塞がらない。
つまり、国を壊滅させられる怪異を、千秋たちは遊び半分で呼び出してしまったというわけなのだが。
「初陣相手が強すぎる⋯⋯っていうか、それならどうして倒せたの? そこまで強いようには感じなかったけど⋯⋯」
「貴様の家に侵入しようとしていただろう。そこで力を消耗していた上に、我が妨害をしていたからな。そうでなければ、貴様らなどすぐに殺されておったわ」
「あの結界、そんなすごかったの⋯⋯?」
そもそも、国を壊滅させるような怪異がどうしてこっくりさんで召喚されるのだ。
それを食い止めるあの結界も不気味だが。
「──あ、ねえ閻魔」
「なんだ?」
「怪異と妖怪と幽霊の違いって何? よくわからなくて」
そこも気になっていた。
ミツルギは妖怪で、丑の橋姫が怪異だろうというふんわりとした認識だったから。
「それは簡単だ。幽霊は人の魂が行き場を失った姿。妖怪は人ならざるもの、怪異は怨念によって魂の汚れきった存在だ」
「ふーん⋯⋯なんか思ってたのと違うかも」
「まあ解釈は様々あるが、怪異は危ないってことだけ覚えておくんだな。妖怪と幽霊は意思疎通のできる個体も多いから」
そう言われると、わかりやすく感じる。
怪異は確かに、根本的な価値観が異なっているし、わかり合うことが難しいと感じるから。
「妖怪とは仲良くなれると思うんだ。ミツルギとは仲良くなれたし!」
「なってない」
「あはは、本当に千秋は怖い物知らずだな」
閻魔が心底楽しそうに笑い、千秋の顔を見つめる。
そして、
「よし、じゃあ千秋、長い休みのときでいいから霊石の回収を頼んでもいいか?」
「──長い休みのとき?」
「──? 普段は学校だろう?」
不思議そうに閻魔が首を傾げるのを見て、千秋はミツルギの方をじとりと見る。
すれば、流石にバツが悪いのか、ため息をつかれた。
「──ミツルギが、学校サボって探せって」
「は!? ミツルギ! それは駄目だぞ! 学校というのはな⋯⋯」
「──わかった。それでいい」
閻魔の話が長くなると悟ったのか、ミツルギはそう言ってめんどくさそうに首を振ると、
「──帰るぞ」
「嫌なこと言ったのがバレたからって⋯⋯むぐ」
「喧しい」
文句を言おうとすると、乱雑に口を抑えられ、引き摺られる。
ミツルギはそのまま閻魔の方を向き、
「──また用事ができたら来る」
「いつでも来いよ。せっかく教えたんだから、今度はマスコットの方でな」
「────」
心底鬱陶しそうにミツルギは長くため息を付くと、閻魔が住む城の入り口へと歩き出す。
「火車」
「はい。お帰りですか?」
「嗚呼。早くしろ」
「なんでそんな偉そうなの⋯⋯」
どこまでも偉そうなミツルギに千秋は呆れたようにため息を付くと、
「俺も学校あるんだから、ちょっとは話聞いてね」
「──気が向いたらな」
一章終わりました!
二章からは毎日投稿ではなくなりますが、より面白くしていきます!
お楽しみに!




