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第31話 果実

生存者はごくわずかだ。

男性が六人。女性四人。子供たちは十人生き残っていた。

それぞれが軽くない怪我を負い、包帯の匂いと血の乾いた臭いを滲ませていた。


井戸はあるが、食料がない。

全員のために動けるのは、ノエルだけだった。


里山に自生しているグアバをぎ、

熟れたバナナを籠に詰める。

果実の皮を破ると、甘い香りが指にまとわりついた。


生き残った人々は、それらの果実にむさぼりつき、

舌に広がる甘さと水分を腹へ落とし込んでいた。

噛む音と、喉を鳴らす音だけが、焼け跡に静かに響いていた。


彼らが食事している間、ノエルは葛のツルをつかって簡単な括り罠を設置した。

そうして罠を設置しながら、養蚕に使える野生カイコを探した。

ノエルがその日に出来たことはそれだけだった。


翌日。生き残りの男たちが、重い身体を引きずりながら作業に加わってくれた。

焼け残った家々を仮の住居とすることで、一応、雨風をしのげる場所を作り出してくれた。


女性たちは灰の中を掘り返し、まだ使える暖炉を探した。

女性の一人が塩の袋を一つ見つけ出してくれた。


村を去る者たちも大勢いた。

男たち三人は別の村に移住することを決め、

女たちも同じく三人が、別の村へ向かうと告げてきた。


せめて子供たちも一緒に、とノエルは交渉してみたが、

子供たちを引き取ってくれる大人は、ひとりもいなかった。


子供たちを見捨てられない。

その冷酷な判断が、どうしてもできない。


その時点からだろう。


すでにノエルは、

村の一員として働く者、

村の一部になっていた。




網を張り、発酵させた葉をかぶせてカイコを散らす。

カイコたちの糞を片付けて清潔を保つ。

里山から離れた場所で養蚕をする。これは御師様から学んだやり方だ。

子供たちは里山で採集をして暮らしている。

わき腹を痛めていた娘は無事に回復し、元気に狩猟をやっている。


娘はミラという名だった


「私は何だってできるのよ。」

「子供だってたくさん産むわ。」

「狩りも料理もうまいのよ。」

「私以上の女はいないでしょ。」

そう言って、ミラは胸を張る。陽に焼けた肌がきらりと光り、

髪が風に揺れ、獣の脂の匂いがかすかに漂う。


君は最高だよ、とノエルは言う。


ミラは可愛くて、そして強引だ。


安心して熟蚕が得られるまで数カ月かかる。


「いつも思うのよ。あんたには度胸ってもんがあるのかしら、ってね」


ミラはそう言ってノエルを怒らせる。


養蚕に必要なものは度胸より根気だ。


ノエルはそう言い返す。


「はっきり言ってあんたと一緒にいるくらいなら、その辺の虫と一緒の方がマシだわよ」


ミラはそう言ってノエルを怒らせる。


虫は村を立て直そうなんてしないだろ。


ノエルはそう言い返す。


子供たちが「山賊がきたよ」とノエルに言う。


ミラに子供たちを預け、そしてノエルは里山を歩いて下りた。


山賊は二十人近くいたが、半数以上が手ぶらなことに驚いた。武器は銃剣付きのライフルを持っている人間が六人。残りはナイフや鉈しかもっていなかった。彼らは再建した村の片隅に陣取り、酒盛りを始めた。


ノエルは家屋の外に出た男の頭に剣を振り下ろした。驚いて飛び出してきた男の胸に剣を突き刺した。銃を構えて出て同時に三人が現れた。一人を銃ごと切断し、もう一人の首を裂き、最後の一人の顔面に刃を押し当てた。超高速で伸縮する魔剣が男の顔に沈んでいく。ノエルは返り血で真っ黒になっていた。


男たちの驚く間に、素手の人間二人を切り裂いた。一人が銃を発砲したが、動くノエルに当たらなかった。ノエルはライフルを持つ一人を切り裂いた。もう一人を突き刺した。ライフルを持つ人間がいなくなり、ノエルは機械的に移動しながら切り裂いていく動きを繰り返した。それだけで山賊の連携は完全に崩壊していた。逃げる者は逃げるに任せた。山賊たちは算を乱して村から姿を消していた。


結局、強い人間は一人もいなかった。皆、ノエルと同じ弱い側の人間しかいなかった。




そうしてノエルは養蚕を続け、熟蚕を量産できるようになった。子供たちはミラと一緒に狩猟採集に出かけ、そして山菜や果物を食べて暮らしを立てていた。ミラはイノシシを仕留め、肉料理を振舞ってくれた。ミラは燻製肉を作るのも上手だった。


食事と安全を確保できた。


そうしてようやく、ノエルはおそるおそるミラに付き合いを申し出た。

「遅いわよ。」

とミラは叫んだ。

「まあいいわ。」

とミラは言葉を重ねていた。


それから村に変化があった。行商人が立ち寄るようになった。竜人たちが住み着くようになった。霊報(電報)という仕組みを活用するために霊導線(電線)が引かれるようになった。


ミラが長男を生んだのは、そのころのことだった。


子供たちがようやく働ける年齢になり、米の栽培ができるようになった。


新しい男女が村に住むようになり、村の中心で物の売り買いが盛んになった。


ノエルはミラとの間に三人の子をもうけた。気が付くと、別に若い年齢でもなくなっていた。


ノエルは子供たちに言う。

「お前たちは大丈夫だ。」

ノエルは子供たちに歌う。

「お前たちの安らぎを祈っている。」

子供たちは笑う。

「お父さんはそれしか言わないんだから」


ノエルは静かにうなづく。

「そのとおりだな。」

そう言ってさらに言葉を重ねる。

「でも大切なことなんだ。」

ノエルはそう言って、子供たちを静かに撫でた。



【完】


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