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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ


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7/14

分断の種は静かに撒かれる

今回は王都側の動き。

剣ではなく、言葉で戦う回になります。

王都ブリュード、王城最上階。

重厚な扉の向こう、執務室には静かな緊張が満ちていた。


机いっぱいに広げられた地図。


その前に座る男は、

まるで大理石から削り出された彫像のようだった。


長い睫毛の影が白い頬に落ち、

整いすぎた輪郭は感情を拒む刃のように鋭い。


淡い銀の髪が光を受け、静かに揺れる。


「……遅いな」


ぽつりと漏れた声には、苛立ちが滲んでいる。


本来なら、とっくに報告が届いているはずだった。

ゴミ捨て場――処分したはずの異世界人の痕跡について。


「フェルマーめ……」


蒼い瞳がゆるやかに細まる。


あの男は有能だ。

天才で、合理的で、感情に左右されない。


「死ぬこともあり得ない。

 あれは千の魔物に囲まれても無傷で撤退出来る男だ」


(だが、報告がない)


それはつまり――

「想定外」が起きている。


(異世界人は、理屈通りに動かんことがある)


ジギスムント王は小さく息を吐き、指を鳴らした。


「来い」


影から、数人の側近が姿を現す。

諜報担当、心理操作担当、魔術顧問。

いずれも暗部と呼ばれる汚れ仕事専門の者たちだ。


「魔王城に流す噂を用意しろ」


彼らは一斉に頭を下げる。

「内容は?」


ジギスムントは淡々と告げた。

「聖女の浄化を否定する噂だ」


暗部の一人が口元を歪める。

「何の力もない筈では?」


「確かにな、

 だが、異世界人を捕食した魔物が何か力を得たかも知れん」


「そして、目覚めるとしたら浄化だろう」


「そこまで推察されるとは恐れ入りました」


「浄化は自由を奪う洗脳、人格を書き換える危険な力。

 従えば従うほど、自我が薄れていく――そういう話にしろ」


彼は足を組み換えながら続けた。


「特に、中層の魔物たちに効く内容にする。

 権力欲の強いデーモン。承認欲の強いサキュバス。

 ノリスが不在でも奪われることを何より恐れるだろう」


冷静な分析だった。


「浄化=救済」ではなく、「浄化=人格の死」。

そう思わせればいい。


「それと、魔物を安心させてやれ。

 魔王ノリスはいずれ巨大な力を得て城に戻るとな」


側近がうなずく。


「では、現魔王ノリスの警告として偽情報を流しますか?」


「そうだ」


王の笑みは酷薄だが美しかった。


「『浄化された魔物が、感情を失い、命令に逆らえなくなった』

 『意見した個体は処分された』

 ……そういう話が一番効く」


彼は椅子に背を預ける。


「真実かどうかはどうでもいい。

 疑念が芽生えれば、それで十分だ」


しばし沈黙。


側近の一人が、ためらいがちに口を開く。


「……フェルマー殿は?」


ジギスムントの目が、わずかに細くなる。


「捜索は続けろ。だが、深入りはするな」


彼は少し考え、低く付け加えた。


「裏切るなら、その時に処理する」


冷たい声だった。


フェルマーは便利だ。

だが「成果」にしか忠誠を持たない人間でもある。


(あの男は遊ばせるのが一番いい……)


ジギスムントは口角を上げる。


「私はロンデル公国に出向く。

 そろそろ包囲が完了する頃だ」


長身の影が床に伸びる。


均整の取れた肢体は、戦士のそれではない。


支配者の姿だ。


「ノリスが完全に滅ぼしてしまったら再建に時間がかかる。

 準備を急げ」


王は窓外を見たまま、動かない。


遠く、魔王城の方向に黒雲が垂れ込めている。


「仮に魔物が千集まろうと、王都軍は四万だ」

 戦争にもならん」


ふと、冷たい声が室内に落ちた。


「誰か、異世界人の女の名を覚えているか?」


誰も答えられない。


「フェルマー殿が戻ったら聞いてみましょうか…」

「いや、命令が実行されればそれでいい」


そして、暗部の姿が消えた。


「……聞いたか?

 ノリス様が裏切り者を殲滅しに戻ってくると」


その頃――

魔王城中層ではすでに噂という名の毒が、

静かに、確実に、流れ始めていた。

お読みいただきありがとうございます。

浄化は救いか、支配か。

次回、魔王城に揺らぎが生まれます。


ジギスムント〈AIイラスト〉

挿絵(By みてみん)

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