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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第三章 ロンデル公国編

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黒翼と白光

ヒマリの衰弱を見て、ノリスが現れます。

 夜の王都ブリュードは、灰色に濁っていた。


 火災の煙。

 砕けた結界の残滓。


 空を焦がした魔法の痕。


 二度目の夜も何も変わらない。

 ただ、戦争だけが続いている。


「南門急造バリケードを設置、騎馬隊を迎撃!」


「南区避難、第二区画まで完了!」


「シュルツ将軍より伝言。我、軽傷なり、援軍不要とのこと!」


 参謀部から報告が次々とあがる。


 ヒマリは、仮設避難所で

 戦況図を睨みながら指示を飛ばし続ける。


 休息は、ほとんど取れていない。


「城内、再び圧力上昇」


 フェルマーが険しい顔で告げる。


「ジギスムント軍が再編を終えた。

 夜襲を仕掛けてくる可能性が高い」


「……まだ来るんだ」


「消耗戦だ。完全に君を削るつもりだな」


 ヒマリは、小さく息を吐いた。


 分かっている。

 ジギスムントの狙いは、王都そのものではない。


 “女王”を壊すこと。


 その時だった。

 空気が、凍る。


 ぞわりと、背筋が粟立った。


 迎撃を終えたばかりの中央広場に

 黒い魔力が渦を巻く。


 次の瞬間。

 一人の女が、静かに姿を現した。


 黒翼。


 赤紫の瞳。


 以前よりも禍々しい魔力。


 魔王ノリス。


「――久しぶりね」


 静かな声だった。


 だが、その一言で周囲の空気すべてが支配される。


 フェルマーが即座に前へ出る。


「捕縛結界展開!」


「無駄よ」


 ノリスが指を鳴らした。

 結界が悲鳴を上げる。


「馬鹿力め……」


 軋み、ひび割れ。

 圧倒的な魔力で二重の捕縛結界を砕く。


 だが、ノリスはすぐに攻撃してこなかった。

 じっと、ヒマリの様子をうかがう。


「ボロボロね」


 小さく笑う。


「市街地を見捨てれば、そこまで消耗しなかったのに」


 ヒマリは、まっすぐ彼女を見返した。


「ノリス……

 あれほど嫌っていたジギスムントと組むなんて」


「あなたには分からないわ」


「《異界召喚の指輪》を使ったのね……」


「ええ」


 ノリスは楽しそうに肩を竦める。


「便利だったわ。世界の外から、

 いくらでも力を引き出せる」


「ジギスムントからの見返りはそれだけ?」


 一瞬だけ。


 ノリスの瞳が揺れた。


「……賢いわね」


「そんなことをしても、あなたは救われない」


「黙りなさいっ!」


 轟音と共に黒い魔力が爆発する。

 石床が砕け、壁が軋んだ。


 兵士たちが吹き飛ばされる。


 だが。


 ヒマリは、退かなかった。


「まだ立ってるのね」


 ノリスが呟く。


 ヒマリは静かに答えた。


「立たなきゃ、守れないから」


 ノリスは目を細めた。


「王って、惨めね」


 静かな声だった。


「守れば守るほど、自分が壊れていく」


 ヒマリの指先が、わずかに震える。

 それでも、目は逸らさない。


「……そうかもしれない」


 ノリスが僅かに目を見開く。


「でも」


 ヒマリは、一歩前へ出た。


「私は、もう聖女じゃない」


 守るものから、逃げない。


「あなたがなれなかった――王になったのよ」


 爆音が止み、世界が息を吞んだようだった。


 やがて、ノリスが、静かに笑う。


「……そう」


 その瞳に、歓喜が宿る。


「なら、試してあげる」


 次の瞬間、空が裂けた。


 王都上空に、巨大な黒い裂け目が出現する。


『異界反応急上昇!!』


『魔物出現数、計測不能!!』


 警鐘が鳴り響く。


 そして。


 裂け目の奥から現れた“それ”を見て、

 誰もが息を呑んだ。


 異界魔物。


 その群れが、ノリスの身体へと絡みついていく。


 黒紫の装甲。

 蠢く刃翼。


 蛇のようにうねる生体武装が無数の目を光らせる。


 異形。


 まるで、生きた兵器。


「これが、私の王道よ」


 装甲が脈動すると

 空間が悲鳴を上げた。


 ヒマリは、思わず眉を顰める。


 生理的な嫌悪感。


 だが、それ以上に。

 痛々しかった。


「人も、魔物も、全部駒にして……」


 ヒマリが静かに言う。


 ノリスは笑った。


「王とはそういうものよ」


「違う!」


 即答だった。


「命は、道具じゃない」


 一瞬、ノリスの瞳が揺れる。

 ほんの僅かに、傷ついたように。


 だが次の瞬間、彼女は哄笑した。


「いつの間にか、偉そうにっ!」


 黒翼が一閃。


 無数の斬撃が、王城へ降り注ぐ。


「防壁展開!!」


 広域結界が展開される。

 だが、フェルマーの魔力もすでに尽きていた。


 爆炎が上がり、城壁が崩壊する。


 避難民の悲鳴。


 王城外縁が、一気に焼けた。


『避難区域、被害拡大!』


『負傷者、多数!!』


 ノリスが、静かに言う。


「守るほど、壊れる」


「王って、辛いでしょう?」


 ヒマリは、歯を食いしばった。


 悲鳴が耳に残る。

 苦しい、全部投げ出したい。


 それでも。


「クルス!」


 叫ぶ。


『わかっている。君の波形に合わせ

 魔力供給を更に二倍、三秒間限定で上乗せする。

 ……耐えられるか?』


「やって」


 静かな声が響いた。


『供給制限、限定解除』


 瞬間。


 ヒマリの足元から、巨大な魔力柱が立ち上がる。


 無数の魔法陣。


 奔流のような魔力がヒマリの血管を走り心臓が焼ける。


 三秒だけ。しかし、その三秒は永遠のように感じられた。


「……終わらせる」


 白光を纏った無数の魔法陣が、ノリスに角度を合わせていく。


 ノリスが、初めて楽しそうに笑った。


 次の瞬間。


 ノリスの姿が消える。


「っ――!」


 衝撃。


 結界が砕け散る。


 ヒマリは咄嗟に光壁を展開した。


 だが。


 ノリスの拳が、それごと叩き割る。


 速い。


 魔王城の時とは比べ物にならない。


『ヒマリ、時間切れだ』


 頭の奥で、クルスの声が響く。


『オーバーフロー解消に五分』


(上空の魔法陣が消されている……!)


 ノリスが笑う。


「どう? これが自由よ」


 黒い魔力が空気を歪める。


「ヒマリの支配が届かない魔王」


 魔王城からの魔力供給が途絶えた。

 ヒマリの膝が地に付く。


 それでも。


「ノリス」


 真っ直ぐ、彼女を見る。


「あなたが壊れていくのを、見たくない」


 ノリスの笑みが止まる。


「……あと一撃で私の勝ちよ」


「まだ遅くない」


 ヒマリは目を逸らさない。


「あなた、本当は分かってるでしょう」


 静かな声。


「ジギスムントに利用されてる」


 沈黙。


 ノリスの瞳が、揺れる。


「それでも止まれなかった理由がある。違う?」


「……余計なお世話よ」


 ノリスの装甲から蛇の魔物が分離し、無数の牙が襲い掛かる。


「そう」


 ヒマリは、小さく息を吐いた。


 そして。


 残された白い魔力を解放する。

 糸のようなか細い魔力。


 だが、異界魔力だけを剥がす、精密制御。


 ノリスの装甲の隙間から、蛇の魔力が悲鳴のように剥離していく。

 

「……っ、やるじゃない」


 異界の魔力供給が剝がされ、

 すでに限界を超えていたノリスも膝をついた。

二人の対決は対話から始まりました。

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