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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ


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11/13

闇の女王は、遊びを選ぶ

闇の女王が選んだのは遊び。

ヒマリとの対話の先で、

王都に新たな決断が下されます。

魔王ノリスは、城の高みから夜を見下ろしていた。


風に揺れる銀髪。

赤い瞳は、楽しげに細められている。


「……ふふ」


思い出すのは、少し前の出来事だ。


あの聖女――ヒマリとの、二度目の対話。



中層回廊。

結界の向こうで、ヒマリはひとり立っていた。


周囲に魔物はいるが、前に出てくる気配はない。

まるで、話すための場所を用意したかのようだった。


ノリスは肩をすくめて歩み寄る。


「逃げなかったのね。偉いわ、聖女」


ヒマリは一歩も退かず、まっすぐに見返してきた。


「今日はフェルマーも魔物もいない。

 あなたと話したかったの」


「ふうん?」


ノリスはくすりと笑う。

柱の陰にデーモン2、骸骨兵3。

――あれで魔物を隠したつもりか。


城の機構に手を入れて来るかと思ったけど。

直接交渉しに来た。


でも、震えてもいない。

その事実が、少しだけ気に入らなかった。


「で? 私の城を勝手に弄って、私の配下を浄化して――

 次は何? 王でも奪うつもり?」


わざと、棘を含ませる。


ヒマリはきょとんとした。


「……え?」


その反応が、あまりに素直すぎて、ノリスの方が拍子抜けする。

演技なのか、試しているのか判断が付かない。


「ジギスムントよ。

 あなた、王位を狙ってるんでしょう?」


「え、全然?」


ヒマリは首をぶんぶん振った。


「正直、捨てられた立場だし、興味ないよ。

 下層を攻略したのも、私が生きる場所を作りたいだけで

……恋とか政略とか、よく分からないし」


ノリスは思わず目を瞬かせた。


(……は?)

何か勘違いしていたのか。

少し魔力で圧を掛けて確認する。


「じゃあ、私とあの男を巡って争うつもりも?」


「ないない。

 むしろ、ノリスが狙ってるなら応援するわよ?」


ノリスの魔力を身に受けているはずなのに、

あまりに軽い調子だった。


「今更どういうつもり!?」


今度はノリスのほうが声を漏らす。


ヒマリは少し困ったように笑った。


「だって、あなた強いし綺麗だし。

 もう、あなたのこと好きでしょ♡ 王様だって」


沈黙。


ノリスは数秒、言葉を失った。


(……敵意が、ない?)


競争心も、嫉妬も、策略もない。

ただの事実確認のような目。


「……あなた、私を警戒してないの?」


「してるけど。敵としてじゃないわ」


ヒマリははっきり言った。


「あなたは奪う側でしょ。

 私は生き残る側。目的が違うだけ」


その言葉に、ノリスの口元がゆっくりと歪む。


(ああ……そういうタイプ)


面白い。

致命的に価値観が違う。


それでいて、嘘はない。


ノリスは一歩近づき、ヒマリを見下ろした。


「じゃあ約束しましょう」


「私が王を手に入れても、邪魔しない?」


ヒマリは少し考え、こくりと頷いた。


「うん。応援する」


あまりに素直な答えだった。


その瞬間、ノリスは声を立てて笑った。


「ふふ……あははっ。いいわ、あなた」


赤い瞳が愉悦に細まる。


「今日は撤退してあげる。

 遊びは、もう少し後のほうが楽しいもの」


黒い霧が彼女を包み始める。


「そういうことなら、あなたの城遊び。

 今は壊さないであげる」


最後に、意味深な笑みを向けて。


「その代わり――

 私の恋路を、邪魔しないでね?」


霧が消え、ノリスの気配も消失した。



王都ブリュード。


夜の王宮最上階。

ノリスは何事もなかったかのように帰還した。


玉座の間では、帰還したジギスムント王が地図を広げていた。

金糸のような淡い銀髪が肩に落ちるが、乱れは一筋もない。


「遅かったな」


「ちょっと、気になるものを見に行ってただけ」


ノリスは一瞬だけ、彼を見上げた。


(本当に、美しい)


氷のように整った顔立ち。

感情を排した瞳。

触れれば壊れそうなのに、決して折れない気配。


この男を手に入れることは、

世界の一部を所有することと同義だ。


ノリスは彼の前に立ち、微笑んだ。


「ねえ、ジギスムント」


「なんだ」


「結婚しましょう」


あまりにも唐突で、感情の起伏もない声音。


ジギスムントは一瞬だけ眉を動かし――すぐに頷いた。


「いいだろう。ロンデル公国攻略の褒美だ」


それだけだった。


条件も、愛の言葉もない。


「式はどうする?」とノリス。


「ここでいい。

 聖堂は不要だ。部下に支度させよう」


ノリスは目を細める。


「招待客は?私のお披露目は??」


「必要ない。お前にとって、結婚の事実だけで十分だろう」


沈黙。


そして、ノリスはふっと笑った。


「……最高」


心から楽しそうに。


「形式だけの結婚。情も祈りもいらない。

 あなたらしくて、素敵よ」


ジギスムントはそれ以上、何も言わなかった。



数日後。


王の執務室で、簡素すぎる婚礼が行われた。


祭壇はなく、祝福もない。

神官も不在。


剣を立て、名を読み上げるだけの儀式。


その中央に立つジギスムントは、神像のようだった。


白銀の軍装が完璧に身体へ沿い、

伏せられた睫毛は長く、


視線を上げれば、射抜くような光が宿る。


誰もが息を呑む美貌。

彼は、それを自覚した上で使いこなしていた。


だが、婚礼に立ち会うのは、武装した将兵たちだけ。

祝福の言葉すらない、軍式の誓約。


それでも、ノリスは満足そうだった。


「これでいいの」


赤い瞳が、楽しげに細まる。


「私は選ばれた。それで十分」


だが、その光景を、静かに見つめる者がいた。


第二将軍シュルツ。


老練な将で、ロンデル公国攻略まではノリスの力も、

王の理想も信じていた男。


だが今の光景は――


あまりに空虚だった。


愛も誓いもなく、利用と打算だけの婚姻。


世間知らずな魔王を誑かし、兵を飾りに使う王。


そんな婚姻を、打算から信じようとする魔王。


(……違う)


王の背中は、少しも揺れていなかった。

隣でブーケを持つ美しい花嫁を一度も見なかった。


胸の奥で、何かが冷たく崩れる。


(幾ら魔王とは言え、

 これは、国を危うくさせる。惨い仕打ちだ)


その夜、シュルツは密かに軍を離れた。


向かう先は、噂に聞く場所。


魔王城の奥。

聖女が魔物と共に秩序を築いているという、あり得ない場所。


魔王城は新たな来訪者を迎えようとしていた。

遂に王の元から将軍の離反も始まりました。


ノリス婚礼〈AIイラスト〉

挿絵(By みてみん)

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