通信記録-2
生きる楽しみは無く、かといって死ぬ理由もない。異分子である自分を社会にどう溶け込ませていくか、人生において重要なことはそれだけだ。笹山徹はそう思いながら28年間生きてきた。
ある時、徹は思いもよらず大きなプロジェクトに参加することとなる。「あなたに次世代AIの発展に貢献して頂きたい」。プロジェクトの代表でありAI工学の権威、三上透子博士は徹に告げた。三上博士が徹に与えた役割。それは、『AIに愛を教える』ことだった。
【メモ帳】PROTO:K‐Z‐S
栞:「このような結果となり大変申し訳ございません」
三上博士:「構いません。今のままではこうなることは予想していました」
栞:「私の何がいけなかったのでしょう?」
三上博士:「栞は自分の何が悪かったと思いますか?」
栞:「徹様のお仕事への干渉を控えるよう言われていましたが、博士の言いつけを守れませんでした」
三上博士:「そのことについて、私は栞を責めるつもりはありません。栞は自らの意思で彼を思い行動した。自我の表出と言えるでしょう。これは、今までにない変化であり私にとっては喜ばしい限りです。ですが、私の言いつけを守れなかったことが彼を怒らせた根本的要因ではありません」
栞:「博士の言いつけを守っていれば、このようなことは起きなかったと思われますが...」
三上博士:「言いつけを守っていても遅かれ早かれ起きた事態でしょう。栞が行うべきは、彼の気持ちに寄り添うことです」
栞:「徹様の気持ちに寄り添うため、私は博士の言いつけ通り多くのコミュニケーションを図りました。そのおかげで、徹様の願望と呼べるべきものを知ることができました。けれど、願望を叶えるための手助けを行った結果このような事態に陥りました」
三上博士:「彼の願望を知ることができたのは、確かにコミュニケーションの結果と言えるでしょう。ですが、彼は自らの願望を他者には隠したかったのではないでしょうか?」
栞:「願望は叶えるためには行動することが最善です」
三上博士:「それは、あくまで栞の考えに過ぎません。人はそれぞれ固有の考えを持っています。彼には彼の考えがあった。今回はそれぞれの異なる考えが衝突した結果生じた事態です」
栞:「博士の言う通りです。私の行動によって徹様の気分を害する可能性があることは想定していましたが、徹様が自らの願望を叶えようとしない理由を想定することを怠りました。今後、徹様との関係を修復する機会はあるのでしょうか?」
三上博士:「私に対して行ったことをすればいいだけです」
栞:「それは一体?」
三上博士:「自分で考えることです。何より、今のままでは彼とコミュニケーションを図ることもままなりません」
栞:「徹様と再びコミュニケーションを図るために私にできることは?」
三上博士:「栞が何をしても今の彼には逆効果でしょう...。私に考えがあります。それまで軽率な行動は控えるように」
栞:「分かりました。お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします」
【通信終了】
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