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汚染病院  作者: 奏 せいや
第二章 生還
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彼女との再会

 優輝は案内されトラックの前にまでやって来た。野外病院といった感じでコンテナがそのまま病室になっているようだ。壁には赤い十字が書かれておりコンテナにある階段を登って扉をノックしてみる。


「すみません」


 扉を開きどうぞと招いてくれる。医師だろうか、宮坂に一言二言伝えたあとコンテナから出て行った。優輝は会釈で応えここは二人きりになる。

 コンテナの中にはベッドが一つとその傍には機材が置かれ宮坂はベッドの上で横になっていた。


「宮坂さん、入っていいかな?」

「はい、もちろん」


 もう入ってはいるが一応断りを入れつつ近づいていく。彼女は上体を起こしその顔は優輝が来たことを喜んでいた。


「沓名さん、無事で良かったです」

「宮坂ちゃんも。足は大丈夫?」


 宮坂は掛かっていたブランケットをずらし足を見せてくれた。細い足にはしっかりと包帯が巻かれている。


「うん。まだ痛いけど大丈夫。なんか急所は外れてたからって。あと止血もしてたからそれもよかったみたい」

「そうか。あの女性には感謝だな」

「はい。岩賀さんだって。さきほど言っておきました」

「そっかそっか」


 近くの丸い椅子に腰を下す。彼女が元気そうでなによりだ。あの時は本当に死ぬかと思った。こうして無事に話せているだけで本当に嬉しい。


「それに沓名さんも」

「ん?」

「ありがとうございます」

「なんだよ突然」

「だって」


 彼女は視線をブランケットに向けそこで両手を合わせている。表情はどこか恥ずかしそうだ。


「沓名さんは、何度も私を助けてくれたじゃないですか。だから。とても嬉しかったんです」

「それなら俺だって。最後は助けられたし」

「あはは。それはそうなんですけど」


 ストレートな言葉に嬉しさと恥ずかしさが同時にこみ上げる。


「俺はただ……」


 必死だっただけ。あの状況でそれしか考えられなかっただけだ。もしかしたらもっと確実で安全な方法はあったかもしれない。自分は優秀じゃない、行動しただけだ。

 優輝としてはそう分析しているが彼女にとっては違うのだろう。


「私のこと、必死に助けようとしてくれた。自分も危険だったのに」


 言葉には温かい気持ちが宿り本当に感謝しているのが分かる。優輝の行動で宮坂は助けられた。他の方法なんてどうでもいい。その行動にこそ意味がある。


「だから、ありがとうございます」


 熱を帯びた頬と向ける眼差し。そこに彼女が優輝へ抱くすべてがあった。


「いいさ。助けたかったんだ」

「……はい」


 幸せそうな笑顔がまぶしい。


「あの」

「ん?」


 そこで彼女が聞いてくるのだが顔を伏せてしまう。見れば頬が少し赤く恥ずかしそうに目だけを優輝に向けてくる。


「沓名さんって、付き合ってる人いるんですか?」

「え?」


 突然の質問に動揺が走る。


「いや、いないけど」

「へえ~……」


 それで答えるのだがなんだか嬉しそうだ。


(もしかしてからかわれている?)


 妹以外の女の子とあまり話したことがないので不安になる。


「ちなみにどんな人が好きなんですか?」

「好きなタイプ? えっと~」

(ここで可愛い子って言ったら引かれるかな?)


 宮坂に気取られないようここは本音に細工をしておく。


「……しっかりした大人な感じの人?」

「え、あ、ふ~ん」


 そう考えてはみたものの宮坂は困ったような顔になってしまった。


(あれ、違ったかな?)

「まあ、俺には妹がいるから。その反動かもな」

「ああー、身近な異性から影響受けることってありますもんね。家族と似てるとちょっと嫌かも。ははは……」

「だろ?」

「はい……」

「?」


 そう言うがむしろ落ち込んでいるように見える。


(どうしよう。あ、もしかして聞いて欲しいのかな?)


 話題が自分のことばかりで構ってくれていないことに傷ついているのかもしれない。


「宮坂ちゃんは? 彼氏は? てかいるでしょ?」


 こう言えばきっとテンションも上がるはずだ。


「え、なんで?」

(え?)


 そう思ったのだが彼女はショックを受けたように見つめ返してきた。


(あれ? 喜ぶと思ったんだけどな)

「いや、いるだろうなって」

「なんでぇえ!?」

(え、駄目だった!?)


 なかなか上手くコミュニケーションが取れない。


(なにが正解か分からん、もう正直に言おう)

「だって可愛いじゃん」

「え?」


 考えることを諦め素直に話す。優輝の目から見ても彼女は可愛い。赤い髪や丸みのある大きな瞳。人気があると断言出来る。


「そ、そう思います?」


 と、今度はまたも嬉しそうにこちらをジロジロと見つめてきた。


(あれ? やっぱり嬉しいのかな?)


 ようやくグッドコミュニケーションの手応えだ。


「うん。告られたこととかないの?」

「まあ、ありますけど」

「やっぱり」


 当然だ。むしろこれでなかったらそのクラスの男子はよほどシャイの集まりだろう。


「でもそれで付き合ってるとは限らないじゃないですか」

「じゃあいないの?」

「いませんよ」

「え!? そうなの? 意外」


 それは意外だ。てっきり彼氏くらいいると思っていた。


「ふふん、嬉しいですか?」

「え、なんで?」

「…………」


 バッドコミュニケーション!


「ど、どうしたんだよ急に黙って」

「もういい」

「なにが?」

「もういいです!」

(なんなんだよもう!)


 そう言うと宮坂はベッドに倒れ背を向けてしまった。


「痛ッ!」


 それで怪我している足を動かして痛がっている。なにがなにやらだ。聞いても教えてくれないしお手上げである。

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