第九話 エーテル体の使い方
夜が明けた。
山の霧が薄れていく。冷たい風が肌を刺す。
僕と雨宮は、滝の前に立っていた。
昨日までの修行の疲労で、足がまだ重い。
だが、雨宮の顔はやけに楽しそうだった。
「さて、練。今日から“本物”の修行に入るぞ」
「今までのは……?」
「前菜だ。ここからがメインディッシュ。
――“エーテル体”の訓練だ」
彼女は滝壺に向かって歩き出した。
足元の石を軽く蹴ると、その衝撃だけで小石が砕ける。
エーテルが指先から、淡く赤く漏れていた。
「見ての通り、エーテル体は“外装”。
体を包むエネルギーの膜。
防御にも、攻撃にも、そして――再生にも使える」
雨宮は右腕を軽く切りつけた。
血がにじみ、次の瞬間、皮膚が光と共に閉じていく。
「……治った!?」
「ええ。
肉体を包むもう一つの身体――“光の肉”ってやつだな。
けど、制御できないと、ただの光る皮だ。
今日は、それを纏わせる訓練をする」
⸻
僕は滝の下に立たされた。
水圧が頭を叩き、全身の骨がきしむ。
「…師匠。これ、普通に死ぬやつじゃない?」
「大丈夫。死ななきゃ強くならない」
滝の冷水が頭を割くように流れる。
体温が奪われ、感覚が遠のいていく。
けれど、その中で、何かが動いている気がした。
――尾てい骨の奥。第一チャクラ。
そこから熱が生まれ、腹に登っていく。
その熱は、水流の冷たさを焼き切るように上昇していった。
僕は無我夢中で息を吐き、両手を前に出した。
指先が、かすかに光った。
「……出た」
「違う、纏うんだ! “出す”んじゃなく、“着る”!」
光を放つのではなく、皮膚に沿って這わせるように。
腹から、胸へ。腕、脚、首筋へ。
光が、まるで生き物みたいに身体を包み込む。
その瞬間――滝の衝撃が、ふっと軽くなった。
「……重くない」
「そう。それがエーテル体。
水も風も、力を吸い上げる媒介になる。
世界と身体の間に、もう一つの“肉体”を纏うんだ」
⸻
滝の下で、僕は初めて自分の体を見た。
薄い赤橙の光が、全身を覆っている。
呼吸と連動して光が揺らめく。
拳を握ると、光が集まる。
解くと、風が生まれる。
「――これが……僕の、エーテル体……」
そのとき、滝の上から岩が崩れ落ちてきた。
咄嗟に拳を握り、力を集中させる。
腕が震え、拳に光が凝縮した。
空気が唸る。
「――はぁ!!!」
拳から放たれた光が岩を粉砕し、水柱を爆発させる。
滝が一瞬止まった。
雨宮が微笑んだ。
「それだ、練。それが“エーテル拳”。
命の炎を一点に集めて撃ち出す力。
でも気をつけなさい。命を燃やすってことは、
そのぶん、生きる覚悟も燃えるのだ」




