第三話 邂逅
森を抜けると小屋があり、そこへ誘われた。雨宮はここに住んでいるらしい。
雨宮の小屋は質素で何もなかった、香草を調合する器具と簡素なベッドがひとつ。ヨガマットの様なものがひとつ、テーブルがひとつ。
僕は気分が悪くなってきた。青ざめる僕の顔を見て雨宮は
「ああ、そうだった。この世界に来た時私もそうなったんだった。無理もない――死と再誕を経験したのだから、身体にも精神にも大きな負荷が掛かっている。そこのベッドで休むといい」
僕は言われるままにベッドに横になった。雨宮は何か香草を焚いてくれた。
「ここアールヤ界に自生している薬草だ。アリハナと言う。リラックス効果があるものもあれば、テンションうはうはになるものまで、乾燥のさせ方や、品種によって効果は異なるが、瞑想に適したものである事は間違いない。今回君は死を経験して緊張状態にあるはずだからリラックス効果の高いものを使用している」
雨宮はそういうと何か呪文の様なものを唱え始めた――
僕はゆっくりと目を閉じて眠りについた。
雨宮の小屋に着いてから三日が経った。
僕の思考は少しずつ回復していき、色々な疑問が湧いて来た。
この世界とは? 雨宮とは? 瞑想?
「私も神ではないからすべてを知っているわけではない――。私が出来るのは自己紹介くらいだ。私は雨宮カトリーヌ。10年前にここに来た。ここに来る前は大手の商社で働いていて、交通事故で死んだ。瞑想とヨーガの修行を行っていて元の世界に戻ろうとしたが、3年前にあきらめた。ここに来てもう10年になる。今では薬草作りと瞑想グッズを販売して生計を立てている」
「この世界は一体なんなんですか?」
「ここはアールヤ界と言って死後の世界だ。ここに来るまでに天使みたいなのに説明を受けなかったか?」
雨宮はそこからも何かしゃべっていたが、僕は途中から理解するのをあきらめた。
まだ頭がぼーっとする。
僕は脳みそを少しずつ回転させて一番的確な質問は何かを探っていた――
僕はひねり出す様に言葉を出した。
「元の世界に…元の世界に戻る方法はあるんですか?」
雨宮は少しだけ考えたあと
「ある。」
と、答えた。
僕は思った。それさえ分かれば十分だ。
「まだ…まだキスしてないんです。」
雨宮は少し驚いた顔をしてから、はっはっはと笑った。
「面白いな君は。キスする為に帰るんだな」
雨宮は目を見開いて僕を見ている。
「どんな理由であれ、帰る理由があるなら君は幸せ者だな。いいだろう、私も先輩として全力でサポートするよ」
雨宮はそういうとニッコリ笑った――