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9 -龍の力

9 -龍の力




「……ひっ、きょう……もの」


床に臥したジュナの唇が動いた。

消え入りそうな声。それでも奥底の芯は揺るがなかった。


テオは浮かべた笑みを消し、ため息混じりに振り返る。


伏せていたジュナが、震える手で床を押さえ、力を振り絞って体を起こした。

その声は先ほどとは違い、腹の底から力強く響く。


「卑怯者!」


テオは何を言っているのか本当にわからないという表情で肩をすくめてみせた。相手の顔が怒りで真っ赤になるにつれ、胸は高鳴り、勝ち誇る快感に体が震える。


決闘の規則では、指輪をはめた手を前に突き出して敬礼を行い、受けた者もそれに応じて敬礼を返さなければ、決闘に同意したとはみなされない。


だがそれは下級貴族らの規則だ。

自分と奴らとでは立っている土俵が違う。敬意など、決闘の体裁さえ整えば支払う価値など微塵もない。


「ああ、これは重症だ。身体だけでなく記憶まで飛んで行ってしまったのかい?それはそれは美しいお辞儀を返してくれたじゃないか」


「かわいそうに」


黙って痛みに耐えるジュナに同情の言葉を口にしながらも、途中で我慢できず笑い声が漏れた。


「心苦しいよ、ジュナ。そのまま床に突っ伏してくれていれば、これ以上君を傷つける必要もなかったはずだ」


テオは学生服を届けにきた龍造岩δ(デルタ)を再度視界の入らない場所に退かせ、次こそ確実に仕留めるつもりで『龍丹田』に意識を集中した。



『龍の子』は、大気中に存在する目に見えない『龍素』を下丹田(へそから指三本下)の龍丹田に取り込み、龍の力を引き出す膨大なエネルギーに変換する。まるで食物の養分が腸で吸収され、身体を活性化させるような働きである。

さらに、祈りによって漠然とした願望を具体的なビジョンに落とし込み、体内に張り巡らされた『龍脈』に、龍丹田で生み出したエネルギーとそのビジョンを縄を絡ませるように繋ぐことで、祈りを現実に変える龍の力――『恩寵』を引き起こすことができる。


銀製の指輪にじんわりと熱が帯びはじめた。それは、術(恩寵を引き起こす)を発動させるに十分なエネルギーが溜まった合図である。


この指輪は『華王』の花の粉末を銀に混ぜ込んで作られており、触媒として龍丹田で生成された龍素のエネルギーを龍脈に伝える働きを持つ。指輪なしでも恩寵を引き起こすことは可能だが、指輪を用いることで伝達速度が格段に高まり、短時間でより強力な術を発動できる。

さらに膨大なエネルギーを安定させ、暴走を防ぐ役割も果たすため、未熟な龍の子にとっては必需品となっている。



空気を引き裂き、腹の底まで響く轟音。

爆風が壁を叩き、煤煙がその表面を黒く塗りつぶす。

焼けた金属の匂いが鼻を突く独特な酸味を放ち、行き場を失った風が粉塵を巻き上げ、空を震わせる。


思い浮かべた映像を一つずつ重ね、想像しただけで胃の奥がむかつくほどに、その願いが輪郭を持ち、実感として迫り来るまで心に描き続ける。


そんなとき、いつも呼応するかのように、心の奥底に押さえ込んで隠してきたものが輪郭を帯び始める。

繋がりたくて必死に手を伸ばしても、誰一人としてその手を取ってはくれない――そんなくだらない映像が、願いに絡みついて離れない。


(しっかりしろ。思考を晴明に保て)


「俺は扱う側の人間だ。断じて道具ではない」


龍丹田で練り上げたエネルギーと祈りを糾える縄のように絡ませ、ただひとつの術へと収束させる。

弾薬を装填し、引き金を引くように——親指と中指を合わせ、ジュナに向けて指を構えた。


だが次の瞬間、

背後から腕を掴まれたか思うと、自由が奪われ、ジュナに向けて放った爆発の軌道が大きく上方へ逸れた。


振り返って自分の腕を掴んだ者の正体を確かめようとした刹那、冷たい手が頭を押さえつけ、強引に床へと叩きつけられた。


「くそ、放せ!道具の分際で俺に触るな!」


身動きひとつできないテオの正面には、肩を撫でおろすジュナの姿があった。


束の間ジュナに協力した何者かに煮えたぎる激情が込み上げる。だが同時に冷静な自分が囁く——いや、これはこれで悪くない展開だ。そう気づいた瞬間、自然と口元が緩んだ。


これはあくまで決闘の形式に則って行われている。そこに部外者が介入したとなれば、処罰を公的に負わせることができる。

そして何よりも愉快なのは……

噂好きのあいつの信奉者の口を通じて——「助けがなければ何もできない臆病者」として勝手に広められていくことだ

想像するだけで、笑みがこみ上げて仕方がない。


次期辺境伯殿にとってこれほどの痛手はない。


(自業自得だ。ざまあみろ)


ようやく、あちら側も事の重大さに気付いたのか、自分を拘束した相手に、ジュナは退くよう手で合図を送った。すると、そいつはまるで従順な下僕のように素早く拘束を解いた。


テオはワイシャツについた埃を払いながら、時間をかけてゆっくり立ち上がると、緊張したように何度もまばたきを繰り返すジュナの心境を知りながら、おどけた調子で口を開いた。


「いやぁ〜ジュナ殿。お優しいご友人がいらっしゃって、ほんとに羨ましいです。

ああ!そうでした。私もあなたを傷つけずに済みましたし、ご友人には感謝の意を示さねばなりませんね」


(これでお前の天下は終わりだ——)


テオが後方を振り返った瞬間、思わず目を見開いた。


静かに立っていたのは、テオの所有物である、たった1体の龍造岩δ(デルタ)だけだった。


♦︎龍の力を発動させるまでのフローチャート♦︎


大気中の龍素

龍丹田でエネルギー化

祈りで願望をビジョン化

龍脈にエネルギーとビジョンを絡ませる

恩寵発動


===================

銀製指輪(触媒)

─伝達速度UP/安定化/暴走防止─

★未熟な龍の子には指輪は必須


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