記憶
ここはどこだ。
気が付いたら夜の繁華街にいた。
なぜ私はここにいるんだ?その理由を思い出そうとしたが、まったく思い出すことができなかった。
それどころか自分自身のことや家族、友人、それまでどんな人生を送ったのか思い出すことができなかった。
なにか持っているんじゃないかと思ってズボンのポケットに手を突っ込んだり、辺りを見回してみたが特になにもなく、途方に暮れた。
そうだ、気分転換にそこら辺を散歩してみよう。
何か記憶に関する手がかりが見つかるかもしれないし。
そう思い、歩き始めた。
しばらくして夜でもにぎやかな繁華街を抜けて、閑静とした住宅街へでた。
繁華街でのにぎやかな雰囲気とは一転して静かで、生活音すら聞こえてこなかった。明かりはついてはいるはずなのに全く音がないその空間に恐怖すら覚えてしまった。
そう思いながら、住宅街を歩いていた。
不気味に思えたその静かさも考えを整理する場所としては良くて、自分が置かれている状況について考えを巡らせてみる。
「だめだ、やっぱり思い出せない」
断片的な記憶も思い出すことができない。
「仕方ない」
今思い出せなくてもいつか思い出せること信じて、先に進むことにした。
ぶらぶら歩き始めてどのくらい経ったかわからないが山についた。
そこで何を思ったのか、整備されている道を通らずに、道を外れたところに向かった。
しばらく進むと、人影らしきものが見えてきた。
時間帯的にも場所的にも怪しいと思ったので、こっそり近づいてみることにした。
少しずつ近づき、5m程度まで近づいた。
「…」
その人影の正体は高校生らしき女性であった。
だがその女性の後姿を見たとき、なんと表現すべきかわからない感情を沸いた。
「ねぇ」
そう話しかけるも女性は反応しない。
「ねぇ!」
さっきより大きな声で話しかけるが女性は反応しない。
なぜだろうとそう思っていると女性が向いている方の光景が見えた。
「ああ、そうだったか」
その瞬間すべてを思い出した。
自分が何者であるかも、女性に抱いている感情も。
「ごめんなさい」
彼女は聞こえないことはわかっているけれども、その女性に対してそういった。
女性は死体に向かって、
「謝らないといけないのは私の方」
とつぶやいたのちに、振り返り
「すべてが終わったら私もそっちへ行く」
とそう言ったのであった。