25.浮かび上がる格差
暇を大いに持て余しているフラミンゴとビーグルの前にめかしこんだロゼが現れた。純白のドレスに身を包み、ニヘイア家を象徴するエメラルドをふんだんにあしらった宝飾品を身に着け、ブリキのおもちゃのようにぎこちない動きで笑顔すらないロゼに吹き出したのはビーグルだった。
「ロゼちゃん、とっても綺麗だよ?けど、どうしよう。着させられている感がすごい」
「お、重たいです」
「首?耳?頭?」
「全部です!」
ロゼの隣に並んだセバスチャンはロゼとは対照的に満面の笑みでいる。その後ろにいるのはセレスティアに平手をくらったときに一緒にいたメイド。そのメイドに仕立てられロゼはお姫様のような格好をさせられていた。なぜ、そうなったのかというと、挙式のためにネラルク大公国に移動するガナッシュとセレスティアを送り出すために城下町でパレードが行われるらしい。その馬車になぜかロゼが同席することになった。
「そのドレスはロゼさんに差し上げます。もう小さくて姉上には合わないので」
「え、で、でも、こんな高価なもの」
「褒美が金の延べ棒一本とドレスだなんてケチですよね。僕だったら、身に着けてくださっている宝飾品も全て献上するのに」
「い!いえ!!とんでもないです!!恐ろしい!!」
首をちょん切ろうとしている重みのあるネックレス、耳たぶを引き裂こうとしているイヤリング、頭痛を誘発しようと締め付けているティアラに感動などなかった。総額を聞くのも恐ろしい代物は今すぐ外してほしいのだが、セバスチャンがどうしてもというので仕方なく着飾っている。ピアスホールを開けたばかりの右耳が痛い。
「あの、どうして私までこんな格好を」
「ディオがどうしてもロゼさんたちをネラルク大公国に連れて行きたいようなので。なら、折角ですし馬車に同席してもらおうかと」
「フラミンゴさんたちは?」
「馬をお持ちのようですので馬車への同席はできませんけど、姉上の荷物を乗せるというお役を頂きました。ふふっ、そこまでしてディオは皆さんと離れたくないのですね」
セバスチャンは頬を赤らめ嬉しそうに笑う。「必死で余裕のないディオは僕知りません。とっても新鮮です」面白がっているようである。
「怪しい・・・。怪しいな~、王子様」
「え?」
「言ってることはわかるけど、わざわざロゼちゃんを着飾って馬車に同席させる必要あるのかな~?もしかして、王子のお姫様候補になってんじゃないの~?」
目を細めて口角を上げたビーグルをフラミンゴが容赦なく叩く。「バカ!!口を慎め!!申し訳ございません殿下!!」腰を九十度に折り曲げてフラミンゴは深々と頭を下げた。「やめてください、フラミンゴさん」セバスチャンが止める。「事実ですから」その場にいた全員が固まった。
「・・・・え?」
「あ、いえ、下心があるのは認めます。けど、今はただ純粋に楽しんでほしいという気持ちです。こんなきっかけがなければドレスを身にまとうことも王室専用馬車に乗ることもありませんから。せめてもの、おもてなしです」
眉を下げたセバスチャンが笑って誤魔化した。フラミンゴは開いた口が塞がらない。立つのに必死なロゼは会話を聞いている余裕すらなく「足・・・痛くなってきた」履きなれないヒールの高い靴に限界を感じていた。
「ああ、椅子を」
メイドが素早く椅子をロゼの後ろに回しセバスチャンがゆっくりロゼを椅子に座らせる。椅子に座ったことでセバスチャンと目線が近くなったロゼに「これくらいが丁度いいですね」セバスチャンは笑いかけた。
「あの、殿下。我々は今後どうしたらいいのでしょうか」
「ディオがネラルク大公国に招待したいということですので、ご同行願います」
「で、ですが」
「気になさらないでください。ディオは、大公殿下に皆さんを紹介したいのだと思います」
「大公殿下に!?ですか!?」
フラミンゴは顔を蒼褪めさせる。「な、なぜそのような!私たちはその辺の平民でしてこれ以上のご厚意は身に余ります!」顔も両手も残像が見えるほど素早く振るフラミンゴの顔から血色がどんどんなくなっていく。セバスチャンは微笑を湛えた表情を変えず「それは僕らが判断することです。フラミンゴさんが気にされることではありません」笑顔の暴力でフラミンゴを制圧した。
「セバスチャンさんもネラルク大公国に行くんですか?」
「はい。僕も出席しなければなりませんから」
「・・・・結婚式に?」
「そうです。公務なので仕方がありませんけど、ロゼさんが一緒でしたら嬉しいですよ」
「私も結婚式に?」
「それは・・・大公殿下次第なのでわかりませんけど、道中は一緒にいられますしね。パレードが終わったら馬車を降りて蒸気機関車で移動します」
「蒸気機関車!?」
「乗ったことありますか?」
「ないです!!」
「とっても速いですよ。見る景色がどんどん変わって、あっという間に目的地に着きます」
「乗ってみたいです!!」
「一緒に乗りましょう」
「はいっ!!」
さっきまで着慣れない衣装に顔を強張らせていたロゼの表情が華やいだ。まるで子供のようにはしゃぐ様子に「モノでつられてんじゃん」ビーグルが小さく笑った。
「では、移動しましょうか」とロゼに手を差し出したセバスチャンはロゼを椅子から立たせる。そして、慣れないヒールに足を挫いてしまいそうになるロゼの腰に手を回し身体を支える。歩くのを補助する形でゆっくり一緒に歩き出すと「これが本当のエスコートってやつですね」自分よりも背の低いセバスチャンに腰を支えられている様は非常にカッコ悪いのではないかと恥ずかしくなったロゼは今すぐヒールを脱ぎ捨ててしまいたいと強く思った。
**
セバスチャンに誘導されて馬車の目の前に立つ。ハイヒールでステップを上がることができずにいるロゼを、同席するゼイザックは睨みつけるように眉間に皺を寄せていた。片足を上げたまま踏ん張りがきかないロゼを引っ張り上げるようにセバスチャンが手を引く。自分よりも背が低く年も幼いのに何から何までセバスチャンのお世話になっていることがとても恥ずかしい。「す、すみません」身体を小さくして謝るロゼに嫌な顔一つしないセバスチャンだったが後ろで先に馬車に腰掛けているゼイザックはそうではない。あからさまに大きな息を吐いた。
「もう大丈夫ですよ。あとは座っているだけですから」
「す、すみません。歩くことすらままならなくて」
「それが普通ですよ。そういった教育を受けていないのですから当然です」
「あの・・・本当にいいんですか?私なんかが王室専用の馬車に乗せていただくなんて」
「何も問題ありません。こちらが言っていることですからロゼさんが気にすることはありませんよ」
「え・・・でも」
不安げに肩を竦め俯くロゼの手をセバスチャンがそっと握る。「引け目を感じないでください。僕の我儘ですから、付き合ってくださってありがとうございます」温かい手の温度が伝わってロゼは俯かせていた顔を上げた。セバスチャンがふわっと柔らかい表情で笑いかける。ロゼはそんなセバスチャンをじっと見つめてしまった。見惚れたといってもいい。顔が熱くなって少し目が潤む。
「だからといってセバスチャン自身が低く構えなくてもいいだろう」
「僕がそうしたいのです」
「そうはいっても第二王子という立場である以上、もっと相応しい振る舞いをすべきでないか?」
「これが僕の思う“相応しい”です」
兄であり王太子でもあるゼイザックはセバスチャンに対して厳しい声と視線を送るが、相変わらずセバスチャンは顔色を変えない。セバスチャンの塗り固められた笑顔はロゼに向ける笑顔と違う。今までこの仮面を被って人をいなしてきたのかなと思うと心臓がきゅっと締め付けられた。ロゼは握られているセバスチャンの手を握り返す。
それからすぐガタンと一度大きく馬車が上下に揺れると、次第にゴトゴトと小さい振動に変わる。この馬車にはゼイザック、セバスチャン、ロゼの三人だけ。主役であるガナッシュとセレスティアは別の馬車だった。ゆっくり規則的な振動で動く馬車に揺られながら、ロゼは重たい宝飾品に負けじと背筋を伸ばす。足を踏ん張らせて完全に置物と化しているロゼに「外、見えますか?」セバスチャンが話しかけてきた。外を見る余裕すらなかったロゼは慌てて小窓に目を向ける。大きな城門をくぐり、緩やかな坂道から見下ろす城下町はつい先日歩いたとき以上に活気を見せている。いたるところに旗を掲げ、街全体が彩られており、既に大勢の人が道沿いに列をなしていた。見たことない景色に前のめりになったロゼはゴンと小窓におでこをぶつける。
「だ、大丈夫ですか!?」
「すすすみません!大丈夫です」
おでこ以上に頭のティアラが傷ついていないか心配である。ロゼは窓から身体を離した。心臓がドッキンドッキン大きく脈打っている。身体が小さく震えた。
「すごい人ですね」
「当然だ。セレスティアの結婚を国民全員が喜んでいるのだから」
「嫁いでしまうのにですか?普通淋しがるものかと」
「相手がディオだからな。ネラルク大公国は私たちとは兄弟のようなものであって、それ以外の人物などあり得んよ」
ゼイザックがロゼを一瞥する。すぐ視線を外に戻したゼイザックは「ご理解いただけますか?聖女様」ロゼを見ずに声をかける。なぜ人に話しかけているのに相手を見ないのだろうかと、ロゼはゼイザックとは反対に身体ごとゼイザックへ向けた。
「ディオは貴女を大層可愛がっているようですが、それは貴女が聖女の力をお持ちだと信じているからであって、そこに価値を見出してるだけです」
「兄上・・・そんなことは」
「困ったことに外に出た彼は自由を謳歌しすぎて、自身の立場を忘れているようです。ですが、これが本来あるべき姿。そして定められた運命」
ロゼもセバスチャンも何も言わなかった。ただ静かにゼイザックの言葉の続きを待つ。
「彼はこの世に生を受けたと同時に生き方も決められています。それは私も同じです。背負うべきもの、捨てるべきもの、拾うべきもの、それら全て決められているのです。そんな私たちを貴女は可哀相だと思いますか?」
ゼイザックは変わらず外を眺めており、どことなく冷めた表情は感情の乗らない人形のようだった。ロゼはゼイザックの無表情か睨んだ姿しか知らない。澄ましているというより、自分が認める者以外を拒んでいる様子で、それはさっきゼイザック自身が言ったように全て決められていることを淡々とこなすために感情をどこかに置いてきたようだった。
「私には・・・わかりません。王族とか貴族とか全く。住む世界が違いすぎます」
「・・・そうですよね」
「可哀相だなんて・・・一概に言えないです。けど、許されるのでしたら、私は・・・いつまでもガナッシュさんとお友達でいたいです」
じっとゼイザックの顔を見ていたロゼが目を伏せる。「お友達じゃなくてもいいです。ただ、覚えていてほしい。私やフラミンゴさん、他の人たちもみんなガナッシュさんのことが大好きなんだってこと。立場の違いで捨てられたとしても、きっと、私たちはガナッシュさんを好きなまま。それはガナッシュさん自身が築いたものです。そう簡単に心まで捨てられません。ですから、心で想うことくらいはお互い許してほしいです」目を瞑り今までの道のりを思い出す。突然お店に現れ、ロゼをからかい、酒に潰れ、それでもフラミンゴに並ぼうと背伸びしていたガナッシュ。穏やかで常に落ち着いていて、色んなことを知っている大人な男性なのに、変な気構えがなく平気で甘えるしお道化る様子は子供っぽい。そんなガナッシュの色んな表情を見てきた。たとえ本来のあるべき姿に戻らなくてはならなかったとしても、二度と会えなくなったとしても築き上げた絆は変わらない。
「・・・なら、奪わないでくださいね」
「え?」
「彼の人生を。貴女たちが大好きな彼の人生を奪わないでやってください。夢と現実は違いますから。これ以上、夢の中に逃げ続けるわけにはいきません。現実に耐え切れなくなってしまう」
「私たちは夢、なのですか?」
「ええ」
「醒めたくない夢の一つですよ。貴女は」ちっともロゼの顔を見ようとしなかったゼイザックがようやくロゼに振り向いた。無表情の中、切れ長の目だけが遠くを見つめるように細くなる。蔑んだ目だった。ゼイザックにしてもセレスティアにしても大分嫌われているんだな、とロゼはぼんやりと思う。嫌われている理由はよくわからない。けれどガナッシュを取られたくなくて必死な様子の二人にさっきのゼイザックの言葉が頭をよぎる。“自分たちを可哀相だと思うか?”みんなそんなつらそうにされたら可哀相だなと思ってしまう。絵本の中の世界はどうやら綺麗なものではないらしい。
お互い顔を見合ったまま黙っていると外からワアッと歓声が上がった。セレスティア様ー!と叫ぶ声が幾重にも重なり空気が震えている。道沿いに並ぶ大勢の人たち全員がこちらに手を振っており嬉しそうに笑っている。地響きのような声に圧倒されて呼吸をすることすら忘れそうになる。あの人の波が押し寄せてきたらどうしようという不安が一瞬よぎる。王子二人は小窓から顔を覗かせて手を振り返すこともなく、ただじっと爪先を見るだけで制止していた。主役ではないからなのか、歓声になんの反応も見せない様子にロゼは戸惑いを隠せない。よく無心でいられるものだ。
反対にロゼはそわそわしていた。外の様子を見てみたくって、セバスチャン越しにそっと窓を覗き込む。そんなロゼの姿を見てセバスチャンは小さく笑った。「見えますか?」注意されると思ったロゼは肩を跳ねさせてサッとセバスチャンから身体を離す。
「すみません。好奇心で」
「いいんですよ。どうせこちらは見ていませんし」
「王女様を見てるんですか?」
「どうでしょうね。滅多に見られない王室の馬車に興奮しているのかもしれませんし、もしかしたら窓から姉上の姿が見えたかもしれませんし」
外の熱気と馬車の中の雰囲気は真逆だ。やけにあっさりしている。当事者ではない王子二人からしてみれば公務の一つにすぎなくて、この祝賀パレードもただの移動でしかないのかもしれない。ロゼはセバスチャンに向けていた身体を正面に戻し、きちんと座りなおそうと腰を上げると「助けてください!!」歓喜に紛れて切実な焦燥感のある声が聞こえた。ロゼはそのまま座りなおそうとせず、むしろセバスチャンに圧し掛かるように小窓に顔を近づけた。「おい」とゼイザックがロゼの首根っこを引っ張る。けどロゼは引かなかった。
「セレスティア様!!お願いです!!妻を!!妻をお助けください!!」
助けを呼ぶ声がする。確かにセレスティアを呼んでいる。観衆たちも視線は馬車ではなく道沿いに並ぶ人だかりの一つに目を向けていた。ロゼは小窓にびったり顔をくっつけて外を覗き込む。一人の男性が何かを抱えて列より一歩前に出ていた。妻と言っている。抱きかかえているのは奥さんなのかもしれない。「セレスティア様!!セレスティア様!!どうか、どうかお願いです!!」掠れた大声で叫ぶ男性は涙声だ。その男性を馬車を護衛している兵士が取り囲み、手に持っていたライフルで殴った。叫ぶ男性は怯むことなく馬車に近づくと兵士たち数人がかりで男性を取り押さえた。男性は抱きかかえていた女性を庇うように抱きしめ地面に蹲る。そこに青年と少年が駆け寄る。二人の子供のようだった。
「どうした?何か問題でもあったか?」
「取り押さえられた夫婦がいます。助けてって・・・王女様に助けてって言ってます」
「ああ・・・。セレスティアの加護を受けたい貧民だな。放っておけ」
「放っておく・・・?」
「貧民を相手にしてしまっては美しきセレスティアが穢されてしまう。セレスティアは聖女と謳われるほど身目麗しい女性だ。貧民が目にかけることすらもったいない」
「容姿の話をしてるんじゃありません。聖女様なら・・・聖女様だったら苦しんでる人を助けてあげないのですか?」
「その義務はない」
「義務って・・・!」
歓声は怒号に変わった。夫婦を囲んでいた兵士たちを更に囲むように近くにいた人々が声を荒げる。「ダニエル!!セレスティア様に汚いものを見せるな!!」「引っ込め!!折角の御祝いに水を差しやがって!!」「その面見せんな!!」夫婦に飛びかかろうとする男性が二人、三人と増えていき、その様子を兵士たちは止めない。ダニエルと呼ばれた男性は数人の男たちに蹴られながらも女性に覆いかぶさりながら蹲る。二人の子供が「やめてよ!!」と叫びながら暴力を振るう男たちを止めようとするが子供と大人の体格差では相手にならない。その様子を周りの人たちも兵士たちも眺めているだけで誰も止めなかった。止まっていた馬車が動き出す。
「え!どうして!?」
セレスティアに助けを求めた家族は暴力を受けている。父、母、兄、弟と受け取れる四人家族を置き去りに馬車は通り過ぎようとしていた。「せめて・・・せめて暴力を止めることぐらい!!」ロゼはゼイザックを見る。ゼイザックはロゼと視線を合わせず、そして何も言わなかった。
「これが・・・この国の聖女様のすることですか?」
「一部分だけを切り取るな。彼女は違うところで違ったことをしている」
「そうだとしても!あのご家族にとってはその一部分が全てですよ!?」
「それがなんだというのだ?私たちの知ったことではない」
「そんな・・・!」
「小さいことを気にかけてなどおれん。お前たちの杓子定規で私たちを計るな。私たちは常に優先すべきものを選択しなければならない。彼らはその選択から漏れただけだ。願えば叶うのか?貧しいと訴えれば与えられると思っているのか?そんな旨い話どこにある?有象無象の群衆は不平不満を口にするばかりで己の力では何もせん。何もせんのに得ようとすることがそもそも間違っている」
「・・・・せこい人」
「・・・・今、なんと言った」
「あなたは与える喜びを知らない人。自分が満たされなければ何もしないのはあなたが言う有象無象の人たちと変わらないじゃないですか。心が貧しい人は何をどれだけ与えられても満たされることはない。満たされないのにずっとずっと渇望して次第に利己的になり相手から奪う行為を正当化する。どこに・・・違いがありましたか?」
小さな馬車の中でゼイザックが立ち上がった。ロゼに掴みかかろうとした手をセバスチャンが止める。「兄上!!おやめください!!」体格差がありすぎる二人の力の差は歴然だった。ゼイザックはセバスチャンに腕を取られながらもロゼの首を握りつぶすように手を回す。「兄上!!」必死に叫び止めようとするセバスチャンの声も耳に届かないゼイザックは鬼の形相でロゼを睨みつけ「お前に何がわかる!!お前に私の何がわかるというのだ!!」狭い車内に反響するほど荒げた大声で叫ぶ。ロゼは首を掴まれた手に必死で爪を立て、足で馬車の扉をガンガンと蹴った。外の兵士が異変に気付いて扉を開ける。「ゼ、ゼイザック殿下!?」兵士の声に手の力が緩みロゼはゼイザックの手を引き離すと、転がり落ちるように馬車から降りた。
「ロゼさん!!!」
セバスチャンの呼ぶ声に返事もせず、地面に蹲るロゼは咳き込みながら呼吸を整えると、ふらつく足取りでセレスティアに助けを乞うた家族の元へと走った。




