ひまわりのところへ(ツナグ)【【篝の事件ファイル3】
私は捜査一課に勤める刑事。妻を亡くし、性同一障害を抱える高二の我が子、篝と二人暮らし。仕事では敏腕と噂されるが、実は篝から事件解決のヒントをもらうことも多い。
今日は篝とホームセンターへ行った帰り道。
「君はまだ何もやってない。そうだよね?」
ドアを開けたらそこに彼がいた。
いつも学校から帰るとそうするように、できるだけ明るい声で言った。
「ただいま!」
小さなアパートの部屋の奥にはほとんど寝たきりのばあちゃんがいて、僕たちは二人暮らしだった。
両親は僕が小さい頃に離婚していて、一緒に暮らしていた母は男を作って半年前に出て行った。
ばあちゃんが日中一人になってしまうので学校を辞めようと思ったけど、
「祐樹、学校いかんと」
ばあちゃんはそう言って譲らなかった。ばあちゃんは毎日布団の中から「行ってらっしゃい」と僕を笑顔で送り出した。
さっき買ったテープを使ってネットで調べた通り貼っていく。こうすればきっとうまくいく。
ピンポーン。チャイムが鳴った。
大家さんかな。お家賃の事、また謝らなくちゃ。
「さっきホームセンターで君を見かけて。今日連絡なしで休んでいたから気になって」
ドアの向こうの彼は言った。
眞村篝。背が高くて小顔で、アイドル並みの容姿だけど彼はいわゆる男の娘。僕が知っているのはそれだけ。僕に何の用だろう。
「君、練炭とかガムテープとかこの季節に買ってたから。それに君、いつも消毒薬の匂いがしていて、お家にご病人でもいるのかな、って思っていたんだけど、昨日は君とすれ違ったとき」
僕はぼんやりと彼の顔のきれいさに見とれていた。
「死臭がしたような気がしたの」
死。その言葉は僕を現実に引き戻した。
「君、何をしようとしてるの?」
彼の肩越しに道沿いのひまわりが夏の日ざしの中揺れていた。それは命の輝きそのもので、僕はこのドアの向こう側の世界に戻りたいと強く願った。
僕は言った。
「助けて」
彼は頷いた。
「一昨日僕が学校から帰ったらばあちゃんが布団の中で死んでいた。僕にはもうばあちゃんしかいなかった。なのに毎日辛くて、ばあちゃんなんか死んじゃえって時々思ってた。そしたら本当に死んじゃった。僕はもう一人ぼっちだ。だからばあちゃんと一緒に行こうと」
「私達、友達になれない? 君が嫌じゃなかったら」
僕は彼が来てくれるのをずっと待っていたような気がした。
「大人の助けがいるわ。外の車の中で父が待っているから呼んでもいい?」
私は捜査一課で敏腕だと評判の刑事だが、実は我が子篝に捜査のヒントをもらうことも多い。
その篝に言われて今買い物帰りの車の中で待っている。
篝が息を切らせてこっちへ来た。ん? なんだか様子が変だ。
「お父さん、助けて!」
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