第二話前編 竜と遊びたい男
お待たせしました。第二話です。
長くなったので分割しました。
まずは知略パートをお楽しみください。
その日の冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
「竜が大暴れしてるんだとよ……」
「何でも冒険者が竜の鱗を取ろうとして、逆鱗に触っちまったらしい」
「げ、確かそうすると一月は暴れ回るって話じゃなかったっけ……」
「あぁ。手当たり次第に岩も木も関係なくなぎ倒してるらしい。そのおかげで、逆鱗に触れた馬鹿は逃げ延びたそうだが……」
そりゃキレるよなぁ。
逆鱗に触られるって人間で言ったら、乳首思いっ切り引っ張られるようなもんだからな。
とはいえそれで周りも見えなくなるくらい暴れてるって事は、若い竜か。
まぁ近づかなきゃ大丈夫だろ。
「だがもう大丈夫みたいだぜ」
「何? 何か新しい情報が入ったのか?」
「魔王軍幹部を討ち取って名を揚げた英雄三人を、討伐隊として差し向ける事にしたそうだ」
「おお! それなら安心だな!」
……あらら。
これだから英雄ってのはさ……。
あの三人だと、連携が育っていて五分ってとこかな。
しょーがない。
若い竜だと思いっ切り楽しむってのは難しそうだけど、助けるついでに軽く遊ぶとするか。
「よぉ久しぶり」
「グレッド君! 来てくれたのか!」
「ギルドから頼み込まれてな」
槍術士のスペアル君が熱い握手を交わしてくる。
まぁこの状況じゃそうなるよな。
「グレッドさん……! 私達だけでどうしようかと思っていたから、嬉しいです……!」
「ウィティアちゃん、何も泣かなくても……」
魔法使いのウィティアちゃんは、感極まった様子で顔を押さえた。
それもまぁ仕方ない。
竜討伐隊の集合場所として開放された、百人は入れるギルドの訓練場に、英雄三人以外の冒険者がいないからだ。
「竜が恐ろしいのは仕方ないが、それでももう少し力を貸してくれる者がいてもいいものを……! 神は我らを見放したもうたか……!」
「相手が竜となると、厳しいよな」
はいごめんねヒラールのおっさん。
冒険者が集まらないのは、俺がやべぇ情報流したからでーす。
今回の竜は魔王軍の魔工生物で、超強い上に倒されると塵になって消え、おまけにその塵を少しでも吸うと生涯肺を病むってね。
倒しても何も得られず、冒険者生命に関わるおまけ付き。
これで命知らずの冒険者も及び腰になった。
いやー、内緒だよって言ってから話したのに、何でこんなに広まったんだろーなー。ふーしぎーだなー。
「竜の撃退なんて、いつもなら抽選になるくらい集まるのに……」
「逆鱗で正気を失ってるっていうのが、大きいのかな……」
「うむ、普通の竜退治とは訳が違うからな……」
そして予想通り、この三人には伝わってない。
そりゃ国にしてもギルドにしても、逃げられちゃ困るもんな。
これで場は整った、と。
「この状況じゃ、討伐は無理じゃないか?」
「……グレッド君、あっさり言うね……」
「それでも私達は何とかしないといけないんだよ……!」
「我らの背には守るべき弱き民と、確かな神のご威光がある! 退くわけにはいかんのだ……!」
もう、無理しちゃって。
使命や責任を口に出してないと、逃げ出したくなるだろうから仕方ないけどね。
そんな弱った心には、この言葉はよーく効くだろう。
「そこでだ。俺に作戦があるんだが、乗るかい?」
「グオオオォォォン!」
「うわ……」
「きゃ……」
「ぬ、ぬぅ……」
おーおー暴れてる暴れてる。
暴れ出して五日だから、まだまだ元気だよなー。
「じゃあ作戦を始めよう。この図に従ってこの広場に転移の陣を書く」
「わかった。手分けして書こう」
「それにしても今までの魔法理論とは一線も二線も画す陣……。昔の魔法使いって凄かったのね……」
「古本屋に眠っていたこの本をグレッド殿が見つけるとは、まさに神のお導き!」
「いやぁ、ツイてるよ」
嘘をねー。
本当は俺が昔親父に教わった転移陣を適当な紙束に書いて、それっぽく古びさせただけなんだよね。
「書けたよ。次はこの転移石に魔力を込めるんだよね?」
「そうだ。ぴったりの数しかないから慎重に頼む」
「うぅ……、緊張する……」
「大丈夫。魔力を込めるだけさ」
「……よし、できましたぞ」
「そうしたら陣の三つの頂点に置いてくれ」
「わかった」
「ん……。これでいいかな」
「ふぅ……。完成ですな!」
さて、ここからはうまーくやらないとな。
「これで竜の泉を囲んで転移石に魔力を込めれば、竜を泉に転移させられるんだね」
「竜の泉は竜の傷を癒やす効果があるっていうから、正気に戻ってくれたら……!」
「では皆様! すぐに向かいましょう!」
「あぁ、皆、頼んだ」
「え……? グレッド君……?」
「頼んだ、って、え、どういう事……?」
「グレッド殿も一緒に行くのではないのですかな!?」
俺は申し訳なさそうな笑みを浮かべて、首を横に振る。
「この転移陣は落とし穴みたいなものみたいでさ、発動した後、上に乗ったものを転移させるんだ。だから……」
「まさかグレッド君! 君はここに残って、発動の際に竜をここに誘い込むつもりなのか!?」
おー正解。
やっぱりスペアル君は賢いなー。
これは話が早くて助かる。
「そういう事。だから三人は早いところ竜の泉に向かってほしいんだ。急げば一日で着けるだろうから」
「駄目だよ! 竜相手に一人だなんて……!」
ウィティアちゃんは相変わらず可愛いなー。
「大丈夫。基本隠れていて、転移陣が発動したらちょっと挑発してすぐ逃げるから」
「そ、それだけなら拙僧が代ろう! 拙僧には神のご加護がある! 回復魔法もある!」
お、ヒラールのおっさんが言ってくれたか。
よーし畳み込むぞー。
「……駄目なんだよ。転移陣は、転移先の転移石に同じ人が魔力を込めないと、発動しないんだ……」
「! 君はそれを知っていて……!」
「ずるい……! ずるいよ!」
「騙したのですな……!」
よし、皆怒ってる。
隠されていた事に対する怒りだけだったら、他の方策を提案してきただろう。
それができないって事は、どうしようもないって事も理解している証拠だ。
ここで決め台詞っと。
「俺は死なない。だからここは任せて先に行ってくれ」
「……わかった。この嘘の借りは、帰ってきてから晴らすとするよ……」
「あぁ」
口調は怒ってるけど、目は優しいなースペアル君。
「今度こそ嘘じゃないよね!? 死なないんだよね!?」
「今更信じてくれって言うのは虫がいい話だけど、信じてほしい」
「……」
あー、涙溜めた顔も可愛いなーウィティアちゃんは。
「神に誓ってか!? 生きて帰ると神に誓えるか!?」
熱苦しいなー、ヒラールのおっさんは。
でもそういうところ、嫌いじゃない。
「あぁ。何なら田舎のかーちゃんにも誓おうか」
「……ふふっ」
「じゃあ、信じるしかないねっ!」
「ならば我らも一刻も早く陣を完成させると誓おう! 神と、田舎のかーちゃんに!」
ひょーう! 大成功!
これで誰もいないところで竜と一対一!
お楽しみの始まりだー!
読了ありがとうございます。
グレッドは自分の楽しみのためなら、かつての仲間を騙す事さえ厭わない男です。
……こう書くと凄いゲス野郎ですね……。
次はお楽しみパートです。
よろしくお願いいたします。




