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第一話 英雄になりたくない男

家紋武範様主催『知略企画』参加作品です。


チートで無双です。

でも期待されているのとはちょっと違うかなー、なんて思います。

死亡フラグのような台詞を言う主人公グレッドの運命やいかに!?


どうぞお楽しみください。

 街に程近い森の中。

 冒険者ギルドから森の魔物討伐を頼まれた俺達は、想像以上の魔物の群れに出くわしていた。


「くっ、デモンスライムの群れか……! こいつらは魔水晶を破壊しないと、延々増え続ける魔工生物……!」

「どうするの!? 魔水晶を探して破壊する間に、このデモンスライムが街に到達しちゃったら……!」

「おお神よ! 我々に道をお示しください!」


 じりじりと街に迫るデモンスライムの前で、口々に絶望を口にする冒険者達。

 よし、タイミングは今だな。


「ここは俺に任せろ! お前達は先に行け!」


 全員が驚いた顔で俺を見る。

 当然だろう。

 俺だって俺以外の奴がデモンスライムの群れを前にそう言ったら、正気を疑う。

 物理攻撃、特に斬撃に強い耐性を持つデモンスライム。

 しかも魔水晶からの魔力が続く限り再生し、放置すれば周りの生物を取り込んで増殖する。

 剣を武器にする俺が一人で立ち向かうのは、自殺志願者に見えてもおかしくない。


「そんな事をしたらグレッド君が死ぬぞ! 全員で抑えて、隙を見て一人が救援と避難を呼びかけに行った方がいい!」


 この槍術士・スペアル君はなかなか的確な判断をする。

 だがそれはあくまで連携の取れるパーティーの場合だ。

 今日ギルドで顔を合わせたばかりの急造パーティーでは、連携の隙を抜かれるだろう。


「これだけの群れだ。魔水晶はそう遠くない位置にあるはず。俺以外の全員で捜索し、破壊した方が現実的だ」

「た、確かにそうだけど……!」

「なら私が一緒に残る! 私の魔法があれば持ちこたえられる!」


 うーん、可愛いなー。魔法使いのウィティアちゃん。

 お胸がもう少し立派だったら口説いてたんだけどなー。


「魔水晶を守っている魔物がいるかもしれない。君の魔法はそちらで生かすべきだ」

「うぅ……、でも……」

「ならば拙僧が残ろう! 持久戦なら回復役がいて困る事はあるまい! なぁグレッド殿!」


 いやいや、ヒラールのおっさん。

 可愛いシスターちゃんならともかく、教義で酒も飲めない僧侶のおっさんなんて、残ってもらっても嬉しくないの。

 いい奴なんだろうけど、今は困るな。

 仕方ない。少しだけ見せておくか。


「街の事を思うなら、一刻も早く魔水晶を破壊するべきだ。それに俺にはこれがある!」


 思いっきり手加減して剣を振ると、弱い波動がデモンスライム達を直撃した。


「なっ……! 剣から何かが飛んだ……?」

「でも魔法じゃないわ……! 呪文を唱えてないもの……!」

「す、すごいのである……! 神の奇跡と見まごうほどに……!」


 驚く一同。

 まぁ無理もない。

 俺が雑魚の群れと遊ぶために開発した、名前も付けてない技だからな。


「ギギギ……!」


 よーしよし、デモンスライム達にも、良い感じに敵意と警戒心を向けさせたな。

 後は他の面子が我に返る前に、


「さぁ行け! 俺が引き付けてるうちに、早く……!」


 俺は街側へと走った。

 これで三人は魔水晶を探しに行くしかない。


「くっ! わかった! 魔水晶を見つけて破壊してくる!」

「絶対死んじゃ駄目だからね!」

「生きてまた茶を酌み交わそうぞ!」


 はーい、行ってらー。

 『索敵』で探った限り、魔水晶を守る魔物はあの三人なら勝てるだろう。

 発見と討伐、そこから戻ってくるまでの時間を計算すると、うん、結構遊べそうだな。


「よーしお前ら、たっぷり遊ぼうぜ……!」




 俺のお袋は英雄だ。

 強さも勿論だが、困った人を見ると助けずにはいられない性格で、多くの信望を集めた。

 でもそのせいで色々な仕事を頼まれ続け、延々続く無償奉仕にさしもの英雄も遂に心が折れ、国を出たそうだ。

 そして辺境の地で親父と出会い、俺が産まれた。

 そんな話を幼い時から聞かされてきた俺は、お袋の轍を踏まないように出自を秘密にして冒険者となり、誰でも倒せる雑魚敵を相手にするようになっていった。

 その結果……。




 三人が離れたのを確認して、結界を展開。

 これで音は届かないし、暴れる姿を見られる心配もない。

 今度は全力で剣を振り抜く!


「ギーッ!」

「いやっほう!」


 うおおおお! 一気に百は斬ったかな!?

 気ん持ち良いいぃぃぃ!

 そして魔水晶から魔力が提供される限り再生するデモンスライム!

 思いっきり遊べるって最っ高!

 今度は何使おうかなぁ。

 爆裂魔法にしようか、火炎魔法にしようか……。

 あ! 水魔法に帯電させて、剣にまとわせて飛ばしてみようかな!


「いっけえええぇぇぇ!」

「ギギーッ!」


 たんのしいいいぃぃぃ!

 斬られたデモンスライムに通電して光るの綺麗だなー!

 次はシンプルに爆裂魔法を全方位に展開して……!

 一気にどん!


「吹っ飛べー!」

「ギギギーッ!」


 脳汁やべえええぇぇぇ!

 よし! 今度は精密射撃で遊んでみるか!

 氷魔法を弾丸にして……!




「ふぅ……、楽しかった……」


 魔水晶から提供される魔力が枯渇し、溶けて消えるデモンスライム達。

 人を滅ぼすために魔法で生み出された生き物とはいえ、あれだけ遊べば情に近い気持ちも生まれる。

 遊んでくれてありがとな!

 超楽しかった!


「さてと……」


 結界の中は草木は吹き飛び、土はめくれ上がり、元の地形がわからないほどになっている。

 さてさて楽しんだ後はお片付けっと。

 結界に元の状態を記憶させているので、直すのは簡単。

 魔法でちょいちょいっと。

 よーし、結界解除っと。


「あっちは……、もう少しかな」


 直したばかりの地面に軽く波動を放って、土埃を被る。

 もうちょい激闘感を出した方がいいかな?

 もう二発くらい……。

 こんなもんか。


「んじゃ、お疲れさんっと」


 俺はすっきりした気持ちのまま、木の根を枕に目を閉じた……。




「……ぅぶですか……! 大丈夫ですか!?」

「……う、うぅ……?」


 俺はウィティアちゃんに揺さぶられて目を覚ました、ふりをしてよろよろと半身を起こす。

 心配そうな顔がとってもキュート。

 近付いてきた気配で起きてはいたから、スペアル君やヒラールのおっさんだったらすぐ起き上がろうと思ってたけど、もうちょっとこのままでいてみようかな。


「良かった! 生きてた!」


 おお、抱きつくほどに心配してくれていたのか。

 ちょっと罪悪感。

 そしてめっちゃ幸福感。

 薄いお胸の女の子でも、抱きつかれると嬉しい。


「大丈夫だったかい!?」

「もう駄目かと思った時にデモンスライム達が一斉に溶けたから、本当に助かった……」

「いや、グレッド君の的確な判断と奮戦がなかったら、こうはいかなかったはずだ。ありがとう」


 ウィティアちゃん越しにスペアル君と握手を交わす。


「どこか痛むところはないか? 拙僧、二人の回復でほとんど力を使ってしまい、痛みを和らげる事くらいしかできないが……」

「あ! ごめんなさい! いきなり抱きついたりして!」

「大丈夫、怪我らしい怪我はしてないよ」


 ヒラールのおっさん……。

 その心配、もうちょっと後でも良かったんでない?

 離れた温もりを悲しく思いながらも、これ以上心配かけるのも悪いので立ち上がる。


「良かった。じゃあ街に戻ろうか」

「あぁ」

「魔水晶の欠片を持ってきたから、きっと報酬上乗せだよ!」

「楽しみだな。今日はギルドの酒場貸切で飲むか」

「うぬぬ、この時ばかりは酒を禁じた神の教えが恨めしい……」

「その分いいお茶を用意してもらおうじゃないかヒラールさん」


 彼らはわかっていない。

 今回彼らが倒した、魔水晶を守っていた魔物は、魔王軍の幹部クラスだ。

 魔水晶を鑑定されたら、すぐに明らかになるだろう。

 指揮官タイプだったから戦闘ではそれほどの手応えはなかっただろうけど、王国としては大手柄以外の何物でもない。

 彼らは英雄になるが、俺は足止め役だからその評価を免れる。

 くぅ〜! やっぱり「ここは任せろ先に行け!」は最高だぜ! 

読了ありがとうございます。


当初は、

(ボス戦なんかに参加したら死ぬかもしれない! でも逃げたら格好悪いし……。あ! 雑魚敵がいっぱいだ! これはチャンス!)

「ここは任せろ先に行け!」

という消極的な話だったのですが、雑魚を蹴散らすのって慣れたら楽しそうだなって思い、いっそ無双感を出したら爽快かもって、こんな感じになりました。


ちなみにグレッドはgreatから。

英雄ってgreat manとも言うそうですね。

スペアルは槍のspearから。

ウィティアは魔女のwitchから。

ヒラールは回復のhealから。


相変わらずのまんまです。


今のところ後二話考えているので、来週と再来週の土曜日で投稿できたらと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実力を隠して、本当は一番大変なところを受け持ちながらも、軽々とそれをこなすって格好良いですよね。 自分のことを心配してくれるメンバーを宥めすかして、どうにか一人になろうとしてるグレッドく…
[良い点] 意外性のある設定が面白いです!!! 爽快感がありますね! 続きも楽しませていただきます! [一言] 後書きも楽しく拝読しました!ありがとうございます!
[良い点] 最強ですね~。 でも静かに暮らしたいんですね。 吉良吉影のように。 続きが楽しみです!
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