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根幹の火継 番外編  作者: ももんがー
10/10

晃とひな 5(ひな)

ひな視点です

『恋』がしたい。

 誰かを『好き』になりたい。

 誰かに『好き』になってもらいたい。

 なのに。


 なんで私は異性を『好き』にならないんだろう。

 なんで私は異性を『好き』になれないんだろう。


 いつもそう思っていた。



 家族は大切だと思う。

 友人もいる。

 好きなキャラも萌える作品もある。

 動物を見て「かわいい」と思う。

 一般的な感情はある。

 ただ、異性に対する恋愛感情だけがない。



 私は精神系の能力者だ。

 だから、ちょっとだけ他人の感情や思考を読める。


 中途半端に能力があるせいか、対面した相手がどんな人間か、大まかなところはわかる。

 ウソを言っているかもすぐにわかる。

 だから異性を『好き』にならないんだろうか。


 こんな能力がなければ映画や漫画のように恋に溺れることもできたのだろうか?

 映画や漫画のような王子様など、現実には存在しないということだろうか。


『恋』がしたい。

 誰かを『好き』になりたい。

 誰かに『好き』になってもらいたい。

 だけど、きっと私には無理なんだ。


 私は『欠陥品』だから。

 私は『恋愛不能者』だから。


 でも。


『恋』がしたい。

 映画のように。漫画のように。

 誰かにドキドキキュンキュンしてみたい。

 誰かに『好き』と言ってもらいたい。

 まっすぐ「好き」と告白されたい。


 私は、自分自身をあきらめ割り切りながらも、そんな夢を抱いていた。




 京都のごく普通の会社員。三十八歳独身。彼氏いない歴イコール年齢。

 一人暮らしだった私は、インフルエンザをこじらせてあっさり死んだ。


 そうして気が付いたら、吉野で赤ん坊になっていた。

 前世の記憶を持ったまま生まれ変わった。

 ようは『転生者』だ。



 前世で私は男に対して一切トキメくことがなかった。

 物語には萌えることもときめくこともできるのに。

 きっと私は『恋愛ができない人種』なんだと思ってた。


 私は『欠陥品』なんだと思ってた。


 今生もそんな自分をあきらめて割り切って過ごしていた。




 中三の修学旅行。

 幼なじみの晃に「『転生者』だ」とバラした。

 そのときに「恋愛ができない」と話した私に、晃は言った。


「ひなもどこかに『半身』がいるんじゃない?」


 そう聞いた途端「そうだ」と『わかった』。

 私には『半身』がいる。


 そして、気付いた。

『もしかしたら』『もしかしたら、晃が』


 前世込みではじめて、胸がドキリとトキメいた。



 それから晃は事あるごとに私に対してアピールをしてきた。

「好き」と言ったり、急に抱きしめてきたり。

 でもどれも『誰かに言われてやらされてる』のが丸わかりだった。

 私は精神系の能力者だから、そういうのはなんとなくわかる。


 ちいさい子がじゃれてきているようで、くすぐったくておかしかった。

「ハイハイ」ってあしらったときに晃が『べしょ』って情けない顔をするのがまたおかしかった。


 背も伸びて男らしくなってきたのに、そんな顔はちいさい時と変わらなくて、おかしいやらかわいいやらで笑いをこらえるのが大変だった。



 晃は私にとっては『かわいい男の子』。

 周りが「カッコいい」とか言い出しても、私には変わらず『頼りない』『かわいい』男の子だった。


 中身アラフォーの私だから、どうしても同級生達は『子供』にしか見えない。

 晃の京都の友達も、その年齢にしては大人っぽいとは思うけど、私から見たらやっぱり『子供』だ。


 主座様は別。あの方は見た目どおりの方じゃない。

 お会いするたびにひれ伏したくなる。

 そんな主座様に普通にじゃれつく幼なじみに何度も「阿呆おぉぉぉ!!」と怒鳴りそうになったことはナイショだ。



 阿呆で、情けなくて、かわいい男の子だった晃。

 それが、突然、変わった。


 まるで芋虫がその皮を脱ぎ捨てるように。

 大きな羽を広げる蝶のように。


 凛々しい、ひとりの『男』に、成った。




 高校の入学式の朝。

 同じ学校に入学する幼なじみを迎えに行った。



 そこには、ひとりの男性がいた。



 卒業式が終わってすぐに晃は京都の友達のところに行った。

 それからずっと帰ってこなかった。


 だから、晃に会うのは約一ヶ月ぶり。


 背、こんなに高かったっけ?

 身体付きもしっかりとしてる。

 立ち姿だけでも強さがあふれているよう。

 顔つきも凛々しくなった。

 なにより、その目。


 強い、熱い眼差し。


 その視線に、貫かれた。


 魂を揺さぶられた。

 確信した。

 この男こそが、私の『半身』だと。


 物語のように、胸が『キュウゥゥゥン!』とトキメいた。




 春休みの間に京都でなにかあったんだろうか。

 それでこんなに男らしくなったんだろうか。


 聞きたいけど聞けない。

 隣にいるだけでなんだかドキドキして落ち着かない。

 親がいる手前、なんでもないような顔を作って隣に座っているけれど、気になって気になって仕方ない。


 チラリと伺い見ると、晃もなんだが顔を赤くしている。

 まっすぐに前を見る晃を見ているだけでドキドキする。

 この私が男を見てドキドキするなんて!


『彼』に、ドキドキする。

『彼』にキュンキュンする。

『恋愛不能者』のこの私が。


 ドキドキする。フワフワする。

 ずっとそばにいたい。

 ずっと見ていたい。


 これは。

 この気持ちは。



 ――これが『恋』か。



 ずっと抱いていた『夢』が叶った。

 うれしくて恥ずかしくていたたまれない。

 勝手にゆるむ口元をぎゅっと引き締めた。



 通学に電車に乗り込む。

 母からチカンの話を聞いた晃はクソ真面目にチカンを警戒して私を守ろうとする。


 壁ドンで囲い込む。

「大丈夫?」なんて心配そうに見つめてくる。


 私のお尻を守っているつもりらしく、鞄で隠してくれる。

 抱きしめてくれているのと変わらない態勢だとわかっているのだろうか? これはわかっていないな。


 満員電車が揺れるたびに人が倒れかかってくるけれど、晃がぐっと腕でガードしてくれてるから私は少しも苦しい思いをすることはない。

 それなのに「大丈夫?」といちいち心配そうに聞いてくる。


 愛されている実感に、キュウゥゥゥン! と胸が高鳴る。


 晃はこんなに私のことを大切にしてくれている。

 晃はこんなに私を守ろうとしてくれている。

 うれしくて、しあわせで、満たされる。


 あんまりにしあわせで「ありがと」とお礼を言うときにも笑顔が自然にこぼれてしまう。

 そうすると晃が真っ赤になるのがかわいくてたまらない。


『かわいい』と思ってくれているのが伝わってくる。

 他人の思念を受信してしまう精神系の能力者のための自衛用メガネをかけていてもストレートに伝わる恋情。


 対象に直接向かう思念は自衛用メガネでは防ぎきれないこともある。

 それを考慮に入れても、晃の『好き好き光線』は私を突き刺した。


 それは、それだけ強く、晃が私を『好き』だということ。




 晃が私を『好き』。


 その事実は、私に喜びを感じさせた。

 前世含めて五十年超の人生で初めての喜びに、私もウキウキフワフワした。


 私も晃が『好き』。

 晃が好きだと示してくれているからじゃない。


 晃が『好き』。

 

 やさしいところも。情けないところも。

 ワンコみたいになついてくれてるところも。

 ホントはすごい実力者なのにそれをちっとも感じさせないところも。

 真面目なところも。

 お人好しなところも。


 好き。


 私、晃が好き。



 私、『恋』してる。



 自覚するとダメだった。

 誰かがいるところでは前世京都育ちで(つちか)った平常心をフル稼働させてなんてことない顔をしていた。


 でも夜部屋でひとりになると途端に顔が赤くなる。

「ひゃー!!」なんて叫んでどったんばったんしてしまう。


 もう、もう、あの天然タラシ! カッコ良すぎるのよ!!


 電車の中で囲われてる間、トキメキが過ぎて死にそうなんだけど!

 ちょっとふらついただけでぐっと支えてくれるの、頼もしすぎなのよ!

 学校でも熱い視線を向けてくるの、バレバレなのよ! どれだけ私のこと好きなのよ!!



 学校でも晃の『スキスキ光線』はバレバレで、新しくできた友人に言われた。

「久木はアレに気付かないの?」


「……気付いてるわよ」

「じゃあなんで何もしないのよ」


 サッパリとした彼女はサッパリと聞いてきた。

 だから私もつい、本音をもらした。


「……実はね」

「うん」

「私、『夢』があるの」


『どんな?』と視線で問われ、こっそりと耳打ちする。


「……『好き』って、告白『される』こと」

「ほほう」


 キラン。友人の目が光った。


「それはトキメクわね」

「でしょ?」

「トキメキは必要ね」

「必要なのよ」


 ニヤリと笑い、友人は晃に目を向けた。

 阿呆は友人二人になにやらなぐさめられている。


「あのヘタレっぷりじゃムリじゃない?」

『アンタがさっさと言えばいいのに』と顔に書いてある。


「まあ、もーちょっと待ってみようかなと」

「なるほど?」


 ニヤニヤ顔を向けてくるから、わざとドンと体当たりしてやった。

 向こうもやり返してきたので、二人でしばらくじゃれ合った。





 そうして運命のあの日。

 晃は、やっと「好き」と言ってくれた。


 私が『言わせた』みたいになったけど。

 ちょっと思ってたのとは違ったけれど。


 情けなくうなだれてるのも、目にいっぱい涙をためてうるうると見上げてくるのもチョーかわいくて、抱きしめて「ゴメンね! 私も好きよ!」とつい口走ってしまいそうだったから。


 晃『が』告白して『くれた』ことが重要なんだから。ウン。まあ、良しとしましょう。



 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる晃。

「好き」「大好き」

 何度も何度もそう口にする晃。


 抱きしめてくれるだけでしあわせで満たされていく。

「好き」とささやかれるだけで身体もココロもポカポカする。


 きっと晃のナカの『火』が言葉や体温に宿って私に注がれているんだ。

 だから私のナカの『日』も晃に注ぎ返さなきゃ。


「好きよ。晃」

 言葉に宿して。


「大好きよ。私の『半身』」

 体温に込めて。


『半身』は、もともとひとつの『(カタマリ)』だった。

 その伝説はきっと本当だ。

 だからこんなに二人は溶け合うんだ。

 だからこんなにそばにいたいんだ。


 ぎゅうぎゅうと抱きしめ合う。

「好きよ」

「――ひな――!」


「大好き。大好き。ひな、大好き」


 大仰(おおぎょう)な愛の言葉も、美辞麗句もなにもない。

 幼稚で、単純な言葉。

 だけどそれが晃らしい。

 晃の素直な気持ちがまっすぐに届いてくる。

 

 あれだけ挙動不審に照れてたのが嘘のように晃は私を抱きしめる。

 何度も何度も『好き』と口にする。

 きっと、私が『受け入れた』と『わかった』から。


 私も『受け入れた』途端、胸の奥に火が灯った。

 それまでも晃が『好き』だとおもっていたけれど、もっと熱くてもっと強い熱が宿った。


 きっとこれが『半身』。

 お互いに求め合う存在。


 晃が私を抱きしめていた腕をゆるめ、ゆっくりと身体を離した。

 たったそれだけで満たされていたのが欠けたよう。

 でも、その目と目が合った途端、キュゥン! と胸がトキメいた。


 熱のこもった、トロンとした目。

(ひな)が好き』それだけが染めてある。

 その目に射られた瞬間。

 ズキュゥゥゥーン! と貫かれた!


 なによその目!

 そんなに私が好きなの!?

 そんな、そんなの――かわいすぎるのよ!


 なによなによ!

 なんで男のくせにそんなにかわいいのよ!

 もう、もう! 仕方ないんだから!


 軽く上を向くと、意図を察してくれた『半身』がすぐさま唇を重ねてくる。

 ああ、しあわせ。


「ひな、大好き」

「ずっと一緒にいて」

「結婚して」


 なんでいきなりそこにいくのよ。早すぎなのよ。まずは『お付き合い』でしょうに。


 なんだかおかしくてかわいくて、また抱きしめてキスをした。




 こうして前世『恋愛不能者』だった私は、『半身』を得てトキメキを知り、『夢』を叶えたのでした。


『誰かを好きになる』という『夢』を。

『恋』をするという『夢』を。

『好き』って告白『される』という『夢』を。


『夢』は、『願い』は、いつか叶うのかもしれない。

 たとえ時間はかかっても。


『恋愛不能者』の『欠陥品』だった私でさえ、『恋』しているのだから。






 このあと『半身』の暴走に付き合わされ巻き込まれ頭を抱えることになるとは、手綱を握る苦労を負うことになるとは、このときは夢にも思わなかった。


「『恋』したいとは願っていたが、ここまでのイチャイチャは求めていなかった」

「ひな、好き」

「黙れ」

「ひな、大好き」

「黙れ!」


 私の苦労は始まったばかりだった。

これにて完結と致します。

明日からはここに載せようとして長くなりすぎたハルのお話の連載をはじめます。

引き続きお付き合いよろしくおねがいします!

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