表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第五話 桃姫は行く


 だが、犬も猿もキジも動揺していない。静かな眼差しで、冷静を保つ様子に、妻も怪訝そうに表情を変え、そして笑声を止めた。

「婆さんよ、すまん。筋肉が分厚すぎて、針が刺さらんかったらしい」

「は?」

 からりと落ちるかんざし。

 その針先は僅かに曲がっていた。

 桃姫の首は赤くはなっているものの、血は出ておらず、刺さった痕跡はない。

「い、いいい意味がわからないんだけど! その無駄に発達した筋肉を落としてから来なさいよ!」

 慌てふためく妻に、申し訳なさそうな表情で声をかける。

「そんなこと、いまになって言われてもなぁ。なあ、猿?」

「我に振るな」

 全く心配する素振りもない猿。

「わしゃ、初めてこの世界に来て、女の子に産まれて(マッチョで)よかったーって思ったよ」

「そりゃ、よかったね。桃ちゃん」

「そだねー、Princess!」

 ハハハハハハハ!

 お互いに笑い合う桃姫達。

 すると、妻は落ちたかんざしを拾い上げる。懐から小刀を取り出し、左右に振った。

「諦めない! 私は諦めない!」

 少しでも傷をつけようと必死になる。それは可哀想に思えるぐらい無謀だった。

「婆さん、もうやめよう」

「嫌です、嫌です! 私は最期まで諦めない!」

「えー……じゃあ、わざと怪我したら満足する?」

「おい、やめろ!」

 桃姫の言葉に焦り、猿は叫ぶ。

 嫌な予感がするのか、猿はキジに「小刀を奪い取れ!」と指示をするが、その前に桃姫はわざと切られた。切られた腕の傷は、薄皮一枚で深くはなく、うっすらと血が滲む程度。

「ありがとう、爺様!」

「お?」

 妻はその傷にかんざしを突き刺した。

「痛い!」

 痛みで思い切り振り払うと、妻は簡単に吹っ飛んだ。それは二階の議席まで一直線に。

 慌てて、猿が桃姫の腕に刺さるそのかんざしを抜く。

「大丈夫か⁉︎ 体に異変は?」

「うぅ、熱い……刺されたところが熱いんじゃ……!」

 腕を押さえる。だが、その異様な熱は消えない。

「ハハハハハ! ザマァ、ざまあみろ!」

 妻は高らかに笑った。椅子から顔を覗かせ、勝利を確認したかのように満面の笑みで。

 だが、彼女には、転がった眼鏡を拾い上げる力はなかった。

 体を動かすこともままならないようである。押さえる腕は赤黒く変色し、額からは血が流れていた。

「はは、はは……やった。これで人間の実験が、でき、できる……」

 広がった瞳孔が、ぐりんと上へ向いた。

「息絶えちゃったわね」キジはそれを見て、桃姫のところまで飛ぶ。

 降りたった頃には、桃姫もまた床に転がり、苦しんでいた。その様子を見て、キジは首を大きく横に倒した。

「どうしたの?」

「かんざしに仕込まれた薬が……体内に……」

「それで?」

「『それで?』じゃあないわッ! 洗脳の薬だぞ⁉︎ このままじゃあ嬢ちゃんが……ッ」

 苦しむ桃姫の代わりに、猿が怒る。そんな悠長な態度をとるんじゃないと。一刻を争うのだと。

 だが、やはりキジは首を反対に倒した。

「お嬢からきびだんごを貰ったんじゃないの?」

「きびだんご……?」

 桃姫は言葉を繰り返した。

 そういえば腰に付けたきびだんごを、一度も動物に与えてないな、と。

 すると、今度は座っている犬が開口した。

「もしかして、一人でムシャムシャきびだんごを食べてたのが、よかったんじゃね?」

「ああ、そういえば食べた食べた」

 桃姫は記憶が鮮明に甦り、犬の言葉を肯定した。この街に来た時に、ビルを眺めながら食べた記憶が確かにある。

「俺様、いま思い出したんだけど、そのきびだんごは洗脳を解く解毒薬だよね」

「猿ちゃんは知らなかったの?」

 犬からその事実を聞き、猿はキジの問いに首を縦に振る。そして、怠そうに議席に座った。

「お嬢の……馬鹿野郎……前もって教えてくれ、いつもいつもいつも……」

「いつも」という言葉を繰り返し呟き、目元を片手で覆うと天を仰ぐ。

 その姿は、燃え尽きたかのように力が入らなかった。

「そんなに衝撃的かしら?」キジは首を傾げ、真っ白のように見える猿の肩を嘴で突いた。

「とりあえず、わしはきびだんごを食ってたから問題がないっちゅーわけじゃな」

「ザッツライト!」

 片目を閉じる犬。

 そして、いそいそと動き出す犬達。

「終わったのか、これで」

 議席に座って休む桃姫。まるで先程の異変はなかったかのように。思い込みとは、とんでもない力を発揮するものである。

 右へ、左へと忙しそうに動き回る動物を見ては、溜息を吐いた。

「婆さんを救うこともできないまま、ゲームオーバー。転生して、本当にこれでよかったのか……なんのために転生をしたのか、わからんのぅ」

 そこになにか風呂敷を足に掴んだまま、キジがやって来た。

「動物達を洗脳から解放した。それは悪いことなの?」

「いや、そういうわけじゃあないが」

「なら、いいじゃない。胸を張りなさいよ、胸を。きびだんごで洗脳が解けた動物達は自由を得たわ。みんな、自然へ帰っていってる」

 洗脳が解けた熊やライオン、虎など、おっかない動物達が、犬に誘導されて国会議事堂を後にする。その背中を見ていると、それはそれでよかったのだと心の底から思う。

「人間の方は……まー総理大臣を倒しちゃったけど、人間は馬鹿じゃないんだから、なんとかやっていくでしょ」

「え? わし、総理大臣を倒しちゃったの? それって凄くヤバくね?」

 きょとんとしたが、すぐに頭が追いつき、事の重大さに気づき始める。背中を伝う嫌な汗。

「まあ、追われるでしょうね」

「謀反だから仕方がないな」

 キジの言葉に続く猿の声。

 嗚呼、終わった。

 もう、人生終わった。

 生後一日目にて、人生が終わった。

「わし、また転生してくる! 次はまともに暮らすんじゃい!」

「さあ、お宝はいただいたし、嬢ちゃん、帰るぜ!」

 猿は大きな風呂敷を背負った。

「待てえええええ! いま、お宝っつったよね? お宝っつったよね?」

 そこに誘導をし終えた犬が駆け寄った。

「桃太郎ってさ、取り上げた鬼の宝物で幸せに暮らすんだぜ?」

「おいいいいいいいい! クソ犬! 桃太郎って言うな! 一応、これ桃姫筋肉奇譚っつー作品名があるんじゃからな!」

「とにかく、もうずらかりますよ」

 キジは飛んでいく。

 それを追いかける桃姫一行は、婆と爺がいる家に帰り、持って帰ったお宝で幸せに暮らしましたとさ。

 おしまい。



もし気に入っていただけましたら、評価【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】をしてもらえると嬉しいです!

作者のやる気に直結します!

宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ