第7話 〜夕焼けの丘で〜
アルナスとカイが会話をしていたころ、ミカはルナと共に体を流しながら話していた。
ミカは目の見えない母親に付き添い、こうして一緒に体を流してあげることが多かった。
そして、無言だった浴場にミカの声が微かに響いた。
「母上」
「どうしたのですか?」
「怒らないんですか?」
「怒りませんよ、無事ならそれで良いのです」
「...」
「それにカイが一緒だったのであれば、尚更大丈夫だと私は信じておりました」
「はい」
母の優しい声に涙が出そうだったミカは必死に堪えた。
そして、神殿の夢の中でみたことを全て伝えた。
ルナは知っていた。
その話は代々語りづかれ、タイラーンの末裔たちであればそれを知らない者はいない。
先代たちの苦労や、アルハーツの記憶でさえ、末裔たちは記憶しているからである。
その翌日であった。
カイはミカとルナを連れて散歩に出るよう命じられ、2人の手を引いて城を少し離れた丘の上へと向かった。
そこには想像を遥かに超えた絶景が広がり、色鮮やかなライラックが咲いていた。
丘の頂上にたどり着き、ルナは一つポツンとある木のふもとに座り込んだ。
カイとミカは手を繋ぎ、その辺りの花を摘んでいた。
そしてミカはそこに咲く一輪の花を見つけて言った。
「カイ様みてください!これは何の花ですかね?」
「俺にもわからないな」
「オレンジ色ですね」
「綺麗だな、でもなんでこの子だけ色がちがうのだろうか」
2人が手にしてたのはマリーゴールドであった。
マリーゴールドはこんな花言葉がある。
『予言』
この光景はかつて、堕天使ネミエルが姉を訪ねてタイラーン城に来城し、この予言を姉のミファエルに見せていた。
そしてこの花をみてカイはいきなり口を開いた。
「ミカ!俺、強くなるよ!」
「急にどうしたのですか?」
「父上や、アルナスじっさまより強くなってミカを守ってあげる!」
「嬉しいです」
「だから、大人になったら俺と...俺の花よめになってくれー!」
「!?」
「ずっとミカを守りたい」
「あ、あのー、あ、はい!」
「それからこの時代も、また来世でもミカのことを守る」
ミカは笑いながら言った。
「カイ様のこと、信じてますもの、この約束ずっと守ってくださいね」
カイはその約束をずっと守ることになる。
そして、ミカも初めて愛を知り、1人の男性を支えたいと思うようになった。
その約束が交わされた直後であった。
2人がルナの元に戻ると、ルナは倒れ込んでいた。
意識がない。
慌てるミカを見て、カイはその場を飛び出した。
丘の上からかけおりるには、少し急な坂にあちらこちら石が散らばっている。
カイはあまりの速さで下りていたが、石に躓きこけてしまった。
真紅の血が滲み出るようにでている。
それでもカイは泣かず、立ち上がって、また走り出す。
城のものを誰か1人でいいから、呼びに行くために。
そしてボロボロのカイが城門に入った頃、アルナスはそこにいた。
カイの様子が変だと、アルナスは急いで駆け寄って、安否を確かめた。
「カイ様!!」
「アルナスじっさま、おば、おばさ、まが」
「ルナ姫がどうされたのですか?」
「ルナ姫が、倒れました、東の丘の上...」
アルナスは側にいた兵たちにカイを任せ、飛び出した。
いつか来るとは思っていたが、あまりにも早すぎる。
ルナの目が見えなくなったあの日からアルナスは覚悟は決めていた。
彼女はそんなに長くはないと。
そして、アルナスは丘にたどり着いた。
ライラックの香りがただより、夕焼けの光に包まれ、ミカの膝の上にルナはいた。
駆け寄るアルナスをみてミカは泣き出した。
「私です。姫、アルナス来ました」
「あ、るなす」
「はい、私はここです」
「近くにきて、私の手に触れて」
微かな声を聞きとるアルナスはすぐさまルナの手を自分に当てた。
「ほんとうに、あるなす、」
「はい姫」
アルナスは目から涙がこぼれだすとそれを感じ取ったルナはすぐさま拭いてあげた。
「ごめんなさいね、もっといっしょにいれなくて」
「だめです、姫」
「ミカをよろしくおねがいします」
「もちろんです」
「ミカはだいじょうぶ、私たちの子ですもの」
「そうですね、姫」
「しあわせ...でした、あり...」
微かに話したルナの声はアルナスの耳には届かなかったが、ルナが伝えようとしていた心はアルナスにちゃんと届いた。
「私の方が幸せでした、安らかに眠ってください」
アルナスはルナを抱きかかえ、お城へと戻ると城門の前ではハイデルが待っていた。
ハイデルもすぐさまルナの亡骸をみると泣き崩れ、アルナスと共に泣いた。
ルナ・R・タイラーン
40歳でこの世を去った。
『R.I.P Luna・R・Tairahn』