第4話 〜堕天使〜
タイラーン城は珍しく嵐で荒れていた。
普段は大人しく流れる川も荒々しさが目立ち、一段と音を立てている。
タイラーン城の最上、見晴らしの良い場所が国王アルハーツとミファエルの寝室で、全ての民を見守れるように造られている。
「しっかりしろ、ミファ」
「...」
ミファエルは意識を失っていた。
そして彼女の夢の中にネミエルが入り込んできた。
綺麗なお花畑の丘で、1人の女性と子供たち2人が遊んでいる。
なんの光景なのだろうか。
ミファエルはほっこりしながらも、恐怖を覚えていた。
「姉様、これは私たちの未来です」
「ネミエルなの?」
「私は長年かけて、あなたに報復します」
「ネミエル、本当にごめんなさい」
「いいえ、姉様のおかげで私は目が覚めました、よって神の愛する人間を全て消します」
「ネミエル、お願い!そんなことはやめて」
「もう、私にも私を止めることができません」
「どうして?」
「私はキールと一体になることができました、キールの意思を継ぎます」
「そんなこと、あのお方が許すとでも思いますか?」
「私はもう、あのお方から見放されました」
「!?」
「神は...私の手で殺したからな!」
ミファエルは目が覚めた。
アルハーツに抱きかかえられながらすごく震え上がっていた。
「ミファ!大丈夫か?」
「彼女は恐ろしい」
「誰のことだ?」
「私の...妹です」
「一緒に降臨したと言う、ネミエルのことか?」
「人間、気安く我の名を口にするでない」
「お前は誰だ!!」
雷とともに激しく揺れるカーテン、
窓辺に黒い影、翼は漆黒に染まり、全てをさらけ出したネミエルがそこにいた。
「あなた!その姿は?」
「姉よ、私はお前が憎く、嫉妬し、抹消したい」
「やめなさい!ネミエル、まだ戻れるはずです」
「十分に楽しんだだろ?10年も与えたのだからな?」
「逃げてください、アルハーツ!」
「そんなことはできない!」
「あなたは他人に剣を向けてはならない!」
「...」
「さぁ、アルハーツ、我に剣を向けなさい、さもないと姉を殺すぞ?」
「!?」
「お願い!やめて!」
そしてアルハーツはついに剣を抜いてしまった。
掟に従い、ミファエルはアルハーツを罰しなくてはならなくなった。
これを守らなければ、自身も神を裏切ることとなり、堕天使になってしまう。
「これは、守るための力だ!」
「それでも、我に剣を向けるのか、愚かな人間だ!」
抜刀したアルハーツの剣はネミエルの剣と混じり合い激しい音を立てた。
ミファエルは考えた。
彼女を封印できるのであれば、犠牲を伴わないといけない、その代償は自分の愛と引き換えに。
「更なる厄災を止めるために、罪を犯した我が夫、アルハーツを犠牲に彼女を封じる」
「なにをするのだ!ミファエル!」
ミファエルは封印の儀式を始めた。
「愛しています、これからもずっと」
「どういうこと、だ!?」
アルハーツへの言葉と共に光に包まれ、ミファエルとネミエルは消えていった。
その場に残されたのはアルハーツだけである。
「私はなにを、なぜ泣いている?なぜこんなにも心が痛い」
アルハーツへの罰
愛したものとの記憶をなくし、残る人生を1人で生きること。
ミファエルは彼を愛した故に、自身とネミエルを封印することを決断したのである。
人を愛した故の決断であった。
そして、アルハーツはそれからもミファエルのことは覚えていないが、自然と彼女との約束を守り続け、
タイラーン建国から35年春に王子に王座を譲渡した。
その年の夏、アルハーツは68歳で永遠の眠りについた。