東京アラート
神田律子は派遣社員。
緊急事態宣言は解除されたが、律子は相変わらず仕事に就けないでいる。
「あまり焦らないで。りったんが働かなければならない程、俺の稼ぎは悪くないからさ」
夫の陽太は律子を慰めるために言ったのだが、
「私は働きたいの! 陽太だけに負担させるの、嫌だから!」
ムッとした顔で反論され、
(しまった!)
後悔した陽太だが、謝る間もなく、律子は愛娘の雪と風呂に入ってしまった。
(出てきたら、謝ろう。ギスギスするのは嫌だから)
陽太はテレビドラマを観て、二人が風呂を出るのを待った。
「はっ!」
陽太はいつの間にか寝ており、ダイニングキッチンは明かりも消されて、リヴィングルームも真っ暗になっていた。
「うわわ!」
陽太は慌てて寝室へ走った。しかし、そこには律子の姿はなかった。
(雪の部屋?)
陽太は娘の部屋に行った。だが、中は真っ暗。雪が寝ているとなると、明かりを点ける訳にもいかない。
(どうすればいい?)
答えが見つからず、陽太は廊下をウロウロした。
仕方なく、風呂に入った。そして、浴槽の中で考えた。
(朝、謝ろう)
そう結論づけると、サッサと風呂を出た。
寝室で髪を乾かし、ベッドに入り、明かりを消して目を閉じた。
案外、あっさりと眠ってしまった。
「はっ!」
また飛び起きた。すでに律子は起きているようで、いい匂いが漂ってきていた。
陽太は意を決して、ダイニングに行った。
「お、おはよう」
恐る恐る声をかけてみる。
「おはよう。ごめんね。雪を寝かしつけてて、そのまま寝ちゃったみたい」
テヘッと笑う律子を見て、陽太はぽかんとした。
(え? どういう事?)
陽太は首を傾げて律子に近づいた。
「怒ってないようなので、ホッとした。昨日はごめんね、陽太が気を遣ってくれたのに、強く言い返しちゃって」
律子は苦笑いをしながら謝罪してきた。陽太はすっかり面食らってしまい、
「ええと?」
言葉が出てこない。律子は料理に取り掛かりながら、
「陽太が怒ってると思って、雪とお風呂に入って出てきたら、陽太、ふて寝していたから、起こすと怒り出すと思って、そのままにして雪を部屋に連れて行ったの」
「そ、そうなんだ」
陽太は律子が怒ったと思ったのだが、律子は逆に思っていたのだ。
「そんな事で俺は怒らないよ」
陽太は微笑んで律子に近づくと、後ろから抱きしめた。
「ちょっと、危ないよ、今包丁使ってるんだから!」
律子に振り払われ、陽太は仕方なく離れた。
「おあついね」
それを見ていた雪が言ったので、三人で笑った。
(アラート鳴らなくてよかった)
お互いにホッとする似た者夫婦であった。




