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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋と呼ぶには早すぎるが、きっかけなら出来ている

作者: 彩木成実



ある日突然、恋人に別れを告げられた。


「ごめん」とただ一言だけ、俯きながら呟かれた言葉に、俺は初めて恋人の前で声を荒らげた。


「ごめんってなんだよ、理由を言えよ」と、昼下がりの静かな喫茶店に響かせた。休日で客もそこそこ店内にいた事から、俺達二人は好奇心の目線に晒された。

それに居心地悪さを感じながらも、目の前の相手を見つめる。


そして、静かにぽつりぽつりと吐いた言葉は俺の口から言葉を奪った。

他に好きな奴が出来たとか、俺に愛想を尽かしたとか、そういうやつなら、まだ良かったのかもしれない。

でも、現実はまさかの浮気相手の妊娠。いや、俺が浮気相手だったのかもしれない。

どちらにしても、俺達の関係はその言葉を境目に、終わりを告げた。



ふらふらと、俺は街中をさまよっていた。

あの後、また頭を下げて「ごめん」と謝ってきた恋人……、元恋人はそのまま席を立ち、俺の分の会計を済ませて、そそくさと去っていった。

そして、俺達を見ていた他の客達は一人残された俺に哀れみの目を向けた。

喫茶店の店員からサービスでケーキを頼ませてくれた。

その優しさが、反対に俺の心を抉った。


注文したケーキを食べて、店員に渡されたサービスのマッチを貰い、俺も喫茶店から去った。


そして、今に至るのだ。


沢山の人とすれ違い、俺は傷心のせいで八つ当たりに、幸せそうなカップルに睨みを聞かす。

でも、幸せで相手に夢中なカップルは俺の理不尽な目線には気付かない。それに余計、傷付いた。

昨日までは俺もそんな風に、恋人に盲目な恋をしていたのに。今じゃ、ただの片想いだ。

惨めだなと、自分に向かって苦笑を送る。

あぁ、辛い。きつい。耐えられない。たまらない。


俯き、自分の黒い影を見つめる。


その時、ズボンのポケットに入れていたスマホからピロリンッ♪と憎たらしく感じる明るい音が鳴る。

なんだよ、とやさぐれた心の中、スマホの液晶を覗く。


『あんた、たっくんの浮気相手でしょ? 彼から離れて。どうせあんたが誑かしたんでしょ!? お前が現れなかったら、誠実な彼のままだったのに! このクソ女! 私のお腹には彼の子供がいるの。分かってるの? 妊婦から男奪うなんて、正気の沙汰?』


元恋人の名で届いたメッセージはどうやら、先程聞かされた妊娠した人が打ったらしい。

『クソ女』と打たれているが、残念ながら俺は男だ。それに、奪う気なんてない。そもそも、捨てられたし。

俺は自分の自虐に乾いた笑いをし、相手にメッセージを送る。


『安心してください。さっき彼の方から別れを告げられました。貴女がどう、このメッセージを送ったかは分かりませんが、彼に聞けば分かることです。お腹の赤ちゃんとお幸せに。ちなみに、俺は女ではなく、男ですので悪しからず』


それを送り、元恋人の連絡先を消した。

これで、本当に縁が切れてしまった……。

煮え切らない気持ちに気分が落ち込み、何もする気が起きなかった。

こういう時に行く場所など、残念ながら俺には持ち合わせておらず。ただ、ふらつく足で闇雲に歩いた。




それがいけなかった。




横断歩道を渡っている時に横から信号無視のトラックが突っ込んできた。

傷心した頭でトラックが来ている事を視界で捉えても、咄嗟に動く事は出来ず、そのまま簡単に体は宙に浮く。


痛みで霞む視界の中、俺の目は視界に映るマッチしかなかった。

このマッチはさっき、店員から貰ったやつだ。よく行く喫茶店であの店員とも、よく話していた。

あぁ、でももう行けないな。あんな修羅場を店内で繰り広げ、大層迷惑だっただろう。そんな迷惑を掛けた店に行けるほど、俺には度胸はない。


あっ、でも俺、このまま死ぬかもしれないんだ。

あんな惨めな目に合った後に交通事故で死ぬなんて、どんなバッドエンドな物語なんだろうか。

嫌だな。死にたくない。こんな気持ちのまま死にたくない。


俺は重たい手を動かし、震える手でマッチを握る。


そうだ。もし、生きていたら、そしたら勇気を出してあの喫茶店に行こう。

この前は騒がしくてごめんなさいと頭を下げて、お詫びにいっぱい注文もして、許してもらえたら、また通いたいな。

生きたいな。


そうして、俺は眠りを落ちた。













結果から言えば、死ななかった。

俺は病院で目を覚ました。

はっきりとしない頭と目で周りを見渡す。


「良かった! 目を覚ましたんですね!」


俺の視界に何故か分からないが、あの喫茶店の店員の顔が映り込む。

ろくに考えられず、ただ呆然と、涙目で嬉しそうな顔をする店員を見つめる。

店員は良かった、良かったと繰り返し、俺の手を握る。

その手に触れられた瞬間に、ぼんやりとしていた意識がドキリと鮮明になる。

なんで、この人がいるんだ。ここ多分、病院だよな!? なんでだ!?

混乱している頭でただ、?に埋め尽くされていると部屋に白衣を着た人が来た。


「目を覚まされたんですね。あなた、丸一日、目を覚まさなかったんですよ」


その言葉に俺は驚愕する。

丸一日も……。


「心配していたんです。あなたに渡した電話番号から連絡が来たかと思えば、あなたが轢かれたって言われて……」


"あなたに渡した電話番号"?

そんなもの渡された覚えは……

不思議に思い、横を見ると隣の棚にマッチが置かれていた。

渡された物と言えば、あれぐらいしか……まさか!?

店員に握られていた手を解き、マッチに手を伸ばす。

だが、思うように動かず、届きそうで届かずにいたら店員がマッチを手に持ってきてくれた。

そして、マッチを裏側を見ると……


『もし良かったら、連絡してください。』


という文字の下に書かれた数字……。

もしかして!? と店員の方を向くと顔を赤らめながら、照れくさそうにそっぽを向いていた。

その反応からして、この電話番号はこの店員の物だろう。

驚いた顔で店員を見ていると、店員は顔を傾げた。


「もしかして、気付いていませんでした? すみません。弱っている所をつけ込むような真似をして……。前から、好意を持っていたんです。でも、前に恋人さんと来てて……恋人がいるなら、どうしようも出来ないと遠目で見ていたんです」


その言葉に、心当たりがあった。

初めて、元恋人と一緒に喫茶店に行った時。その日はいつも、話し掛けてくれるのに話しかけてこなかった。

そして、その日を境に話し掛けてくれることは無かった。

あの日から何かと忙しくて、いつもよりも喫茶店に通う頻度が落ちていた。だから、たまたま忙しい時に来てしまったんだと思っていたが……。


店員はそのまま言葉を続ける。


「でもあの日、別れを言われている所を見た時に、不謹慎だとは思いますが、チャンスだと思ったんです。あなたは綺麗でカッコ良くて可愛いから、すぐに恋人が出来てしまうかもと思ったら、アプローチを仕掛けるのは今しかないって。やっと、アタックできるって……」


店員の言葉に顔が熱くなる。いやいや、やばいだろう。あまりにもチョロすぎる。それにこの前振られたばかりだぞ! 切り替えが早すぎるだろうが!


それでも、店員は俺の戸惑いに気づいてか気づかずか、俺の手を握り直し、真剣な表情で口を開く。


「初めて、店に来た時から惚れています。話すようになってからも、惚れ直してばかりで、恋も愛も深まっていて。正直、ベタ惚れです! 卑怯だと思われるかもしれませんが、お願いです。友達からでも良いので、付き合って頂けますか!?」


今にも泣きそうに、目に涙を溜めて。震えが止まらない手で俺の手を力強く握っていて。

そうか、君はずっと、俺に恋をしていたのか。恋人に捨てられた俺を同情や憐れむのではなく、ただ俺ばかりを見ていたのか。

あぁ、本当に俺はチョロすぎる。

最低だと罵ってもらって構わない。馬鹿野郎だと呼ばれてしまってもいい。

俺は、この男に絆されてしまった。


でも、まだこの気持ちは恋と呼ぶには早すぎる。

徐々に育てていこう。まだ、始まったばかりなのだから。




「まずはお名前から聞かせてもらえますか」


スタートラインはここだ。どちらに転ぶかはまだ分からない。

でも、ちょっとだけ期待しておこう。真っ赤に顔を染め、嬉しそうにはにかむ君に。







「コホンっ! えーっと、もう診察してもいいかな? 彼一応、目が覚めたばかりだから」


「「ご、ごめんなさい!!」」

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたら幸いでございます

前回の短編小説の反省を踏まえ、今回の短編小説が出来上がりました。ちなみに元恋人の相手は実は妊娠してなかったとか…実はまだ浮気相手がいて、次々の修羅場に会うとか等々、不幸な目に合いますのでご心配無用でございます。

この後、主人公達は時間をかけて愛を育み、幸せになります。

タグがあまり、浮かばずそんなに書いていないのですが、ご意見を頂ければ、追加致します。あらすじまで考えておらず、深夜テンションで書き上げたので、あらすじの雑さとご都合主義でございます。申し訳ありません……。もし、閃いたらあらすじに手を加えるかもしれませんが、ご理解程、よろしくお願いいたします。


それでは長々と失礼致しました。

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