EXE ダンジョン探索用強化外骨格
「今回正式に採用されるのは――『ロスティル社』の『グランネクスト』になります」
「そんな!?」
ダンジョン探索用強化外骨格、通称『EXE』のトライアル。
今回参加していた4社のうち、採用が決まったのは最大手の機体だった。
ロスティル社のグランネクストとは、一世代前のグランアームズの正統後継機だ。
汎用素材を多用し低く抑えられた値段などで確保された高い量産性、それでいながら性能は非常に高いところでまとまっている。
能力的なモノに加え操作性も良く、ダンジョンを探索する軍から高い評価を得ている。
言ってしまえばこのトライアルは出来レースのようなものであり、最初からロスティル社の採用が決まっていたのだ。
それでも他社をトライアルに招いたのは、技術交流による刺激をロスティル社に与える為だ。
一つの会社だけで動きがなければ技術・発想に停滞を引き起こす。人も会社も技術も、外からの刺激が必要である。
それに、在野にも素晴らしい技術を持つ会社はある。そういった無名の会社にチャンスを与える事でEXEは進化する。そうやって国はダンジョンを攻略していく。
今回新規で参加した会社、うち2社はこの結末を最初から予期していたので、そのまま受け入れた。
基幹技術を開示したわけではないので他社と自社の技術格差を把握する為、その程度の思惑でいた。
だが、残る1社はそうではない。
このトライアルに社運を賭け、採用されなければ首を括らねばならないほどの意気込みを見せていたのだ。
そして、「一見すると」かなり高い技術力を持っていたので、結果に納得など出来なかった。
「なぜ、なぜウチの『フェアリー』では駄目だったのです!? 性能では一番だったのです!」
「コストが高すぎです。希少金属を多量に使ってよいという条件が先にあれば、ロスティル社ももっと素晴らしいEXEを用意したでしょうね。
あとは生産計画が杜撰すぎです。軍へ納品するなら月産二十台は必要ですよ? 他にも補修部品なども用意してもらわないといけないのに、その部分が全くありません。
この程度の企画で、トライアルに本気で参加していたのですか?」
抗議の声を上げた女性の会社が用意したEXE『フェアリー』は、今回参加した会社の、どのEXEよりも高性能だった。
ただ、それは一般販売する大衆車のトライアルにワンオフ機のスーパーカーで挑んだようなものでしかない。
性能差があるのは当たり前だ。
「現状のダンジョン探索が停滞しているのは、いざというときに頼りになる旗機の不在なのです!
たしかにグランネクストは進歩しているのですが、それでもブレイクスルーに至るものではなく変化をもたらす事は無いはず! 大きな変化をもたらすにはフェアリーのような――」
「御堂さん」
持論をまくし立てる女性『御堂美鈴』だが、その台詞を軍の事務官が遮る。
事務官の男は冷たく美鈴に言い放つ。
「決定事項です。こちらの要求を満たせなかった貴女たちが悪い」
反論は、許されなかった。
二十二世紀の地球。
世界は大きな変革を迎えていた。
二十一世紀前半、世界中に現れた謎の建築物、通称『ダンジョン』。
その登場によって。
ダンジョンの形状と名前から剣と魔法のファンタジーを思い浮かべた者が多いが、中で待っていたのは異形の機械群である。
銃なども普通に効くしどの兵器も“使えれば”有効であった。一部のミサイルなど大型の兵器群は屋内戦闘で使える物ではなく、携行火器が限界だったと言うだけだ。
海外では軍隊が、日本は初期こそ自衛隊が携行火器で戦っていたが、敵を鹵獲し、その技術からパワードスーツ『EXE(ダンジョン探索用強化外骨格)』を開発。ダンジョン攻略に乗り出した。
そうすることでダンジョン探索をより安全に、効率よく進めている。
EXEの運用は軍が一括で取り扱い、民間には流通していない。
戦闘機や戦車に類する物なので、当然の措置だ。
中には民間にもダンジョン探索を解放するべきだという“愚かな”意見もあったが、そこそこ安いモデルでも1機3億円ほどするEXEを複数購入する民間人がどれほどいるものだろうか?
そもそも、EXEには操縦者適性が求められる為、誰でも使えるという事は無かったのだが。
EXEは民間企業で製作されている。
当初は軍需産業ということで憲法違反を指摘されていたが、国産EXEの開発は必須であり、外国から購入するというのはありえない。
すぐさま憲法改正が行われ、直ぐに国産EXE制作を行う企業がいくつも現れた。
現在EXEの開発ライセンスを持っている国内企業は6社。
うち2社が軍に制式採用されたEXEを持ち、残る3が挑み続けている。
当初は時折入れ替わりが発生する程度に互いの技術力は拮抗していたが、ここ数年は入れ替わりが無くなりロスティル社一強時代に突入しつつあった。
「う~~!! ムカつくのです!!」
「だから言ったろ。性能を落としてでも作りやすいのを作れ、ってさ」
「クロくん! 妥協で良いものは作れません!!」
「美鈴。アンタのは「妥協しない」じゃなくて「自重しない」だぞ。意味に天と地ほどの差がある」
トライアル終了後。
美鈴は会社で同僚に愚痴をこぼし――恨み節を絶叫していた。
話を聞いているのはテストパイロットの男で、『玄野鉄』。通称『クロ』。
操縦者適正試験で国内屈指の適正値をたたき出した“天才”である。
元は軍に進む予定だったが、とある性格の合わない知人が先に軍属となった為、民間のテストパイロットになったという経歴を持つ男だ。
「まぁ、それでもダンジョン探索の許可は貰ってきたんだよな?」
「そこは、何とかなりました。
……そうじゃないと、次の機体を開発するどころかウチの会社が潰れますから」
「総務も経理も仕事してねぇなぁ」
「熱意の勝利と言ってください」
テストパイロットのクロと開発部の美鈴は幼なじみであり、互いの関係は気安い。
美鈴の方が一つ年上だが、実際の関係を見ると、クロの方が年上に見える。コレは身長差や顔つきの問題もあるが、子供っぽい言動以上に経済観念と生活能力を含む“現実直視能力”の差が酷いからだ。
「まぁ、いいや。とにかく俺が稼げば済む話だ」
「あ、次の開発用にルーンメタル100kgとミスリル20kg、あとオリハルコンを――」
「――そろそろ学習しような、美鈴」
「痛い痛い痛い!!??」
開発関連では美鈴も天才と呼ばれておかしくない能力を持っているが、対人会話能力に経済観念の欠如が酷すぎる為、大手企業に就職できなかった過去を持つ。
そしてストッパーであるクロがいなければ、今いる『ゼノ・インダストリー』を立ち上げる事は無かっただろう。
その程度に考え無しであった。
なお、今回のトライアルへの挑戦に“美鈴が独断で”使った開発費を見て経理担当が気絶したのは言うまでも無い。
クロによる美鈴の調――教育の成果が待たれる次第である。
美鈴へお説教を終えたクロはEXE格納庫に足を運んだ。
トライアル後の機体整備の進捗を確認する為だ。
「お疲れ様、ボス」
「あ、聖さんですか。フェアリーの調子はどうですか?」
格納庫に収められているEXE『フェアリー』の補給と整備をしている白衣の女性がクロに気が付く。
『聖空』。四十過ぎの、この女性がフェアリーを含むEXEの機体管理をしている。ゼノ・インダストリーの元になった会社でロボット関連の製作をしていたベテラン技術者である。
彼女を主任に、開発者・美鈴の無茶に応える製作・整備チームが動いている。
美鈴相手であれば気安い口調のクロだが、年上であり、命を預けるEXEの製作・調整・整備をする聖たち相手には素直で丁寧な対応をしている。
「高い技術を持つ彼女たちに敬意を払うのは当然」といった態度である。
聖の「ボス」という呼び方は、クロがゼノ・インダストリーで実質トップだと認識しているからだ。テストパイロットとして高い評価を得ていて、開発主任の美鈴に強く意見を言えて、テストパイロットの中でもリーダーを務めているからだ。
彼女は彼女でクロに対し敬意を払っており、彼の為に全力を尽くす所存である。
二人の関係は良好である。
……時折、それを美鈴が「年上好き」と揶揄しているが、そのたびに物理的に口を閉ざすハメになる。
クロの性癖という真相は闇の中だ。
「補給は終わったけどね。関節部分の摩耗を考えると部品の一部交換が必要よ。出るのは明日にしてちょうだい」
「あー。すみません」
「いいのよ。トライアルだもの。この子の全力を見せなきゃね」
EXEは、通常起動であれば特に損耗無く、数十日間の連続起動にすら耐えうる。
しかし戦闘機動をした場合、たった数時間でも関節部分を中心に金属パーツが疲労し、交換しなくてはいけない。
トライアルはそこまで長い時間をかけてはいなかったが、これからダンジョンに潜ろうというのであれば、ちょっとした摩耗が命取りになりかねない。整備士としてのプライド高い聖は、命を預かる者として完璧を期しているので、コンマゼロゼロ1ミリの損耗にも気を遣っていた。
その分コストが嵩んでしまうのだが、操縦者のクロに否は無い。整備は整備のプロに一任するスタイルだ。
もちろんそこには聖という技術者への信頼が根底にあるのだが。
その後もEXEの動作などでいくつかの意見交換をして二人は別れた。
クロはそのまま家に帰り、聖はフェアリーの整備や調整をするのだった。
翌日。
クロは一人の女性を連れてダンジョンを訪れていた。
一緒にいるのは『神島 ひらり』という、ゼノ・インダストリーに所属するテストパイロットの一人。序列としてはクロに次ぐ二位である。
総合力で二位に甘んじているが射撃面ではクロを上回る、もう一人の天才だ。
彼女は学生時代、同級生だったクロに助けられたことがあり、その恩義によりクロの所有物宣言をして「オーナー」と呼ぶほど彼に懐いている。
クロとひらりの関係を「ひゅう、クロってばおにちくー」とからかった某幼馴染がウメボシの刑をされたのは余談である。
ダンジョン探索は単独では行わない。チームで行うものだからであり、その基本単位が二人一組だからだ。
本当に最低人数で挑むのは、フェアリーも二機しか生産されていないからである。
……それ以前のEXEは、パーツ取りなどで出撃不可能な状態になっている。
ゼノ・インダストリーの経済状態は非常に悪い。
「オーナー、いつでも行けます」
「OK。コンディション・オールグリーン。フェアリー01、鉄、テイク・オン」
「フェアリー02、ひらり、テイク・オン」
「「EXE、スタートアップ」」
専用トレーラーに乗せられていた二機のフェアリー。
それらが搭乗者を得てボイスコマンドで起動する。
主動力機関が始動し、フェアリーの全身にエネルギーが供給される。
頭部センサーに取り付けられた赤外線センサーに光がともり、耳に相当する電磁波・重力波レーダーがかすかに震えた。
関節部分のモーターがうなり声を――上げず、無音で四肢を動かしフェアリーが動き出す。
「限界時間は10hだが探索は片道3h、分かっているな?」
「イエス、オーナー」
二機のフェアリーはトレーラから降りると、ダンジョンの入り口に設置されたエントリーゲートをくぐり、背面に装備された翼状のスラスターを使い一気にダンジョン内部を進むのだった。
ダンジョンは謎の技術によって確保された特殊空間に存在する地下施設である。
ダンジョン内部は最初こそ洞窟のように岩壁であるが、1kmも進むと金属で覆われた人工物へと変わる。
洞窟の段階で高さは7m程度、人工物の通路となると6mの天井は、EXEにとって十分な行動スペースがある。
幅も10mあるので、二機は並んで機体を走らせた。
人工物に変わったところから迎撃設備があり、防衛ユニットもいる。
ダンジョン探索者にとって、ここからが本番だ。
ここで多くの防衛ユニットを倒し、その機体を持ち帰るのが彼らの仕事となる。
時々、外に出ようとする侵略用と思われる機体に遭遇することがあるが、このダンジョンの主達が何を考えているのか、地球人類は未だに分かっていない。
本気で地球侵略を考えているならすでに地球は占領されている、と、多くの識者が唱えている。
ダンジョン登場直後の技術格差を考えれば、あながち間違っていないのだが……真実に辿り着いた者は、今のところ居ないはずであった。
ただ、ダンジョン内部である程度、防衛ユニットと戦えば侵略ユニットが出てこないことは確かである。逆にダンジョン施設にダメージを与えすぎると侵略ユニットが量産されるようなので、ダンジョン探索者は戦闘記録の提出が義務づけられている。
因果関係は結果からの考察でしか無いが、大凡それが正解だというのが今の通説だ。
二人が人工物エリアを越え、もう1kmほどEXEを走らせると、フェアリーのセンサーが敵機の存在を捕らえた。
数は五つ。通路の奥、視認できない場所に潜んでいる敵を見付けた。
「ひらり」
「イエス、オーナー」
フェアリーの性能は二機とも同じである。
並んで走る片方がレーダーに敵影を捕らえたということは、もう一機も捕らえている。
クロはひらりに一言声をかけると、速度をやや落とし、ビームガンを構え、ひらりもそれに続く。
そして――接敵。
敵は外縁部に多い、偵察機タイプ。防衛戦力というより哨戒機として侵入者を補足した後は遅延戦闘を行う厄介なタイプだ。
敵もクロたちを補足しており、互いのビームが撃ち放たれた。
フェアリーのビームは敵機体を貫き破壊したが、敵のビームはフェアリーのエネルギーフィールドに弾かれた。敵、偵察機がエネルギー供給部を失いシステムダウンする。
そのまま一方的な撃ち合いで二人は残る三機も制圧した。
フェアリーの基本兵装であるビームガンは、ほとんどのEXEが装備する汎用武器と言っていい。
しかし、フェアリーと、例えばグランネクストのビームガンの間には隔絶した性能差があった。
その理由はエネルギーバイパスの性能差である。
モノポールエンジンからEXE各部にエネルギーを伝えるエネルギーバイパスはオリハルコンで出来ている。
オリハルコンは“神の金属”という呼称を与えられるほど素晴らしい金属だからこそ付いたネーミングだ。何とオリハルコンは常温超電導物質であり、電気エネルギーの伝達ロスが0なのだ。この段階で他の金属を使っている他機種とは性能が大きく変わる。
他機種が熱限界により威力が制限されるのに対し、フェアリーは、理論上だがエンジン出力のみに威力が比例するのである。エネルギーチャージから砲撃まで時間をかければ他機種でも同等の威力を出すことも可能だが、速射性能と連射性能で大きく劣ることになり、実用性が著しく低くなるのでそういった事はしない。
つまりフェアリーの瞬間最大火力は軍用機を大きく超えていた。
あとはビームガンのエネルギー許容限界が出力上限となる。
ビームガンは弾丸カートリッジ内の金属粒子に電気エネルギーを与え、レールガンで撃ち出すという構造をしている。
電気エネルギーの移動がいくらロス無しとはいえ、弾丸である金属粒子はそうもいかず、電圧をかけられた時点で発熱し、撃ち出すまでの間に砲身を熱くする。
超熱伝導金属であるルーンメタルで排熱効率を高めてはいるが、それだけでビームガン全体を作ってしまうとビームガンを持つ手に相当するマニューバに熱ダメージが入ってしまうため、どうしてもダメージを受け持つ部分を作らないといけない。
排熱問題は全ての武装における最大の問題であった。
「オーナー。MPB5、回収しました」
「よし。先に進むぞ」
クロが周辺警戒をしている中、ひらりは倒した偵察機からMPBのみを回収する。
これはモノポールエンジンの燃料、ガソリンのようなものだ。
EXEはダンジョンに出る敵と規格を合わせているので、こういったパーツは流用が利く。
偵察機は通常のEXE相手では油断できない性能を持っているが、それでも回収すべき部分というのはこれぐらいだ。希少金属の類は使っていないので、他に見るべきところは無い。
ただ、偵察機を倒すときにMPBが損傷するケースはかなり多いため、MPBを確実に回収できるとは限らない。むしろ、MPBを破壊してしまえばその段階で戦闘が終わるため、積極的に破壊する者もいるほどだ。
敵の機体数と回収した数が同じこの場合、EXEの性能と倒した者の腕が良かった。そういう事である。
ここまでの所要時間、移動を含めおおよそ15分。
二人はそのままダンジョンの奥へと進んでいく。
ダンジョン外縁部を越えると、今度は防衛エリアに入る。
通常のゲームであれば奥に進むたびに徐々に敵が強くなっていくのだろうが、このダンジョンではいきなり最高難易度になる。
環境・質・量ともに盛大なお出迎えがあるわけだ。
「敵影90。運が良いな」
「フェアリーのおかげですね」
防衛エリアに入ると、開けた100mの大部屋の先に防壁を上手く使って隠れた敵が数多く存在する。
外縁部で時間をかけるとここに集まる数はどんどん増えていき、普段、今までのEXEで戦っていた時だと120機はいるのが普通だった。
一度に相手をするのは10機に満たないが、それでも数の差が出来るように部屋は作られている。
目視できずともレーダーで位置を把握できるのだが、ここを突破するのは至難の業である。
――これまでは。
「「リミッターリリース」」
「『ドラゴンスレイヤー』起動待機。援護は任せるよ、ひらり」
「イエス、オーナー。お任せあれ。『ゲイボルグ』敵機全捕捉」
「斉射!」
「加速! 大斬撃!」
クロのフェアリーは刃の無い、柄だけの剣のような物を持って全速力を持って前に出る。
同時にひらりのフェアリーが腰のあたりにいくつもの砲身を展開する。
ゲイボルグからいくつものビームが放たれ、射線の通っていた敵と迎撃兵装をエネルギーフィールドごと全て貫いた。
そのほとんどは致命傷に至らない部位だった。それは腕に固定された武器などであり、攻撃を受けて内部に蓄えられていたエネルギーが暴発する。
それにより敵は一時的に攻撃手段を失う。
クロはその間に最寄りの敵まで近付き、ドラゴンスレイヤーを振るう。
そうすると、ドラゴンスレイヤーからビーム粒子が放たれる。ドラゴンスレイヤーは電磁加速砲身を最低限の長さに抑えた超接近用ビーム兵器だったのだ。
ビームガンに比べ速度的なアドバンテージが失われ威力が下がるが、その分コンパクトになるので携行性に優れる。また、一回の探索における連続使用回数もビームガンより上だ。
クロが切り込みひらりが撃つ。
敵の攻撃はほぼ躱し、稀に躱しきれない物をフィールドで防ぐ。
二人は流れ作業の様に敵を屠っていく。
時間が経てば増援が無限に追加されるので、殲滅速度を重要視し、多少の損耗は考えずに戦う。
機体性能差は圧倒的であり、追加戦力が来る前にどうにかする方が、最終的には利益が出る。
戦いは殲滅というより蹂躙という方が正しいほどの勢いで進む。
ものの20分ほどで、2対90という数の差を覆し、戦闘は終わった。
「目標の殲滅を確認」
「戦闘モードから警戒モードに移行します」
「では、俺が回収にまわる」
「イエス、オーナー。周辺警戒にあたります」
この防衛エリアでの戦闘は、本当に殲滅速度を優先した。
こういった殲滅速度優先の時に有効なのが『リミッターリリース』である。
通常、戦闘に用いられる兵器類にはリミッターが設けられている。
それは「使用しても本体に悪影響を及ぼさない範囲に出力を制限する」ためだ。この制限のかかった状態を「巡行形態」と呼んだりする。
逆に、「使用するたびに本体に大きなダメージが蓄積する出力まで性能を引き上げる」が「戦闘形態」というわけだ。
敵から普通にやったら避けられない攻撃をされたとき、敵の攻撃でダメージを食らうよりも無理をして自分の行動でダメージを貰った方がまだマシ、という発想である。
その上で反撃などもできれば上々だ。
命がかかっているので、時にはそういった無茶も必要なのである。
二人のフェアリーは高性能なので、引き上げられるステータスもそれ相応だ。
それが、先ほどまでの蹂躙劇という訳であった。
「オリハルコン、ミスリルは思ったよりも多かったですが、積載量が足りません。ルーンメタルを少し減らすしかないですね」
「だな。ルーンメタルはまだ在庫があったが、他が厳しかったはず。オリハルコンを最優先で構わないだろう」
戦いが終われば、戦利品の回収が行われる。
今度はMPBを無視し、状態のいい残骸から希少金属でできたパーツを中心に解体していく。
敵の増援が来るまでにどれだけ回収できるかが勝負となる。
クロが防衛ラインを作るのだが、時間はあまりない。ダンジョンに来る前にも確認していたが、優先順位を再確認し、戦利品を確保していく。
戦利品は亜空間収納、空間を捻じ曲げ見た目以上の容量を持つ収納部分にしまわれていく。
見た目以上に入るというだけで重量は変わらないが、EXEのパワーなら特に問題は無い。金属塊だけあってかなり重くなるのだが、フェアリーより重くなろうと十分に運べるレベルだ。
そうして二人は確かな戦果を得て、やって来た敵の増援を尻目に、ダンジョンから出ていくのであった。
「祝勝会ですー!」
「「「おおーー!!」」」
ダンジョンから戻った二人は、オリハルコンなど戦利品をみんなの前に並べた。
その戦果は今までの収入の10倍ほどで、支出、フェアリーの損耗による出費も倍に増加していたものの、十分な黒字であった。
フェアリー開発にかかった費用を払い終え、美鈴は独断で行った資材発注で折檻を受け、会社の仲間で集まって飲み会ができるほどの余裕ができた。
つまり、大勝利である。
何に勝ったのかは分からないが、とにかく黒字なのだから大勝利なのだ。異論は認められない。
儲けた時はみんなに還元。
苦しい事だけでなく、楽しい事もみんなで共有する。
それが小さい会社の持つべき美徳だ。
基本的にみんな酒が好きなので、ボーナス的な収入を居酒屋で還元するのが正しい会社の在り方と言えた。
「「「「かんぱーい!!」」」」
「ぷはーっ! ビールが美味い!」
「一仕事終えた後のお酒は最高ね!」
乾杯をして、各々が頼んだ酒と料理に手を付ける。
みんな、笑顔である。
「たった二機でも大勝利! さすが私の設計したフェアリーね!」
「軍の連中なら20機どころか50機分の戦闘能力ですよ! あっはっは!」
「もうウチ、これを商売にしてもいいんじゃないでしょうかねぇ!」
手に入った希少金属は、美鈴の要求を無視して半分以上を売り払った。
希少金属の名の通り、どこも品薄だから言い値で売れるといったほどにレアな金属類である。換金までの速度もスピーディであった。
少なくとも、これでゼノ・インダストリーが潰れることは無くなった。
軍の制式採用を外れたために大量生産をするのは難しいままだが、このまま予備機を作成することも可能である。
そうして数を増やし、そのまま自社トライアルと称して稼ぐことも視野に入ってしまう。
……もっとも、EXEの所持数は国により規制されているし、そういった「やる気のない」姿勢を見せていてはEXE開発ライセンスが凍結される恐れがあるのだが。
あくまで、EXEの開発・運用並びにダンジョン探索は国の制御下に置かれているのである。
「でも、資材の入手が確立されるなら、生産性の向上を図れるって事でしょう? 今度のトライアルは通るんじゃない?」
「んー、どうでしょう? 月に最低20機は、どうやっても無理っぽいですしー?」
酒が入ってはいるが、どうしても会社のメンツで飲んでいると、仕事の話が多くなってしまう。
美鈴と聖は今後の話をしていた。
「ウチの登録EXE枠って10機が限界ですし? 常に予備を残そうと思うと、8機までですし。パイロットの質も考えると、今の3倍にもなりませんよ」
「あはは。クロ君とひらりちゃんと同じ事は、ふつう出来ないわよねぇ」
ゼノ・インダストリーのエースである二人は、天才レベルの才能と能力を持っている。
たとえ同じ性能のフェアリーを与えられようと、常人に二人の真似は出来ない。
その事は現場に出ない美鈴達もよく知っていた。
一応、会社にはあと3人のテストパイロットがいるのだ。常識的な能力の持ち主の彼らが世間の基準である。
そんな彼らだが軍人でやっていける程度の能力はあるのだが、本当に二人は例外的な存在なのだ。
真似をしろ、同じ事をやれ。誰もそんな馬鹿な事は言い出さない。
「……ま、どうでもいいです」
「……飲みが足りなかったわね」
「「かんぱーい!!」」
しばらく考えをまとめようとしていた二人だが、酒の入った頭で考える事ではないと結論付けた。
今は酒を飲むときである。
二人はグラスをぶつけてから一気に杯を乾す。ゆえに乾杯。
楽しい宴は、翌日の死屍累々を生み出すまで続くのであった。
そんな楽しい飲み会が行われているのと同時刻。
とある企業では難しい顔をした男たちが本社ビルの会議室に集まり、話し合いをしていた。
「この希少金属の売却をどう見るね? フェアリーだったか。あれをバラしたという話は出ていないはずなのだがねぇ」
「それは、その」
「はっきり言いたまえ。アレは、グランネクストではできない事をやってのけるものだという結論をね」
「いえ! グランネクストが、あのような企業のEXEに劣るなど!
そう、あれは、テストパイロットの腕が良かっただけなのです!!」
ロスティル社。
軍の制式採用EXEを生産する、最大手企業。
これはその経営戦略課の面々と、開発企画局の緊急会議である。
「引き抜きは? 軍に思うところがあるという話だが、我が社であれば関係ないだろう?」
「その、断られました。今回の件以前から誘ってはいるのですが。給料を100倍にするといっても首を縦には振りませんでした」
「会社ごと買収してはどうだね?」
「あそこは株式市場に30%しか株を放出していません。買収は、不可能です」
「それでも30%を抑えれば経営に口を挟めるだろうが。我が社が直接買いたたけば面倒な事になるが、ダミーを使えばいいだろう。動いてはいるのかね?」
「いえ、その、まだ、です」
「早急に動きたまえ」
経営戦略課は、ゼノ・インダストリー買収に向けて動き出す。
ダミー企業を用いてまでの株式による買収はギリギリ合法的なやり口であるが、これは本来はあまり褒められないどころか違法スレスレの手段である。
軍事関連企業の市場独占状態は国としてはあまり気に入らない事であるため、直接吸収するという事は法により禁じられているのだ。
他にもいろいろと理由はあるが、少なくともEXEのライセンス企業に関してはそう決まっている。
共同開発などは認められているが、会社の基幹技術だけは公開しないのが通例であるため、あまり意味が無い。
技術の購入・売却も普通はしない。特に大企業クラスに地方企業が技術を売れば一瞬で潰されるためだ。
穏便な手段による技術提供など、普通はあり得ない。
「我が社でも同等の性能のEXEは開発できるのかね?」
「……不可能です」
「何故かね? 希少金属を多用した機体という話であるし、こちらでもそういったものは扱っているのだろう?」
「根本的な設計思想が違うんです。真似をするのは、難しいんです」
「ならば既存のEXEに希少金属を多用するとまではいかずとも、多少の性能向上を積み重ね、技術経験を蓄積させていけば――」
「無理なんです!!」
経営戦略課の面々に指示を出した後は、今度は開発企画局の方に矛先が向く。
経営陣はフェアリーを模したEXEの開発を技術者に命じるが、技術者は叫ぶように「無理だ」と嘆く。
「希少金属の取り扱いは難しいんです! 他の金属から置き換えればいいという話ではなく、ゼロからの研究が要るんですよ!
そりゃあオリハルコンやミスリルを扱った事はありますよ! でも、あの量を使えば金属の性質と機体バランスが崩れ、安定しなくなるんです!!」
これはあまり知られていない事だが、オリハルコンやミスリルは、一定以上の量が集まると特殊な反応を示す。
オリハルコンであれば常温超電導物質という特性に加え、重力波共振という特性が発現し自壊していく、といった事が起こりうる。
技術者の知識にあるそれを回避するための処置の仕方を考えると、どうやってもEXEに大量のオリハルコンを組み込むのは致命的なのだ。どうしてそんなことが出来るのかと頭をかきむしるほどに理解できない。
「サンプルがあっても、理論の解析にどれだけ時間がかかる事か。ましてやゼロからの開発であれば数年を貰ったとしてもできません」
技術者は泣きそうな顔でそう締めくくる。
対し、経営陣は言われた言葉に苦虫を噛み潰したような顔をした。
数年もあれば自社の評価が落ちるのは避け難く、今の地位を脅かされるというのが分かっているからだ。
何人かは、この会議でフェアリーの強奪か技術者の拉致を考えた。あとはテストパイロットを害する事か。
表のやり方では勝ち目が無いと言われてしまえば、取れる手段などそれぐらいである。
そしてそれを躊躇うほど、経営陣は甘くない。
悪辣な方法など日常茶飯事、勝つために生きる者たちなのだ。勝ち筋に全力を傾けるのに躊躇していてはこの場にいられない。
続く(嘘)




