視線が痛い……
「きッきさまあああああああああ!?」
兵士の声をきっかけにふと我に返った。
うわあ、やっちゃった。キーボードクラッシュなんて必殺技つかってしまったよ。
首を横に振りあたりを確認すると、足元には散らばったキーがそこらじゅうに転がっていた。
「やっぱり開かないよなあ……ハハハ。はい、あと一年くらい牢屋に閉じこもってます」
俺は下を向いたままその場を去ろうとした。下を向いて歩くのは、反省しているからではない。単純に兵士と目を合わさぬようにしているだけだ。
「おい、どこに行く?」
肩に錘がのっかった。
「へ? ハウスに帰ろうかと……」
ダメだ。視線を合わせたら死ぬ!!
こいつはメデューサと同じだ、目を合わせたら最後。確実に殺される。
「ハウス、ねええ? 最後の言葉はそれでいいか?」
「はい! すみませんでしたああああああ!!!」
俺はコマのように横回転をしながら土下座をきめた。
ちらっと一瞬見えた兵士の顔は人間ではなかった、角生えてる? と思うような顔。
つまり鬼の形相ってやつ。
「ちょっとさっきから何を騒いでおられるのですか? この扉が分厚いからといって騒いでもいいってことはないですよ?」
背を向けていた扉がゆっくりと開いた。
首だけを後ろに向けるとどこかで見たような女の子が扉の奥に立っていた。
透き通るような茶色の髪、キラキラと光沢をみせるティアラ。少しまだ幼さを残す身体は水色のドレスが包む。こんな高貴な格好からするに間違いなくこの子……女王じゃん。
「ゆ、雪姫様! 大変申し訳ございません!」
す、すごい! こいついつのまに人間に戻ったんだ? トランス能力値たけーな!!
だが、やはりこいつもちゃんと兵士なんだなって思う。女王と目が合った瞬間にはもう頭を下げていた。
腰を90°に曲げ頭を下げる行為はこの王国では礼儀なのだ。自身の立場をわきまえ女王とは目を合わせてはいけないというのが理由として公には通じてはいるが、本当はいつでも首を切られることを覚悟していますという意思を意味しているらしい。
まあ印象が悪いから本当の理由なんてほとんどの人はしらんだろーな。
俺がこれを知ってるのは昔にこの城の中にもぐりこんだ時にたまたま聞いてしまったからだ。
「顔を上げなさい、ルシフ。正直なところこれくらいの騒動は想定内です、そこでさっきから私の太ももばかり見ているそこの中二病が問題を起こすことは当然といってもいいくらいですから」
雪姫の目は確実にゴミを見るかのようだった。
うげ! ばれてた!?
……ん? まて。中二病が俺の固有名詞みたいになってるぞ。