勇者の真似をして勇者に殺されかけてますう!
「俺がお前を守ってやる。俺の後ろに隠れてろ……」
俺はそういい、姫を背後に移動させる。
腰には二本の刀をつけ、防具は一切つけない。
これが俺様のスタイル。いや、勇者ならこのスタイルでしょ兜なんて付けたら顔見えないし、鎧は重たくてアクロバティックな剣舞できないし。
「誰だ? お前は?」
アルマジロのようにがっちりとした黒色の鎧を身にまとい、顔面は彫刻でもされているのかとおもうほどに深く、さらに身長二メートルはくだらないであろう大男は問うてきた。
こいつもなぜか兜はつけていない。
まさかこいつも俺と同じなのか……?
だが! そんなことはどうでもいい!
名前を聞かれたからには答えてやる義務がある。
「よくぞ聞いたなあ! 大男よ!」
両腕を腰に当て、胸を張る。
俺が小さいときに読んでた本の主人公はよくこのポーズをしてたのだ。本当ならこの状態で「ガハハハッ」と高笑いをするのだが、どうもその行動は俺の中のセキュリティがOKサインを出してくれないのだ。
し、しかしそれにしても……このポーズ案外と辛いな。もともとの俺の姿勢が猫背ということもあるのか意識して背筋を伸ばしてみると結構つらいのだ。
俺も男だからなここは名台詞を言い終えるまでは我慢してやるとしよう。
がんばれ俺。がんばれ俺の背骨。
「そう! 俺の名は!」
こぶしを天高く伸ばし、親指をピンッとたて胸板うすきことこのうえない自分の胸に突きつける。
「あの……すみません……」
名前の頭文字を言い始める前に背後からの緊急停止ボタンが作動した。
これにはさすがの俺も姫だろうと関係ない!
胸を張ったままさらに、後ろへと体制を移動し。イナバウアーのようなポーズへと変更。無論、俺の背中はバキバキと悲鳴の声を上げた。
「なあに? 今いいところなんだけどお?」
「あ、あの……」
姫は視線を地面に落とした。きっとあの大男のせいだろうなかわいそうに、肩や足が小鹿のように震えてる。
「待ってろ、すぐに助けてやるから!」
魚を釣り上げた時の釣り竿のごとく、俺は体制を一気に戦闘モードに移行した。
戦闘モードって言っても通常通りの猫背に戻っただけだが。
「待たせたな! 俺の「その人は私の護衛さんなんです!!」
俺の声は完全に姫の声の背景となってしまった。
ああ、一生に一度くらい名前名乗りたかったのにな……
ん? ちょっと待てよ?
「お前今なんて言ったんだ?」
高速の180ターンを決めた後、背後にいる姫の細い肩を両手でがっしりとつかんだ。息を荒げ少女の肩をつかむ俺は間違いなく他人目から見れば、犯罪者、変質者とみられるに違いない。
それに必死になりすぎているせいか「キャッ!」というかわいげのある姫の声も今の俺の耳には届かなかった。
「俺が雪姫様の護衛人であるとおっしゃられたんだ」
またもや後ろから声が聞こえてきた。
地面が響くように低いその声は俺をフリーズさせた。
へえ。大男の正体は護衛人でありますか……つまり、勇者であると。
じゃ、じゃあ今の俺ってかなりピンチじゃないの?