表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/148

神様の葉っぱ

「ウーナの樹はね、有翼種が住む霊山の山頂にしかないの。翼を持つ神の降り立つ場って言われてて――」


 早々にとうきびの天ぷらはフィヴの胃の中に消えたが、カップケーキだけは本体を包む容器が問題で、フィヴは口に運ぶことを躊躇していた。

 別に葉まで食べるものじゃないからと言ってんのに、その容器自体をはがして食うことすら畏れ多いらしい。

 そう。畏れ多いモノらしいのだ。そのウーナっつー樹は。


「降り立った神はウーナの枝で靴を作り、果実から下界の気を体に取りいれ、葉で肌を隠すと――なに? どうしたの?」


 フィヴはカップケーキを片手に小枝で地面に解説図を描きながら、俺に一生懸命にウーナの樹について説明してくれている。けど、ウーナの実を描き、次にウーナの葉を描いて見せてくれた時、俺の脳裏にとある場面が浮かんだ。その瞬間、変な声が喉から漏れ出た。

 だって、どー見てもウーナの実はしずく形をしたイチジクだし、葉も三つ又に分かれた大きなイチジクの葉だった。

 神様は、その葉で肌を隠すって――それを聞いた瞬間、頭の中に股間をイチジクの葉で隠した某楽園の男女が思い浮かんで消えなくなった。

 なんで『服』とか『衣』とかじゃないんだよっ。

 『肌を隠す』であって『股間』じゃないと言われればそれまでだけどさ、肌を隠す羞恥心や理性があるなら、まず最初に隠すのは! と考えちゃうと妄想がとまらん!


「やっ、な、なんでもない……うん」


 胡乱な目つきで俺を見上げ、納得してないけどって感じで話を進めるフィヴ。

 その目、兄ちゃんとそっくりだわー。


「そう……。でね、この世界に最初に踵をつけた神様が私たちの祖なの」

「ぶふぇ!」 


 なぜ! いきなりそこにいくんだ! 有翼種の祖先じゃないのか!?

 フィヴたちすべての祖先なのか!?

 三種の人たちで世界が始まったんじゃないのかよ! おい!


「なーによ!? さっきから!」

「だってさ、三つの種族がそれぞれの国を神様から用意してもらって暮らしてんだろ? なんで始祖が同じなんだよ!」


 俺の指摘に小首を傾げて少し考え込むと、ひらめき顔でにっこり笑った。


「ん~とね、初めてこの地に降り立った神様はお一人だったの。翼と言っても有翼種の持つ羽だけじゃなくて……様々な形や色や感触の翼をたくさん持っていたの。それで、神様は頂上から霊山の岩をあちこちに投げて国を作り、その一つ一つに翼を毟り取って投げつけたのよ。薄い皮膜に鱗のついた羽は竜種に。被毛の生えたしなやかな翼は私たち獣種に。透明な粘体と羽毛の翅は有翼種に。生き物ができた後、神様はウーナの樹を指さして『私がこの樹に同化したら、その実をみんなで分けて食べろ』と言い残して消えたの」


 え? 翼のある神様ってこっちの天使みたいなんじゃなくて、山ほど羽を担いでたのか? あ、こっちにもいっぱい羽が生えてる天使が想像されてたっけ……。あれが色んな材質の翼で――なんか、コワイ。


「神様が混じったウーナの実を食べた生き物は、どんどんと増えて行って、この世界の住人になったの」


 多産や豊穣・不老不死の象徴と言われるイチジクの実。それと同じような効果をもたらしたウーナの実。

 なんだか妙に合致してる部分が多いなぁ。

 ひょっとすると、レイモンドの世界より俺たちの世界に近いのかも? おもしれー。 


「だから、ウーナの葉がここにあってカップケーキの容器になってるってのは信じられないってわけかぁ」

「そう。ウーナの実も葉も有翼種の国の特産ではあるんだけどね、高級品だからそんなに出回らないのよ。手に入れても、こんなふうに勿体ない使い方はしないわ」


 神様の樹の葉っぱか。


「通常は何に使われるんだ?」

「そうねぇ。葉はお薬の材料で、実は高級な料理の材料かな?」

「薬の材料……」


 俺は呟きながら、フィヴの手にあるカップケーキを見つめた。

 急に心臓の鼓動が激しくなる。


「どんな薬になるんだ?」

「どんな怪我もたちまち完治するって話よ。だから、王様や大金持ちしか買えないって――あ……あれ?」


 畏れ多いどころじゃないぞ。フィヴよ。

 そんなファンタジーの冒険者が捜し求める万能薬(エリクサー)みたいな薬の材料が、今俺たちの前にあるんだぞ。

 そして、だ。

 それを材料に作られた菓子を、俺や中井たちが食ったら……?


「フィヴ! そのウーナの葉を使ってお菓子を作ってくれ」

「でも、これは容器として使われてて」

「きれいに洗えば大丈夫。んで、それを使った菓子を食ったら、もしかしたらチョリ師匠とご対面できるかもだぞ!」


「うん! がんばる!」


 おい! チョリの名が出た途端に、迷いは吹き飛んだのかよ!


「おう。頼む。全部使えと言わん。味と風味のバランスを考えて使ってくれ」

「ええ。そこは大丈夫よ。お薬の材料だから、たくさん使ったりできないのは知ってる」


 良薬口に苦し、だもんな。そんなもんがガバガバ入れられた菓子なんて、もう菓子じゃないもんな。

 さーて、魔力の代わりになる、フィヴの世界特有の物なのかどーか。


 ところで、いまだにイチャイチャしてる後ろのお二方は、一体何のためにここにいるんだ。

 イチャイチャは家に帰って――そだ!


「なあ、ところで後ろの建物ってなに?」


 やっと、俺の意識は丸太小屋に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ