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残念猫耳美少女!

 真っ先に俺の目を引いたのは、彼女の目。ケモ耳女子は、綺麗なオッドアイだった。窓の隙間から覗き込んでいた右目はハシバミ色で、左目は空みたいな透き通った青だった。

 そんな両目の下に薄くソバカスが散っていて、驚くくらいに色白の肌につんと上向きのすっと通った鼻梁、そしてきゅっと端が上がった唇が引き結ばれていた。

 すんげー美人さん。可愛いじゃなくて美人。その顔を、銀に近いペールブロンドのロングヘア―が包み、神々しいくらいに美人度を高めていた。

 そして、俺の一番の注目点。両側頭部に突き出した猫耳。髪と同じ色合いの長めの被毛に覆われた、先が丸くカーブしてる少し大きめの猫科の耳が、綺麗な髪の間から生えていた。


 オッドアイの西洋美少女の頭に猫耳。やー、夢見てんじゃねぇ?と自問自答してみたが、どう見直しても幻じゃなかった。

 ただ、惜しいことに男物みたいな質素で暗い色の薄汚れた旅人姿で――――あのファンタジー物に出てくる茶色やアーミーグリーンの上下にぶっといベルトを締めて、色褪せたフード付きマントを纏っているってな格好。あれがカッコよく見えるのは、マンガやアニメ補正だからだな。

 現物を見ると、せっかくの美人が残念美人のホームレスにしか見えない。だって、格好もだが、全体的に埃っぽくてよく見ると粉ふき芋みたいに土埃に塗れて白茶けている。少し前までフードを被ってたおかげか、顔だけは被害を免れてるが、手なんて土いじりした後みたいにカーキ色だぜ。

 あーっ、風呂に突っ込みてぇ!

 しかし、それだけに厳しい世界なんだなと、頭の隅で思った。


「一旦窓を閉めるけど、ちょっと待っててな」


 それだけ言って、返事を待たずに窓を閉めた。

 営業中の窓の外を確認して、俺を見てすぐに寄ってきたお客さんの相手をして、それから大き目の陶器のマグカップに氷を入れてリンゴジュースを注いだ。


「ほら、これ飲んで」


 細めに開けた窓から彼女とその周りに人気が無いのを確かめると、半分ほど開けてマグを差し出した。

 じりじりと寄ってきて、さっとマグを搔っ攫うと、鼻を近づけて匂いを嗅いで…まぁ、人間もやるけど頭上の耳があちこち向いてるのを見ると、本当に猫だなと。

 イイ香りに恐る恐る口をつけて一口飲んで、ぴゃーって感じの目と耳と尻尾の競演を見ました。隠れていた尻尾が、一気にマントの裾を引っ張り上げてるのを見て、俺は思わず噴き出した。

 そこからぐぐっと雄々しく飲み干して「あ~っ!」と声を上げ、満足そうに目を細めた彼女にまたまた笑った。なんだよー、美人で可愛いのに、なんて男前なんだ!

 これがそこの世界の女子力なのか!?嫌じゃないけど、なんだか何かに負けたような気がするぞ…。


「ども、ありがとう。…いくら?」

「いや、ここのことを黙っててくれたらタダにしてあげる」

「うん! いいわよ。黙っててあげる。で、本当にここはなんなの?」


 ぐっと突き出された空のマグを手を伸ばして受け取り、ちょいちょいと手で招いてみた。警戒している雰囲気は少し緩んだみたいだけど、まだ眉間が寄ってるな―。でも、ここからは小声で話さないと、人の耳目に引っかかりそうで怖い。

 俺の誘いにそろそろと寄ってきて、ちょこんと窓枠に指先をかけて覗きこんできた。でも、高さがあるから背伸びをしてやっとって感じかな?

 

「だから屋台。ただし、店の中は君のいる世界と違う世界。わかる?異世界!」

「お兄さん、何言ってんの?頭おかしいの?」


 おい! 鋭い突っ込みだな! ただで美味いモン飲ませてやったお兄さんに対して、ちょっとは真綿に包んで返すってことはできないの?

 ……泣くぞっ。


「うがっ!それならさっきの飲み物、飲んだことあるのかよっ!」


 まぁ、分かるよ?レイモンドさんだって、最初からすんなり信じてくれなかったさ。俺ですら、頭と目が可笑しくなったんじゃないかと混乱したしさ。

 でも、真実なんだ。俺は君の世界の住人じゃない。

 俺が勢いで返したことに、ケモ耳女子はぐっと唇を噛んだ。

 もしかしたら、彼女の世界にもリンゴに似た果物は存在してるのかも知れない。でもそれを絞って、ヒエヒエで出すことは簡単じゃないだろう。

 その上、彼女から見ると、俺の店は大木の中だ!(笑)


「…飲んだことない…」

「だろー?ほいっ、次。これは食ったことあるか?」


 ハンバーグの付け合わせに揚げてあったポテトフライを、一本摘まんで彼女の口元へ差し出した。何の躊躇も見せずにぱくりと口を開けて食いついた。


「ん~~~~~っ!んんっ!んぁ」


 あのー……美人な猫耳の雛鳥が口開けて催促してますが、マジで餌付け乙なんでしょうか?その上、可愛いく尖った牙が見えてますが、それで噛まれたら穴が開きそうですが?

 仕方なしに、冷えて商品にならなくなった俺のポテトフライ(おやつ)を小袋に入れて出してみた。

 やっぱり、こっちでも変化したよ!紙袋が謎の葉っぱで作られた容器になった!こっちの異世界は、レイモンドさんトコより少し文明的には下かな?


 そして、埃だらけの美少女はポテフラ銜えて、「ん~ん~」言いながら美味さに興奮してクルクル回ってますよ。

 美味いか、そうかそうか。うひひ。


「あ、今日はこの辺でな。また明日―」


 お客様がご来店だから、焦りながらちらっと手を振って窓を閉めた。あちらからもこちらからも、見られちゃ困る窓の外。お客さんが覗きこんだら、反対の窓の外に向かって独り言を呟いてる不審な店長にしかみえないだろうし…。

 「いらっしゃいませー」と明るく声を上げて、新たなお客様を迎えた。俺のメインはこっちの世界だ。あちらはおまけみたいなもんで、顧客獲得のために俺が戦うのは、俺が今居る世界だ。

 まぁ、現実は手が回らないってだけなんだけどね。


 その日の出来事は、もちろんレイモンドさんの手紙に詳しく書いたのは言うまでもない。

 日本人のカルチャー慣れした感性なら「へー」で終わるだろうが、人間の頭に獣の耳が生えてる人種なんて、絶対にその目で確かめない限りは信じないだろうさ。

 だから、真偽はともかく面白いことがあったって話題の一つとして書いた。真面目なレイモンドさんの返事が楽しみだ。きっと、俺の過労が心配だと書いてくるんだろうな。


 ちなみに、彼には俺の年齢を教えていない。それは何故かと言うと、悔しいからだ…。コーカソイド系な彼のルックスはどうみても俺より年上に見えるし、何しろ兵士として鍛えてるから逞しいし、俺より背が高ぇ!

 それに、彼も俺をすんなり年下だと思い込んでるみたいなんで、そんな彼に俺の方が一つ年上だ!とは、なんか情けなくて言えないんだよねぇ。だから、そっとしておいてくれ。


 さてさて、猫耳女子は何歳なんだろう?

 え?女の子の年齢を気にするもんじゃないって?いや、よくファンタジー物にあるじゃん。見た目は若いのにロリバb…じゃない、成長速度が遅くて長寿な種族とか。彼女がそんな種族なら、子ども扱いは悪いかな?と思っててさ~。

 ほんと、いくつなんだろ。


誤字訂正 2/7

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