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……ハーレム?

 泣く。

 財布が痛い。懐が寒いどころじゃねぇ。

 これがさ、加害者が修理代や賠償金を払ってくれるってな話なら、俺もしょーがねーなーですむんだ。でも、加害者はいても支払いなんざしてくれる訳ねぇし、相手は異世界在住だから請求すらできねぇ。

 結局は、誰だか分からんヤツに何らかの凶器で破壊されたとしか言いようがなく、自損で保険を使うことになった。次の車両保険の更新が怖いっす。

 修理工場の社長さんであるシノさんに、なんとも呆れたっつーか憐れみのこもった目で見られて情けなくなった。


「まぁ、四六時中走らせてるような営業車じゃ、よくあることだ。まぁ、ほとんどが不慮の事故だがな。特殊加工のガラスだが、届いたらおまけにフィルム貼っといてやる」


 よくあるのは、相手がわからない被害ってことで、故意に破損させられることだけじゃねぇって話。路上に落ちてた重量物を踏んじまってパンクやタイヤが弾いた石がフロント直撃やら、駐車中の当て逃げとかな。


 シノさんには平身低頭で礼を言って相棒をあずけ、その足で最寄り駅に向かった。いきなりの数日間の休業に、がっくり肩を落として歩く。

 ガラスが届くまで応急処置で営業はできないかとシノさんに相談してみたが、それでも二日はドック入りが必要だった。

 家屋と違って移動車だ。窓ガラスを撤去して板を打ちつけてOKってわけにはいかない。ニコイチのきく純正部品じゃなく特注だから、間に合わせのガラスなんてない。営業窓とは言え、パトロール中の警察に見られた場合違反にならずとも注意は受けるだろうってことで、それなりに体裁を整えておいたほうがいいということになった。


 久しぶりに乗る電車に揺られて、本当に久しぶりに実家へ帰省する。一時間弱の乗車は懐かしくもあり、やるせなくもあり。

 突然の帰省に母は「あらそう」で終わるだろーけど、親父はなぁ……。


「あらー? いきなりね? でもちょうど良かったわ。運転手して」

「はぁ!?」


 「ただいまー」と声をかけながら、玄関に入った途端にこれだ。

 珍しく着飾った母が、今まさに靴を履きかけてる姿勢のまま、俺を見て言った。


「どこ行くんだ?」

「佳奈ちゃんと冴子さんと三人で、クラシカル東上でデザートバイキング」

「うぐっ」


 聞いた瞬間、口の中が甘ったるい嫌な錯覚を起こした。

 うわーーっ! 


「じゃ、じゃあ、送迎だけ……」

「あんたもお供よ。久しぶりなんだから、親孝行しなさい」


 甘味食い放題のお供の、どこが親孝行だっつーの! 俺が甘いものは苦手だって知ってるくせに。これは嫌がらせだ。家に寄りつかない一人息子苛めだ。

 俺の顔がすげー嫌だって訴えてたんだろう。母は苦笑しながら、俺に車のキーを手渡して肩を叩いてきた。


「大丈夫よ~。スイーツだけじゃなくてピザやクレープもあるって話だからぁ」

「冴子おばさんも甘い物が苦手だったんじゃ……?」


 冴子おばさんは、ゴリラの敦と剛腕獣医・佳奈ちゃんの母親だ。母や娘の佳奈ちゃんより小柄で可愛らしいオバサンなのに、酒豪でクールな女性だ。


「冴子さんが嫌いなのは和菓子。餡子とかねりきりがだめなのよ。あ、あとはお饅頭の甘い皮」


 なぜそこまで詳しく解説するんだ。

 

「あんたみたいに洋菓子中心に甘い物全般じゃないから、今日は楽しみにしてんのよ~」


 うわーっだよ。マジうわーっ。

 俺はさ、美味しそうに食ってる顔をみるのが好きだ。自分が作った物だけじゃなく、誰が作った物であってもさ。

 幸せそうな顔で食ってる人たちと一緒に飯を食うと、俺も幸せな気分になるから。

 でもなー、甘い物を目の前に積んで大量摂取しながら浮かべる幸せそうな顔は、俺にはどうも理解できないし胸やけしてくる。

 車のキーをポケットにしまい、助手席に母を乗せて親父の実家へ向かう。


「ところで、今日はお店はお休みの日?」


 やっとそこに意識がいったんかい!


「営業車が自損故障したから臨時休業。三日後に再開」


 淡々と主要部分だけを簡単に告げる。

 長々と説明しても聞き流してるし、耳についた単語だけ拾って勝手に『理由』を作って騒ぐからな。


「だから言ったじゃない。中古なんてだめだって」

「中古だから故障したんじゃなく、何かぶつけられて窓ガラスが壊れたの! 中古云々は関係ないの!」


 ほら、な? 

 そりゃ新車が買えるなら買ってたっつーの。中古であっても借金しなきゃならんかったのに、新車を買ってたら呑気に臨時休業なんて言ってられない。今頃は中井んちでバイトしてるぞ!

 なんで、オカンって生き物は想像逞しいんだっ。


 実家前にはすでに母娘が待ち構えていて、俺んちの車を見つけると手を振ってきた。


「あれ?了ちゃん、どーしたの?」


 佳奈ちゃんが後部座席に乗りこんできて、運転席に俺をみつけて声をかけてきた。


「あ、こないだはどーも。実はさ――」

「自分で事故って廃車にしたんですって」


 ……。事故まではわからんでもない。が、廃車はどこからでてきたっ。


「え? あのキッチンカーだっけ? 廃車?」

「違うっ! 誰だかわからんヤツに石ぶつけられてさ、営業用のガラス窓が割られたんだよ。だから、修理にだしてるとこ」


 次に乗りこんできた冴子おばさんが、目を三日月にして笑いながら俺と母を交互に眺める。


「それで、臨時休業して帰省したわけね。了ちゃんも大変ね」

「お久しぶりっす。ほーんと大変っすよ。当て逃げみたいなもんだから、自損扱いになるし……」

「営業用のって、あのおっきなガラス窓だよね?」

「そそ。開閉できる二枚をやられたんだよー」


 おーし! さっさと現場へ到着して、話題のネタ扱いから解放されよう。

 このままじゃ、生活すべてを根掘り葉掘りされそうだ。両手に鬼百合とスズランだな。

 

 

誤字修正 6/21

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